第13話 同じ景色
ロザリア様と話しながら、学園の回廊を歩いていた。
「最近、少し忙しそうね」
そう言われて、私は首を傾げる。
「そうでしょうか。いつも通りだと思います」
授業も、教会も、特別に増えたわけじゃない。
ただ、やることが途切れないだけだ。
ロザリア様は少しだけ困ったように笑った。
「……そう言えるのが、あなたの強さね」
その言葉の意味は、よく分からなかった。
けれど、悪い意味じゃないことは伝わってきた。
「学園を卒業した後のこと、考えたことはある?」
「うーん……」
少し考えて、首を横に振る。
「まだ、あまり。今が楽しいので」
嘘じゃない。 先のことを考えるより、今日を過ごす方が大事だった。
ロザリア様は何か言いかけて、結局、何も言わなかった。 代わりに、静かに頷く。
「そうね。それでいいのかもしれないわ」
別れ際、軽く手を振られて、私は中庭へ向かった。
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帰り道は、いつもより少し遠回りした。
ノワールは、当然のように私の隣を歩く。
人の歩幅と、猫の歩幅。
違うはずなのに、不思議と合っている。
石畳の音。 風に揺れる木々。 夕方の光。
「今日は、空がきれいだね」
話しかけると、ノワールは尻尾を揺らした。
中庭の端に差し込む光が、ステンドグラスに反射していた。
色とりどりの光が、地面に落ちている。
「ほら、ノワール。あそこ」
私はしゃがんで、ノワールを抱き上げた。
少し高い位置からなら、よく見えると思ったから。
ノワールは一度だけ、短く鳴いた。
……いつもの声と、少し違う。
「……嫌だった?」
そう聞くと、ノワールは返事をする前に、
私の腕の中からすり抜けて、地面に降りた。
何事もなかったように、また隣を歩き出す。
「変なの」
そう思ったけれど、深くは考えなかった。
猫は気まぐれだ。
きっと、それだけ。
私はまた歩き出す。
その隣を、ノワールが歩く。
同じ道。
同じ時間。
同じ帰り道。
同じ景色を見ていると、疑いもせずに。
夕暮れの風が、少しだけ冷たくなった。
ノワールは自然と、私の足元に寄ってくる。
「寒くなってきたね」
そう言って微笑むと
ノワールは何も答えなかった。
ただ、少しだけ。
いつもより、近くにいた。
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この時、私は知らなかった。
同じ場所にいても、
同じものを見ていても、
同じ景色とは限らないことを。
私は、ただ一緒に歩いているつもりだった。
それだけで十分だと、信じていた。
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