能力の発動
「ねえねえ、リウスくんは何で冒険者になったのー?」
唐突なカグヤの質問に、一瞬答えを迷った。でも、嘘はつきたくなかった。
「僕のことはリウスでいいよ。それと……僕が冒険者になったのは、前の生活を抜け出したかったからなんだ」
「ふーん。どんな生活してたの?」
「三年前、火龍の災害で家族を失ったんだ。僕だけが奇跡的に生き残って……それからは、日が昇って沈むまで働いて、寝床もろくになくて……毎日がやっとだった」
少し重すぎたかと思ったけど、カグヤは優しい目で言った。
「そっか。それを乗り越えたんだね。リウス、強いんだね!」
「ありがとう……」
シノンも呟くように言った。
「リウスも、いろいろ苦労したんだな……」
「正直、寂しかったんだ。冒険者ギルドに登録すれば、仲間ができるかもしれないって思ってた。それで、二人と出会えた。ほんと、運がよかったよ」
本音だった。だから、そのまま口に出した。
カグヤとシノンは、一瞬だけ黙った。でもすぐにシノンが元気よく声を上げた。
「初めての冒険だしな!レベル上げ、頑張るぞ!」
「う、うん!」
カグヤも、なぜか頬を赤く染めながら答えた。
⸻
そして、初心者の登竜門――ルバン高原に着いた。
一面の緑に、ところどころスライムの姿が見える。
「おお、すっげえ! あれを倒せば強くなれるのか!」
シノンが興奮気味に走り出す。
「待って、シノン!」
僕とカグヤも、慌てて後を追った。
だが、現れたのは通常よりも一回り大きいスライムだった。
「陣形を組もう!」
カグヤがすぐに判断し、戦闘態勢を整える。
カグヤは火属性の初歩魔法と回復呪文の適性を持つ。シノンは片手剣と弓を扱える前衛と中衛のハイブリッド。そして僕は……この刀と、まだよくわからない“スキル”が武器だ。
「私が後ろから注意を引くから、二人は左右から距離を詰めて!」
カグヤの火の粉のような魔法がスライムに当たり、僕とシノンは挟み撃ちを仕掛ける。だが、感触がない。攻撃が効いてるのか分からない。
「シノン、もう一度!」
「お、おう!」
もう一撃加えるも、今度は避けられた。
「スライムって、もっと弱いと思ってたぜ……」
「意外と厄介ね……」
そのとき、頭の中に声が響いた。
《スキルを発動しますか?》
(な、何だ今の!? でも、わかる……これは“答えるべき”だ)
「……はい」
カグヤとシノンが驚いた顔でこちらを振り向く。
「え、どうしたの?」
返事をする余裕はなかった。
《2倍に強化する“なにか”を一つ選んでください》
「……力だ!」
瞬間、体に熱が走る。筋肉が膨らみ、力が湧き上がるのを感じた。
「待たせたね」
「スライム来るぞ!」
無意識に身体が反応した。
スパッ……!
びちゃっ!
「き、切れた!? 倒したぞ!!」
「すっげえ、リウス、今の何だよ!」
「すごい……」
スライムが灰のように消えていくと同時に、不思議な感覚が体を包んだ。
「何だ、この感覚……?」
「経験値を得てるのね……!」
次の瞬間、メッセージが現れる。
《レベルが2に上がりました。能力値パネルを開きます》
空中に手をかざすと、透明なパネルが浮かび上がった。
「うわ、こんなに能力上がるのかよ!」
「私の魔力、2倍になってる……!」
だいたいの上昇幅は把握できた。でも――僕の画面だけ、何かが違う。
“ダブル”“ハーフ”という選択肢。
意味が分からないまま、“ダブル”を選ぶと、それを選んだステータスだけが3倍、4倍と跳ね上がった。
しかしダブルをいくつか選ぶと残りは強制的にハーフが選択された。
(……このスキルのせい? でも今は黙っておこう)
「リウスは、どうだったの?」
「あ、うん……身体能力が、結構伸びたかなー」
「え、どのくらい?」
「……2倍くらい?」
「2倍!? それ、普通じゃないって……!」
カグヤとシノンが驚いた顔で僕を見る。
「普通は1.1倍上がれば十分なんだぞ。1.5倍でも超才能って言われるくらいなのに!」
「……そ、そうなんだ……」
「リウス、ほんとにすごいよ!」
「すげーやつと組んじまったな、俺たち」
二人のまっすぐな言葉が、素直に嬉しかった。
(僕は一人じゃない。これからは、みんなと――)