第4話 雰囲気が一変した
エレベーター前についた。振り返って人数を確認…40人、乗れないでしょ?と思ったんだけど、エレベーターが一斉に開いた。5基あってそれが同時。なんか操作してる?まあ、警察の一番上だって言うし当然かな。
にしては全員見事に動かない。絶対僕を逃さない気なんだろうなぁ、逃げないってば。鹿島さんにバッグ預かってもらってるんだからなおさら逃げないアピールしてるのに…
「ほら貴方達、石川さんが困るから部署に戻りなさい。男性不敬罪よ、ほら早く」
なんだかしょんぼりしながら去っていく警察官たち。男性不敬罪?聞いたことないなあ。いつの間にそんなものが…?
「では、石川さん、行きましょう」
「あ、はい」
「私もお供してよろしいでしょうか?保管省のあいつらがセクハラしたらいつでも逮捕できますので」
「あいつらにセクハラなんて通用しないわよ。保管省の正当な行為だって散々主張してきてるじゃない」
…男にセクハラ?逆じゃなくて?
エレベーターは1階を超えて地下に。来た時1階の玄関から入らなかったっけ?ドアが開いたら、また女性が。2人立っていた。目つきがいやらしい中年女性だ。身長も高くない、ただ、すごく気持ち悪くて嫌だ。拒絶できるなら全力で拒絶したい。その2人が僕に声をかける。
「あなたが保護された男性?一人で外に出るなんて、こんなに怖いおばさんに声を掛けられるのよ?周りにしっかり助けを求めないとダメよ?」
視線は凄く嫌なんだけどかけられた言葉は優しい。もしかしてわざとなの?
「そうよぉ、女を甘く見るとこうなっちゃうんだからぁ」
と言って何か嫌な気配がしたのですぐさま掴みかかり腕を裏に取り、
「何をしようとしましたか?」
と殺気をたっぷり込めて尋ね、足を払って床へ倒し肩の関節を『痛みが激しい方法』で外す。手に持っていたのは『スタンガン』。女性の護身具だけど、残念ながら僕にそのスタンガンは通じない。散々打たれまくってるから慣れきっちゃってるんだ。
「こ、このぉ…」
「ねえ、男性にそれは随分な振舞いじゃないの?男性保管省がそれを許すなら警察庁も黙ってないんだけど?」
睨みを利かせる鹿島さん。教科書が折れちゃうから腕で抱き潰さないでほしいんだけどなあ。
「鹿島警察正、こいつはぶち込んでいいわ。今の『未遂』行為を越権と認め『昨日付け』で懲戒解雇処分とします。アンタはもう男性保管省の人間じゃない、ただのババアだわ」
「なっ!」
「男性保管省が男性に手をかけるなんてそこらの女と同じじゃないの。あなた『ソレ』で今までどんだけの男を泣かせたの?まあ、詳しくは警察庁にお任せするわ、この女はもう男性保管省の人間じゃないから」
「では、緊急逮捕しますね」
てきぱきと行動が進みいつの間にかやってきていた警察官に連行されていった。
「…常習犯でした?」
鹿島さんが嫌な視線を送っていた女性に尋ねて、こう答えた。
「あれだけじゃないわよ。男性保管省を盾にした愚かな女共、警察庁、いえ全省庁含めて実行者や内通者がいるはず。鹿島さん、協力してもらえないかしら?もちろんその子の保管、保護も私が全責任を持って全面的にサポートすると約束するわ」
なんか話が進んでるけど、僕はこの会話を聞いてていいんだろうか?なんだかのっぴきならない事情を含んでそうな会話なんだけど。
「そうねえ、石川さん次第かな」
僕が関わることになるんだ、よくわからないけど乗り掛かった舟なのかもしれない、なら協力しよう。
「よくわかりませんけど僕は協力しますよ」
揃ってえっ?っていう顔されてもなあ…言い始めは貴方達なんだけど。
「あの、石川君?ホントに協力してくれるの?」
「ええ、乗り掛かった舟ですし協力は惜しみませんよ」
さらっと君づけになってるけど、まあ女性に頼られて嫌な男はいないでしょ。
「もちろん鹿島さんが協力してくれるんですよね?」
「え!?」
あれ?違うの?
「あー、まだ石川君に詳細説明してないんだわ、ここから先は男性保管省のお仕事になるんだけど、一応私が説明役になるのよね。保管局長、もちろん私が引き続きでいいのよね?」
「いいわよ。石川香さん、身柄は一旦我が男性保管省が預かります。事情は速報で聴いてるから、詳しい事は鹿島警察正に聞いてくれるといいわ。私はこういうものよ」
とサッと名刺を渡された。見てみると、
【男性保管省 本省保管局長 石島美代子】
と書いてある。裏にも書いてあって、
【男性保管省 本省執行部 部長 秘密よ】
と手書きで書かれていた。裏の顔も持っている、名刺の裏に書くという事は僕、相当信頼されているんだ。まあ裏の事は伏せておくとして、だ。
「あの、男性保管省…ってなんでしょう?僕はそういうの聞いたことなくて…」
少なくとも僕の中では聞いたことがない省だ。
「まあ、詳しくは移動中に話をしましょう。鹿島警察正、いえ『カズ』ちゃん、お願いするわよ」
「あー!折角ピシッと決めてるとこなのに!『ミヨ』さん人が悪いー!」
「素が出てますよー、いいんですかー鹿島和子警察正ー」
なんか急に空気がふんわりした?でも、さっきよりはずっといい。さっきはなんか空気が固くて息苦しさを感じたくらいだから。
「はぁー…僕は今の雰囲気の方が楽です、皆さんわざと雰囲気固くしてたんですか?」
尋問?取り調べ?中ずっと鹿島さんの隣にいた女性警察官に聞いてみた。
「あはは、男性に対しては気丈に振舞う、が『一応』礼儀なんですけどねー、うちのセンパイがすいません」
と警官帽を被りながらお辞儀する。場合によっては失礼とか間違いなのかもしれないけど、僕はお辞儀をもって返す。
「いえ、僕の勉強不足だと思います、すいません」
「とんでもないです、まあ、とりあえず固いのは石川さんが苦手みたいなので、ちょっとセンパイ聴いてますー?」
「え?あ、ゴメン唯ちゃん聞いてなかった」
「このセンパイ、すぐ素を出しちゃうから滅多な事では男性に関わらないようになってたんですけどねー、まあ石川さんがこういう空気の方がいいならセンパイ以上の適任いないですよー」
「ねえ唯ちゃんサラッと先輩下げるのやめて」
「愛ゆえですよー」
「あんたたちはホントに学生気分抜けてないわね、隙を作ってすぐに飲まれちゃうのは良くないわよ」
「はーい」
「気をつけます、すいません」
「え、石川さんは悪くないですよー」
「あんたも悪いと思ってるんなら気をつけなさいよ。わかっててすっとぼけてるのは知ってるんだからね」
「私くらい抜けてた方が石川さんが楽なんですよー、ね?」
「実はこっちの方が気楽だと思われるべきじゃなかったんだけどなあ」
「あはは、まあとりあえず車に移動しましょー、運転どうします?私かセンパイになると思いますけど」
「唯ちゃんはどちらがいい?」
「ウチの車で行けばいいじゃない、男性保管省の車なんて滅多に乗れるものじゃないわよ?」
「あ、『一応』局長だもんね、運転手付きは当たり前か」
「一応は余計よ」
僕は会話に割り込めない、割り込みようがない。話がさっぱりわからないのでこういう時は黙っておくのが1番いいんだ。車に案内されて乗り込むと、両方ついて僕が真ん中、目の前に石島さんが。なんか今日はやたら女性に囲まれる日だな。車が動き始めて石島さんが口を開く。
「さて、先程はごめんなさいね、気持ち悪い目つきしてたでしょう?」
あぁ、やっぱりさっきのはわざとだったか。ならあの手の炙り出しだったのかな?だったら僕をどんどん使ってほしい。男女問わずあんな手を使うのはいけないことだ。僕に対してならおそらく大丈夫だけど他の人なら『スタンガン』だって危険な道具だから。そういう意味も込めて僕は言う。
「僕をダシにしてくれていいですよ、学校とバイトの時間調節しなきゃいけませんけど」
学校は今日無理だと判断、こんな都会から学校がどれだけ離れてるかわからないし、そもそも僕はどうやって帰ればいいんだろう?定期が違うみたいだから交通費がどれだけかかるかわからないし、そもそもここがどこなのか把握出来てない。現状も把握出来ていない状態で下手に動くと面倒な事になるので、携帯で連絡しておこうと思った。ジーンズに入れてある携帯を取り出すと、圏外。こんな都会で圏外?
「どうしたの?」
「いえ、こんな都会なのに圏外なのかと思って」
「圏外?あー、そうだよね、ねえ石川君。回線はどこ?」
「ここです」
と設定画面を出して回線業者の名前を見せる。
「やっぱりねえ...ちょっと携帯借りるね」
携帯を渡して、やっぱり?どういう事だろう?と考えてる間に。
「異邦者ね」
と石島さんも納得した顔。異邦者?え?ここ日本だよね?日本語話してるよね?
「石川さん、落ち着いて聞いてねー、まずは深呼吸しましょー」
と鹿島さんの後輩さん?唯さんが言ってくれた、唯しか聞いてないな、後で聞こう。混乱しようとしてる僕の脳を無理矢理落ち着かせるために深呼吸をする。念の為7回して落ち着かせる。もちろん落ち着く訳がない、ただわかるのは、『僕の世界観が変わるかもしれない』という不安感だけ。




