32(月彦の視点) 文化祭の案
新ヶ木市立明先高校の、文化祭がもうじき開催される。
最近、そのための取り決めや準備で、学校は大忙し、かつ、大にぎわいだ。
呼夢のいる一年三組は、校舎前のテントでゼリーを売ると聞いた。ほかには、ソフトクリームを売る店もある。まあ定番だなと思う。そして正直撮りたいと思った。
少し時間を遡る。一年一組はどう話し合ったかという話。
「クラスが端だし吸引力があるものがいいよね」
いつか、サダッチがそう提言した。
それならと思ったのだろう、荒川さんという女子が勢いよく手を上げて。
「何かの喫茶にしない? フルーツの……フルーツ餅の!」
――さては流行ってるのか? 新高丘夏祭りでもいちごもちがあった。そういうのが――別でもあったのかもしれないな……。
「いいね」
「いいかも」
と賛同の声が上がって、そこに、田畑山さんという女子の提案も加わった。
「じゃあ男子は女装して、女子は男装で!」
そうして、一年一組の出し物は、「異性装フルーツ餅喫茶」に決まった。
どんなフルーツを使うのかが次の議題。
「いちご、キウイ、ミニオレンジ……」
「そんなに多くできなくない?」
「じゃあいちごとキウイくらいで」
「じゃあそれプラス紅茶ね」
「じゃああと、服装は……」
準備はそれほど難しくはなかった。「カット担当は切り方を気を付けて」なんてことはあったけれど。あとはクラスをカフェに彩っていくだけ。
呼夢は、僕が何をやるのかを、洲中家のリビングにて座って話していて知った時、目をバタバタさせた。
「絶対! 見に行くね」
「んふへ? どうぞどうぞ、ふふ」
「なんか余裕? 最近恥ずかしがんないね」
「最近は……呼夢の反応が楽しみ過ぎる、かな」
「そうなの?」
「見惚れてこけたりしないでね」
僕がイジワルく言うと、呼夢は、
「んがー! こけないもんね!」
と、部屋へ行ってしまった。「おやすみ!」そう言い残して。
――なんというか……このままでもいいんじゃないかな――なんて、思っちゃうケド……。
普通にしようとしているのに、普通にさせられないでもいるというか。
この気持ちを、いつ伝えるべきなのか。
とりあえず文化祭は、掻き乱したりせずに穏やかに終えたい。そう思ってから、僕も立ち上がり、寝る準備を始めた。




