表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽だまりの庭で、聖女は黒猫と生きる  作者: Koro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第4話 ノワール視点:ただ一人の聖女

――――――――――


リリアの足音がする。

小さくて軽い癖に、俺にはどこに居ても分かる。


小走りで俺を探しながらキョロキョロしているのが見えた。

……どんだけ探してるんだ、まったく。


わざと背後に回って鳴く。


「にゃーん」


「もう、ノワール。驚かせないでよ」


驚く方が悪い。

俺を見失うなんて、まだまだ甘い。


「今日はね、授業が早く終わったの。ノワールに会いたくて探してたんだよ」


……ほんと、こいつは。

尻尾が勝手に機嫌よく揺れるじゃないか。


まだ人の気配がする。

俺は短く鳴き、最近見つけたお気に入りの場所へ歩き出した。


「ふふっ、待ってよノワール」


リリアが嬉しそうに、俺の後をついてくる。


この学園は無駄に広い。

庭園を抜け、小さな森の奥に進むと、陽光の差す静かな空間がある。

俺とリリアだけの場所──“二人の縄張り”だ。


リリアは芝の上にぱたりと寝転がる。

その腹の上に、俺はひょいと飛び乗って丸くなった。


リリアの体温は、俺の持つどんな魔力よりもあったかい。


「ねぇ、ノワール。ロザリア様がね、長期休暇は“皆で過ごさない?”って誘ってくれたの」


……また、あの女の話か。


尻尾でリリアの腹をぺしぺし叩いてしまう。


あの女からは“普通じゃない匂い”がする。

焦げた記憶みたいな匂い。

後悔と執着が混ざった、厄介な匂いだ。


リリアを見る時だけ、その匂いが強くなる。

あれが、俺はどうしても嫌いだ。


リリアを見ているようで、違う誰かを見ている目。

自分で選んだ道のくせに、被害者ぶる気配も気に食わない。


「……やっぱり嫌かな? ノワールといろんな場所に行きたいし、見てみたいのに」


本当に、リリアは俺の弱点だけ正確に突いてくる。


聖女と二人で行ける場所は限られている。

だが、ロザリアがいれば安全な範囲は広がる。

それだけは確かだ。


――なのに。


“俺と行きたい”と言った。


ただその一言で、全部どうでもよくなる。


「……はぁ〜……わかったよ……」


ったく……

俺は本当にリリアに甘い。


「本当に? 嬉しい!! ノワールとお出掛けだね!」


……“皆で”って意味、絶対わかってない。

まあ、いい。


リリアが楽しそうに旅の話をする。

その横顔は、聖女だとか運命だとか、そんな大層なものとは無縁の、

ただのひとりの少女の顔だ。


あの女がリリアに向ける妙な視線に、俺は気づいている。

リリアは気づかない。

気づかないまま、優しくしてしまう。


「あの女も、放っておけばいいのに……」


リリアは笑って言う。


“ロザリア様は優しい人だよ?”


その言葉だけで、俺の胸の奥に熱が灯る。


リリアは、聖女という“役割”なんかよりもっと大切なものを持っている。

誰かを救いたいからじゃない。

誰かが困っていたら、ただ自然に手を伸ばす。


そんな馬鹿みたいに優しいところが、

俺がリリアから離れられない理由のひとつだ。


俺は、本当はただの猫じゃない。

聖女と共に生き、聖女と共に死ぬ存在。

リリアの力が解放されてようやく、ほんの少し喋れるようになった。

ほんの少し護る力も使えるようになった。


けれど、リリアはそんなこと気にしない。


“ノワールと一緒にいられるなら十分だよ”


そう言って、あっさり笑うんだ。


俺はそこにいるだけでいいのに、

それだけでリリアは幸せそうに笑う。


「……リリア」


胸の奥がじんわりと熱くなる。

まるで魔力がゆっくり満ちるみたいに、体が軽くなる。


俺は、この笑顔を護りたい。


聖女だからじゃない。

救世の象徴だからでもない。


ただ──


俺だけに向けて笑う、この少女の笑顔を。


ずっと、いつまでも。


――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ