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一巡する異世界の果てでまた君に逢う  作者: 花浅葱
第一章 一巡する異世界でまた君に逢う
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第十話 三度目の正直

お久しぶりです、花浅葱です。

大学受験も無事に終了したため、約7カ月ぶりに連載を再開しようと思います。

7カ月前の内容を取り戻すのは大変ですので、あらすじをまとめておきます。ご活用ください。


気づいたら異世界に転移していた主人公・相生葵(あいおいあおい)は、異世界の住人と出会うけれどもその人たちの会話の中から「奴隷」という単語を聞きと立ったため逃げ出すことにする。

逃げ出した先で彼は奴隷商と出会ってしまい、捕まって奴隷として売られてしまう。

天然の黒髪が珍しいとの理由で高値が付けられた葵であったが、すぐに買い手が見つかる。

買うと宣言したのは貴族令嬢のティアラ・へルネス・ショコラティエであり、買う方針で商談が進んでいく。

と、葵を購入した彼女の下に襲来したのは「ナンメル」を名乗る暴漢。殺されそうになるものの、ティアラ様の騎士であるアハトに守られて九死に一生を得る。

そして、アハトとナンメルの戦闘が始まる他所でティアラ様は葵と『世界一巡慮考』という契約を結ぶ。

アハトが敗北しナンメルが2人を襲い、葵は命を落とすことになってしまうが、気が付くと彼は『世界一巡慮考』の契約直後に戻っていた。

そこから始まった死のループを乗り越えるために、葵はナンメル打倒を目指す──。

 

「──ありがとう、終わったわ」

 ティアラ様の美しい声が、俺の耳に届く。

 生きている。まだ、生きている。

 いや、こう言った方がいいだろうか。──()()、生きている。


 自分の心臓の鼓動がドクンドクンと波打ち、生きていることを実感する。

 ナンメルに殺されたのが、まるで無かったことになったかのように──いや、実際なかったことになっただろう。

 もう先程のように取り戻すことはない。それに、さっきの死は一度目の死より優しいと感じるものだった。

 即死できたから、痛みを感じなかったのかもしれない。


 ──と、そんな考察をしている暇はない。今は、この状況を把握するのが第一だ。


「ティアラ様、契約の内容を教えてください。『世界一巡(せかいいちじゅん)慮考(りょこう)』の名前は聴いたので、効果を知りたいです」

「──わかりました。では、『世界一巡(せかいいちじゅん)慮考(りょこう)』の効果についてご説明します」

 ティアラ様は、俺が既にループの渦中に突入していることに気が付いたのか、より一層真面目な表情で口を動かす。

 先程は、この言葉の続きを聞く前にナンメルが乱入してきた。だけど、前回は状況を理解できずに俺が取り乱していた時間もあったからであって、今回はしっかり聞くだけの余裕がある。


「『世界一巡(せかいいちじゅん)慮考(りょこう)』の効果ですが、私──ティアラ・へルネス・ショコラティエか、アオイのどちらかが死亡した場合、アオイが私かアオイの、またはその両方の死をアオイの行動によって回避できる時点に時間遡行をします」


 ティアラ様の教えてくれた『世界一巡(せかいいちじゅん)慮考(りょこう)』の効果は、半分俺の想像通りだった。

 俺が死んだら、あるタイミングに戻ってループする──というのは予想通りだったし、実際に経験していた。

 だが、ティアラ様が死亡した場合にも適用されるとは思わなかった。俺の死だけでなく、彼女の死も俺のループのトリガーに含まれるが、ループするのは俺だけ。

 要するに、俺はティアラ様を「生かす」のが仕事なのだろう。俺の死体を積み重ねることで、ティアラ様を生かす。非人道的な扱いだが、この世界は奴隷を人とも思っていなさそうだ。奴隷である俺がその役目を任されるのはおかしな話ではない。

 だが、「アオイの、またはその両方の死をアオイの行動によって回避できる時点に時間遡行」をするという条件は非常にありがたい。俺が絶対に救えないティアラ様を助けるために永遠に同じ時間を繰り返すことは無いと言うことだ。そして、今回のナンメルも退けることができるということだ。


「──しかし、今回に限っては問題があります。と言うのも、時間遡行ができる範囲は、『世界一巡(せかいいちじゅん)慮考(りょこう)』が契約されてから。則ち、私がつい先程アオイの左手の甲にキスをした時からです」

「──ッ!」


 ティアラ様に伝えられた事実に、俺は喉を鳴らす。

 俺のループの起点となっているのは、ティアラ様が「ありがとう、終わったわ」と契約の履行の完了を伝えた丁度のタイミングだ。

 と言うことは、俺はループできる最大の部分にループしているということになる。


「──もし、契約が結ばれたタイミングに戻ったとしても、俺かティアラ様の死亡が免れない場合ってどうなるんですか?」

 声を震わせながら、ティアラ様にそんな疑問をぶつける。


「そうですね。最大限の努力と対策をして尚、私達の死を防ぐことができない場合であっても、契約が結ばれたタイミングに戻ると思います。その場合は……すみません。アオイには大変な苦労をかけると思います」

 そう口にするティアラ様。詳しい説明も無しに契約を結ばれたのだから、クーリングオフを主張したいのだけれど、俺はその発言権はないだろう。

 それどころか、今は嘆くよりも先に手と足を動かす必要がありそうだった。


 外では、今でもティアラ様専属の騎士アハトと、俺達の命を狙っているナンメルが戦っているようだった。

 ナンメルがどうして俺達を殺そうとしているのかわからないが、とにかく対策だ。

 俺はゆっくりと立ち上がり、壁に開けられた穴の方を見る。ティアラ様にばかり意識が向いており気付かなかったが、外は奴隷と見物客が戦闘から逃げ惑うような悲鳴で騒がしく感じる。


「──ティアラ様。俺は自由に動いていいんですよね?」

「はい。あのナンメルという大男をどうするのか、お手並み拝見です」

 ティアラ様はそう口にして、優しい笑みを浮かべる。口ではそう言っているけれど、発言の内容としては結構えげつないと思うのは俺だけだろうか。


 とにかく、俺は穴の開いた壁際の方へと移動して外を眺める。

 そこに映ったのは、奴隷市場の真ん中で剣と魔法による戦いを繰り広げているアハトとナンメルの2人と、それらから逃げるように動いて行く人の波と、その場に伏せて場をやり過ごそうとする集団であった。


 逃げる派閥と伏せてやり過ごす派閥に分かれているのが、性格が出ているように思えるが今はそんなことを気にしている余裕はない。

 アハトとナンメルの2人戦いに決着が付くまでの時間は残り僅かだ。それまでに、ナンメルを追い返す方法を考えなければならないだろう。


 まず、ナンメルは何を目的にここに来ているのか。

 確か、先程のループをする──殺される直前に、ナンメルは「お前を殺すのが任務だ」と言っていた。

 そうなると、俺を殺しにここに来ている──と言うことになる。


「──俺を殺しに……?」

 異世界にやって来たばかりの俺を殺しに来たとは、どういうことだろうか。

 海辺に転移してから、奴隷として売られるまでの間にしてきたことを思い出すと、心当たりとなったのは馬車から逃げ出してきたことだった。

 俺に声をかけてくれた御者さんはあんな筋骨隆々とした巨漢ではなかったから、その上司か何かが俺を追ってここに来た──と言う事だろうか。

 海辺にいた不審者相手に大袈裟な──とも思うが、奴隷商が跋扈しているこの世界のことを考えると何も不思議ではない。黒髪は貴重なのだ。なんらかの火種になるくらいであれば、殺してしまった方がいい──そんな考えなのかもしれない。


 とにかく、ナンメルの目的は俺を殺すこと。

 俺が死ねば帰るのだろうが、俺が死んでしまってはループから抜け出せない。

 そうなると、ナンメルに抵抗して勝利する必要があるだろう。

 だが、俺は剣なんか振れないし魔法の使い方も知らない。俺は、アハトが防戦一方であるナンメルとの戦闘から視線を逸らさずに、ティアラ様にこんな質問をする。


「ティアラ様は、魔法を使えたりしますか?」

「──はい。先程結んだ契約も、魔力を使用して結んだ魔法の一種です」

「じゃあ、戦ったりはできますか?」

「戦闘、ですか。不審者対策として簡単な魔法は使えますが、実戦の経験はありませんね」

「──そう、ですか……」


 流石に、ティアラ様を戦力として動かすことはできなさそうだ。

 そうなると、戦力になるのはアハトだけになってしまうけれど、そのアハトでさえ防戦一方だ。

 異世界最初の相手は、スライムみたいな雑魚だと相場が決まっているはずなのに、どうしてこんな強敵と当たってしまうのか。自分の運の無さが嫌になる。


 ──と、俺がナンメルに勝利する方法に頭を抱えていると、ナンメルとアハトの戦場に動きが見える。


 ナンメルが放つ光り輝く弾を避けず、それを一身に受けるアハトの姿が視界の先には広がっていた。

 戦闘を見ていた感じ、アハトであれば回避できそうだったのだが、回避しようとする動きを見せることなく攻撃を食らっていたような感じだった。


「──どうして」

 防戦を強いられていたアハトであったが諦めたとは考えにくい。ティアラ様を守ると言う使命があるのだから、命と一緒にその使命を放り出すような男だとは思えなかった。

 アハトが回避をしなかった理由が、今の俺には出てこない。避けれない程の怪我でもしたのだろうか。


 ──と、魔法に体を穿たれたアハトが仰向けに倒れる。

 遠目でもよく見えてしまう腹部の大きな傷は、これで見るのは3度目だが思わず目を逸らしてしまう。

 俺は、ティアラ様の方を向いて「アハトさんがナンメルに敗北しました」と伝える。


 すると、彼女は「嘘」と大きく目を見開く。対照的に小さくなった瞳孔が、瞼の中で小刻みに揺れているのが見える。俺は、ナンメルがこっちに戻ってくることから逃げるために部屋の奥の方へと走る。


「ティアラ様、逃げましょう。もうすぐここにはナンメルがやってきます!」

 俺は、机の前に立っているティアラ様の手を取り、そのまま扉の方へと走る。ティアラ様の足がもつれて、転びそうになったけれどすぐに扉の取ってを掴むことで回避できた。


 ──アハトが戦っている間に、遠くに逃げてしまうのが得策だっただろうか。俺は扉の取っ手を握りながらそんなことを考える。

 だけど、すぐにそんな考えを捨てた。

 もちろん、死ぬのは怖い。今すぐにでも逃げ出してしまいたい。

 だけど、俺とティアラ様の2人を護るために、文字通り命を賭けて戦ってくれているアハトを見殺しにすることは俺にはできなかった。

 それに、アハトが稼いでくれた時間は体感で2分ちょっとだった。だから、急いで建物を飛び出したとしてもナンメルの速度ならすぐに追いつかれてしまうだろう。

 だからやはり、アハトが時間を稼いでくれている間に逃げるのは得策ではない。


 俺は、逃げないことを再確認した後で茶色の重い扉を開ける。

 先程、アーキナーさんと呼ばれていた奴隷商に連れられて歩いた廊下が広がっていた。

 どっちに走れば出口に近いかわからなかったが、とりあえず元来た道を戻ることにする。

 体勢を立て直した俺とティアラ様は、2人で並んで廊下を走る。すると、爆音と共に建物全体が揺れる。

 ナンメルがこの建物に到着した。先程までと同じように、アハトの死体を担いでここまで来たのだろう。


「ナンメルが……」

「はい。過去のループから考えるに、こっちにやってきました。目的は俺です」

「まさか、本当にアハトが負けてしまうなんて……」


 先程まで俺達のいた部屋から遠ざかるようにして走って逃げつつ、悲嘆にくれる姫様の声に耳を傾ける。

「アハトさんは、お強かったのですか?」

「はい。私達ショコラティエ家の抱えている騎士の中で一番でした。アハトとは幼馴染なのですが、まさか敗北してしまうなんて……」


 ティアラ様の声が低く揺れていた。彼女の方を向いていないが、静かに泣いていることは容易に予想が付いた。

 後ろで、扉が蹴り破られるような音がする。きっと、ナンメルが暴れているのだろう。


「ティアラ様、後ろは振り向かず走って!」

 どこか行き先があるわけではない。今更逃げたって遅いことはわかっている。

 だけど、ナンメルに立ち向かう自信はなかった。俺のことを2度殺した相手。そして、今も殺そうとしてくる相手。ナンメルが抱えている諸々の謎を解明しなければならない──「──がはッ」


 背中から重い何かが衝突してきて、俺はその場に倒れる。

 うつ伏せに倒れた俺を覆うようにして青い髪がかかる。この髪の持ち主を俺は知っている。


「──アハト……」

 投げられた亡骸の名を呼ぶのは、生前の主人であったティアラ様。

 俺とは違い、ティアラ様はアハトの遺体に3度目の初対面をするのだろう。彼女の動揺は隠せていない。


「随分と俺様のことを楽しませてくれたじゃねぇかァ!だが、損傷してやったぜェ」

 3度目にして既に聞き飽きたようなことを口にするのは、俺の方へと死体を投げて動きを封じたナンメルであった。

 2度目の時に見せた理由不明の速すぎる動きで、俺の方へと迫って来たアハトは俺の首を掴む。


「逃がさねェよォ、お前は」

 ゴキッと、鈍い音が俺の耳には届き、自らの死を自覚する。

 痛みのない3度目の死は、次なる2分の挑戦権でしかなかった。


 次は、唯一の戦力であるアハトを延命する方法を──、

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