表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STEOP 気になる異装のはとこさん  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/42

42(月彦の視点) 穴場スポットと切っ掛けの場所

 STEOP(スティープ)特定開発研究所の周辺は意外と穴場かもと思い付いた。周りは森だし鳥の声も聞こえてきそう。

 新ヶ木島(にいがきじま)に住む切っ掛けの場所だし、「撮りに行ってみようかな」程度には思い立った。

 ガーリーな坊ちゃん風の長ズボンにカーディガンの呼夢(こゆめ)と、ボーイッシュなお嬢様風のスキニーなズボンとカットソーの上着の僕とで、朝のバスに乗った。

 服飾・手芸部に交じって向かった時をも思い出した。あそこにはこれで三度目。

 僕は聞いてみたくなった。

「二年でも三年でもここに来るんだよね? ファッションショーをしに。催しで」

「うん」

「楽しませるため」

「そうだね。あ、ねえ、中には入らないの?」

「……中はいいかなって思って。あ、中から外の景色を見るのはいいかもね」

「おお、なるほど」

 進んで二階、三階……五階まで上がった。

 廊下で、

「おお、久しぶり」

 と言われた。所員の男性。あまり覚えてない。多分…手続きがどうなっているかをよく話してくれた人。

「元気?」

「元気です」

「そっちは?」

「彼女です」

「というかアレだ、そっちの子、アレだ、楽しませ大会のショーの。キミらは、そういえばそうだよな、ほかの人よりは全然会うし」

「ですね」

「そういう部に? こっちの類まれな男の子も」

「僕は写真部……でもないんですよ、意外でしょ」

「ふうん? まあそんなこともあるわな。なあ、俺のコト撮ってくか?」

「……はい」

 自分でも不思議だった。でも僕は風景を――そう言いそうになっていた。『この直前までそう思ってたのに』って、自分で思いながら、カメラを向けた。


 撮ってから、すぐに男性所員は去っていった。名前も知らない、笑顔で去った男性。だけど撮れた。撮る気になれた。

「よかったね」

「うん。何だろ……受け入れられるようになってきたのかな、色々と」

「だったらいいね」

「うん。でも」

「ん?」

 横を見た。それからすぐ、廊下の先の窓の方に目を向けた。

「一番特別なのは、やっぱり、呼夢(こゆめ)がいい」

「えふぉ! ふぁ!」

「……何その変な声っ。ふふ、ほら」

 少しだけ歩き出していた僕は、振り返って手を差し出して――

 だから手を(つな)いで、連れて窓へと近付いた。

 そこから見える風景を、ふたりじめする。

 眼下に森。赤と黄の葉と青の空との色の変化。雲がひとつもない。

 何度も写真を撮った。

「よし」

「もういいの?」

「うん、あとは……――」

 それから引き返して階段を下りて、裏手に行った。

 坂を下りた所に、はぐれたように立つ木が数本あって、一番手前のそれに背を向けて立った。草地の坂と建物が、目の前に大きく映える。

「ここで分かったんだよ。そこを戻ろうとして、ちょっと疲れてたのかな……それで」

「ふうん」

 隣から声がする。

呼夢(こゆめ)はどうやって知ったの? 自分の力」

 たまに目を合わせながら。

「小さい頃……窓に座ってる人がいたの」

 呼夢(こゆめ)は研究所の左の方に視線をやることが多かった。

「外に足を投げ出した感じで、森を見てたのかな……。バランスを崩したその人が落ち始めて……危ない! って思ったら、いつの間にかそこだけ時間が戻ってた。それで声を掛けようとしたんだけど、でもすぐ同じように落ち始めて。高い階だった。さっきの五階よりは下だったかも。でね。それを、ちょうどそこの庭から見てて……。私、何度も念じた。何度も戻って……何度も落ち始めて……。で、そこに人が来たの」

「……それでやっと」

「うん。落ちなくてよかった。だから私、人を助けられたらいいなぁって……この力で……っていうのは滅多にないけど……だからね、服に興味があったから、これを作るのを人よりうまくやり直せて、ずっとずっと上達して、そうしたら、それで……その服で、人を救えたらな、とは思ったんだっ」

「そっか……」

 僕は、恋に落ちてよかったと思った。

 こんな呼夢(こゆめ)だから。今もその笑顔が僕を癒す。きっと多くの人をも癒す。

 だからこそ僕は、

「ちょっとさ、そこにいて」

 と言って、

「うん?」

 と不思議がる呼夢(こゆめ)よりも数歩前へと進み出て、振り返ると、目の前の笑った太陽を大きく切り撮った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ