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陽だまりの庭で、聖女は黒猫と生きる  作者: Koro


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第6話 ロザリア視点:分岐しなかった休日



長期休暇の話を切り出したのは、私だった。


「皆で、少し遠出しない?」


そう口にした瞬間

胸の奥で何かが正しい位置に収まったような気がした。


乙女ゲームでは、そうだったから。


長期休暇は、ただの休みじゃない。

距離を縮め、関係が変わり

誰と誰が、どんな未来を選ぶのか――

その分岐に立つための、大切な時間。


リリアは、まだそこに立っていないだけ。


私が物語を変えたのなら整える責任がある。


そう思っていた。


旅先は穏やかで、空は高く

不安になるほど何も起こらなかった。


休暇は“皆で過ごす時間”だった。


確かに、”皆で”そう言ったわ


それでも……きっかけさえあれば……と




リリアは、誰の隣にも行かなかった。


誘われれば丁寧に笑い、会話はするけれど

踏み込まない。


気がつけばいつも、少し離れた場所で――

黒猫と並んで、景色を眺めている。


「……楽しそうね」

それが、少し胸に刺さった。


思わず漏れた自分の言葉に驚いた。



ユリウス様は、婚約者の私の隣に


セドリックは、義妹の様子を見守り


カイルは、護衛として周囲を警戒していて


フェリクスは、興味深そうに“聖女”を観察


ルネは、正しい距離感を保っていた。


――誰も、不満を言わない。


誰も、動かない。


それが、こんなにも落ち着かないものだとは思わなかった。




乙女ゲームでは、ここで何かが起きる。


小さな事件。

偶然の二人きり。

心拍数が上がるような、選択肢。


でも、この休暇には

何も起こらなかった。



代わりに起きていたのは――

ただ、穏やかな時間。



リリアは、よく笑っていた。


誰かに向けた笑顔ではなく

誰かを期待した笑顔でもない。


隣にいる黒猫に話しかけ

返事がなくても気にせず

風や光を楽しむような笑い方。


……まるで。


最初から、この時間だけで満たされているみたいに。



「マスコットキャラクターだったはずなのに……」


ふと、そんな考えが浮かぶ。


乙女ゲームでのノワールは

明るくて、人懐っこくて、

皆に可愛がられる存在だった。


でも、目の前の黒猫は違う。


誰にも懐かない。

誰にも媚びない。


それなのに……


リリアの隣だけは譲らない。


きっと、ゲームと少し違うのは私が物語を変えたせいだ。



夜、一人になってから

私は今日のことを振り返った。


誰も選ばれなかった。

誰も傷つかなかった。

誰も失わなかった。


それなのに……

胸の奥に残る

この感覚は何だろう。


私が用意した“舞台”は意味を持たなかった。


けれど


リリアは一番楽しそうだった。



それがらどうしてこんなにも引っかかるのか――

まだ、言葉にできない。



「……私は」


静かな部屋で小さく息を吐く。



「何を“正しい物語”だと思っていたのかしら」


答えは、出なかった。


けれど確かに

物語は――

私の知っている形から、

もう、遠く離れている。



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