第12話 知らされるのは、いつも外側から
静かな協会の奥。
ステンドグラスが煌めき、光を受けた女神像が祭壇を見下ろしている。
その前で祈りを捧げていた司祭は、
いつもとは違う“何か”を感じ取った。
空気か、重圧か。
神聖で、高貴で――
それでいて、抗えないほど重いもの。
「……っ」
声にならない息を飲んだ、その瞬間。
――聖女は、覚醒した。
――十九の年に、旅立て。
司祭は、息を止めた。
覚醒とは、何だ。
旅立つとは、どういう意味だ。
分からない。
だが、その意味を問う術もない。
「司祭様……?」
「どうかされたのですか?」
異変に気づいた者たちが、慌てて声をかける。
「……人を集めろ」
掠れた声で、司祭は言った。
「すぐに調べなければならない」
何百年も遡る聖女の記録。
奇跡の行使、加護の継承、祈りと浄化。
だが――
“覚醒”という言葉は、どこにも存在しなかった。
「十九の年に、旅立て……」
それは命令か。
それとも警告か。
猶予なのか、期限なのか。
誰にも、分からない。
ただひとつ、確かなのは――
十九の年には、何かが起きる。
それだけだった。
学園の中庭で、リリアはノワールと日向ぼっこをしていた。
膝の上には、黒い猫。
「今日も、暖かいね」
そう言って、首元を撫でる。
ノワールは何も答えない。
ただ、目を細めて、そこにいた。
女神が現れたことも。
期限が示されたことも。
リリアは、知らない。
知らないまま、 変わらない日常を生きている。
それが、 今の世界に許された唯一の平穏だった。
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