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陽だまりの庭で、聖女は黒猫と生きる  作者: Koro


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第1話 お茶会の庭と、彼女の影


公爵家の素敵な庭でのお茶会。

ここにはもう何度も来ているのに、私は未だに緊張してしまう。


自分の未熟さで相手を不快にさせてないか——そんな心配が頭をよぎって、落ち着かない。

けれど今日も彼女は、私の心配なんてどこ吹く風のように、優雅で優しく迎えてくれる。


「ねぇ、リリアは……好きな人って、居る?」


紅茶の湯気の向こうから聞こえた言葉に、私は口を開けて固まってしまった。

いきなりすぎて、何を言われたのか理解が追いつかない。


「あっ! ごめんなさい、いきなり……! ちょっと気になっただけなの!」


慌てる姿が珍しくて、ついまじまじとその横顔を見つめてしまう。

頬を赤く染めて俯くロザリア様は、普段の完璧な公爵令嬢の姿からは想像もつかないくらい可愛らしい。


ロザリア・フォン・グリューネ。

金髪にサファイアの瞳、成績優秀、王子の婚約者。

誰に対しても品が良く、優しい——そんな完璧な人。


そんな彼女が、元平民の私にも変わらず優しくしてくれる。


「えーっと……好きな人はいないですね。」


思い当たる節は——あるけれど、口に出す気はない。


「えっ!? 本当に!?」


どうしてそんなに驚かれるのだろう?


「はい。あと三年は学園で学ぶ事が多くて、そんな余裕も無いです。」


12歳まで孤児院で猫と日向ぼっこばかりしていた私が、

いきなり貴族のマナーだの貴族社会だの学ぶのだから、大変なのは当たり前だ。


「セドリック様とか、カイル様とか、同い年のフェリクス様、有名商家のルネ様……素敵じゃない?」


「素敵過ぎて近寄りたくないですね。」


本音だった。


ロザリア様の顔には出さないけれど、あの人達は彼女の話になると延々と語り続ける。

私は途中で止める立場にもないから、永遠に聞き手だ。


本当に……疲れる。


「じゃあ……ユリウス王子はどうかしら?」


これは自慢だろうか?


「はい。素敵な王子様ですよね。お二人、とてもお似合いです。」


「……っ! いえ、私なんかでは勿体ないです!」


顔を真っ赤にして否定するロザリア様は、本当に可愛い。

彼女で“勿体ない”なら、一体誰が釣り合うというのだろう?


「本当にお似合いですよ。」


そう言って微笑むと、なぜかロザリア様は——悲しそうに笑った。


「……ありがとう、リリア。」


どうしてそんな顔をするのだろう。


 


 ◇ ◇ ◇


 


次のお茶会の日。

庭の花は季節ごとに表情を変え、今日も優しい香りが漂っていた。


ロザリア様は、私が侯爵家に引き取られた日からずっと、

こうして月に一度のお茶会に誘ってくれている。


何も分からなかった私に、嫌な顔ひとつせず、丁寧に色々教えてくれた。

侍女たちを離して気を遣わなくていいようにしてくれた事にも、後になって気付いた。


理由を聞いた事がある。

けれどロザリア様は、悲しそうな顔をして言葉を詰まらせたから——

もう聞かないと決めた。


「リリア……生徒会役員のお誘い、断ったって本当?」


どうして知ってるんだろう?


「はい。これ以上は無理だと思って……。」


笑って答えると、またロザリア様は目を伏せた。


「あの……ロザリア様?

私よりロザリア様の方こそ、生徒会に向いてると思います。どうして断られたんですか?」


揺れたサファイアの瞳が、ゆっくりと俯く。


「……私は、貴女の居場所を奪っているわ。」


「どういう意味か分からないですが……気にしなくていいと思います。」


紅茶をひとくち飲む。

彼女のお茶はいつも優しくて、心がほどける味がする。


そのお茶を——ノワールとも飲めたらいいのに。

そう思った瞬間、ロザリア様が驚いたように私を見つめた。


「私が出来ないって断った時点で、それは私の場所じゃありません。

だから、気にする必要は無いですよ。」


また、悲しそうに笑う。


「……ありがとう、リリア。」


 


 ◇ ◇ ◇


 


その日の侯爵家。


「ねぇ、ノワール。どうしてロザリア様は時々あんな悲しい顔をするんだろうね?」


黒猫のノワールは、ソファーに背中を向け、尻尾でばしばし叩きながら無視。


「今日の庭、すごく綺麗だったんだよ。ノワールも好きだと思うんだけどなぁ。」


返事はない。

お茶会の日は、いつもノワールの機嫌が最悪になる。


「優しい人なんだよ? 動物が好きかどうかは知らないけど、ノワールにも……」


なおも無視される。


「今日は一緒に寝てくれないの?」


無視。


はぁ……本当に分かりやすい子だ。


侯爵家に引き取られる時、

「猫と一緒じゃないと無理!」と泣きわめいた私のわがままを、国が許したくらいには、

ノワールは私にとって特別だ。


気付けば眠っていた。

ふと目を覚ますと、腕の中に柔らかな温もりがある。


小さな胸が上下し、私の腕枕でノワールが眠っていた。


(……怒ってたのに。一緒に寝てくれるんだ。)


胸の奥がじんわりと温かくなる。


孤児院では、こんなふうに一緒に眠ることなんて出来なかった。

冷たいベッドの上で、ただ朝を待つ夜が嫌いだった。


でも今は——

夜が楽しみだ。


ノワールと一緒だから。


 


——聖女と黒猫の物語は、まだ静かに幕を上げたばかり。



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