10話 それでも、最初から
懐かしい夢を見ていた。
それは、まだ私が孤児院にいた頃のこと
孤児院の庭で、皆で輪になって座っていた。
何をしていたのかは、よく覚えていない。
おやつの後だった気もするし
ただ、特に理由もなく集まっていただけかもしれない。
誰かが、笑いながら言った
「ねえ、リリア。好きな人いる?」
突然の質問だった
私は、少しだけ考えた。
頭に浮かんだのはで
いつも外に出れば、そこにいた小さな黒い影。
泣いた時も、困った時も、嬉しかった時も
朝から日が沈むまで変わらず傍にいた存在。
「……うん。ノワール」
そう答えた瞬間、空気が一瞬止まった。
それから―― 笑い声が起きた
「えー、猫じゃん!」
「それは違うよ」
「好きな“人”でしょ?」
誰かが、悪気なく言った。
「猫は違うよ」
「動物は駄目」
「結婚する相手の話だよ」
私は、よく分からなかった……
だって、一緒にいたい相手を聞かれたから正直に答えただけなのに
「猫じゃないよ」
「おかしいよ」
その言葉が、ゆっくりと胸の奥に沈んでいった。
ああ、そうなんだ……
ノワールを好きなのは、駄目なんだ。
そう、教えられた……
その日から、私は言わなくなった
「好き」という言葉をノワールに向けて使うのを
撫でるのはいい。
一緒にいるのもいい。
猫として、動物として、可愛がるのは許される。
でも――
将来。 隣。 一緒に生きる。
そういう意味の「好き」は、口にしてはいけない。
“猫だから”。
理由は、それだけだった。
それでも……
考えないようにしても、想像しないようにしても、私の中から消えることはなかった。
誰かの隣に立つ自分を思い浮かべると
必ずそこには、ノワールがいる。
どんな未来でも。
どんな姿でも。
気づけば、そうだった。
だから、私は答えなくなった。
好きな人はいる?
「……いない」
それは嘘じゃない。
ただ、言葉にできなかっただけ。
赤と、黄色の糸。
旅のあとに編んだミサンガ。
そして、 二枚貝の片割れの貝殻。
願いを込めたつもりで、
でも、本当は――
「……ノワール」
名前を呼ぶと、変わらず隣にいる。
昔、否定された言葉が、
今は、もう違って見える。
あれは、間違いじゃなかった。
私は、最初からずっと――
胸の奥が、 静かに熱を持つ。
世界は、まだ何も気づいていない。
でも……
誰かに選ばれるためじゃない。
正解をなぞるためでもない。
私は、自分で選び続ける。
私は、ノワールの隣に居たい。
それだけは、昔も、今も、
これからも、変わらない。




