07(月彦の視点) 放課後と写真と蹴り
登校の道筋を地図に起こしてその逆を辿った。
途中までパッセが同じ方向だったみたいで、会話をしながら。
「新ヶ木島についてどう思った?」と聞かれたが。
「そんなに特別でもないんだなと思ったよ。でもほとんどの人がSTEOP能力を使えそうで、それは面白いと思ったな。怖くもあるけど」
つまりは、プラスもマイナスも感じたなぁ、ということ。
「じゃあな、俺こっち」
と言われて、
「うん、じゃ」
と手を振って別れてからは、一人で電車に乗り、しばらくして降り、帰宅。
薄い青紫のパーカーとデニムのズボンに着替え、花香さんに持たされた鍵など、必要な物が入ったポーチを身に着け、外に出た。こういう時、靴は上着の色と合わせたい。紫ベースのと白のがある。今日は当然、紫の方を選んでおいた。
まずは家の周囲の位置関係を頭に入れるため、そこまで遠くへは行かない。
そんな中でどれだけいい風景を見付けることができるか。これはゲームみたいなものだ。
あそこにはあんな木があるだとか、あそこにはあんな花があるだとか。そういう発見をすると、何かが満ちていく。
マンションから少し下った所にある公園の周りは穴場で、緑もよく茂っている。
ある程度撮って、帰ることにして、しばらく歩いていて気付いた。
――誰か、ついて来てる……?
少し歩くと音が後ろからついて来た。
ゾッとする。
更に少し歩いた。距離をわざわざ取って誰かがついて来ている音がする。
怖さが増す。
――家を特定しようとしてる……?
角を曲がって、少し歩いたフリをして電柱の影に隠れて待つと、男が姿を現した。しかもキョロキョロした。
「あれ、さっきの子どこに行ったんだ……?」
だからわざと前に出た。
彼はこちらを見てギョッとした。だからこちらから凄んでみた。
「ふざけんなよこのストーカー野郎」
「え、声……男かよ! 変態じゃねえか!」
「は? 何言ってんの? てか今気付いたんだろ男って! ってことは、女だと思って追ってきたんだろうが! 女をストーカーしますって言ってるようなもんだろソレ! こんなこと今後一生やるなクソが」
「ああん? お前がそんな格好してるからだろうが!」
男は僕の腕を引っ掴んだ。
言葉もそうだし、行動も……怖い。それにこちらの格好のせいにしてる。女だと思ったのなら、それこそ、女にこうしますって言ってるだけだ、この人、さっきからそう。
僕は言いたくなった。『そんな格好』なんて言われたから――
「格好ってもんはな……なんつうか、本人のためだけにあることもあるんだよ。自分を正当化しようと必死になってんじゃねえよストーカーのクズ! 女に見えたら追うんだろ! お前みてえなやつが何言ってんだ変質者!」
僕はこいつの股間に前蹴りを食らわせた。蹴り上げたんじゃない。前蹴りだ。足の――靴の甲がこんなヤツの股間に触れるのもムカつく。汚い靴底がクリーンヒットしてりゃいいんだこんな奴。
「ここに出直して来たりもするな! ほかの誰にもストーカーをするな! やめろカス!」
言い捨てて僕は帰った。
……やっぱり僕は人を撮る気にはなれない。ひとくくりにしたいワケじゃない。どうしても進んで撮りたいとは思わないだけだ。……だって、こんな自分でいたいだけなのに、怖かったから。思い出しちゃうから。辛い想いばっかりだよ。……何なんだ今日は!