03(呼夢の視点) 出会い
微妙に赤み掛かった栗毛色の髪を胸の下くらいまで綺麗に長く伸ばした十五歳くらいの男の子が目の前にいるらしい。正直女の子にしか見えない。だから「らしい」なんだけど――。
『猫国魔軍! スタイル抜群な隊長はいつも口下手』のニャリーン隊長の服装でいる私に言えた義理ではないけど、目の前の男に、なぜそんな格好をしているのかと、聞いてみたい気持ちが湧いた。
しかも、この男が、今日から同居する雅川月彦くんらしい。
正直萌える。
握手をしたけれど、変な誘い方をしてしまった。初対面で「ござる」だなんて……
――キャッ恥ずかしいわ! 顔に出さないようにしとこ!
さっきの事を考えないようにして、とりあえず聞いてみた。
「えっと、なんでそういうカッコなの? 心がオネエとか?」
「違います」
と否定だけは済ませた月彦くんの横から、お母さんが言い出した。
「そこの左の部屋を使ってね」
月彦くんが「はい」と、返事した瞬間、私はまた聞きたくなった。
「制服は? いつから学校行くの?」
月彦くんは私の左隣の部屋へと移動し始めた。
「制服はこれから」月彦くんは動きながら。「学校は明日から行きますよ」
「何か手伝うことある?」
一緒に、その部屋に入りながら、私が聞いた。
すると。
「むしろ手伝ってほしくないです」
私はしょんぼりしてしまった。でも、ズカズカし過ぎたかもしれぬ。気を付けねばねば。
「制服を買いに行ってくるからね」
母が私の部屋に入ってきて、その段階になったと知らせてくれた。
萌えポイントが呼んでいる。
そう思った私は当然「私も行く」と宣言した。
月彦くんは意外と肉付きがよく、ズボンは太腿が基準になり若干ムッチリしている。太っているワケではない。上半身もそう。ガタイがいいように見えて、なんだか――
――月彦くん、なんか、胸がある……?
店で私がそれを聞いてみると、本人は少し考えたような仕草をしてから答えた。
「胸筋のせいじゃないかな。一時期、懸垂とか腕立てとかめっちゃしたし」
「そっか……」
――それで丸みがあるように見えるのか。
サイズの合う服を着た彼は、正直やっぱりズボンタイプの制服を着た女の子にしか見えない。
――うーん、やっぱりほんのり胸があるように見える……。
私が思っていると、店の人の話し声が。
「このネクタイは輪の左側を引っ張って首に通して整えて裏を下へ引っ張るだけでいいですので」
女子のもだいたい同じ仕様だ。
――私と同じところの制服……こうして見ると、男ものも可愛く見える……。
そんなこんなで買えて帰ってきたら、お父さんがテレビを見てくつろいでいた。
「父上、月彦くんが到着しておりますぞ」
私がそう言うと、お父さんがこちらを向いて目を上下させた。
「お前その格好で行ったのか。店の人、驚いたろ」
「面白き経験を提供したでござる」
「所構わず提供……まぁいっか、その格好なら」
いいんだ……という声が月彦くんの方から聞こえてきそうで、こなかった。顔はそんな感じだったけど。
食卓を囲んだ時、母が説明した。
「明日、朝早くから呼夢が一緒に登校してルートを教えて、職員室まで連れていってね」
「承知!」
明日は早く起きねばと、「フォンボード」の目覚まし機能をオンにし、設定した。
それから寝て、起きてからすぐ目覚ましを確認。
「くっくっく、どうやら早く起き過ぎてしまったようだな……」
朝食は一緒に……という時、月彦くんの寝巻姿を見たが、それもラフな女の子にしか見えなかった。
――うぅむ……萌え!
制服に着替え、腕時計化したフォンボードもしっかり腕に着け、鞄も持ち、いざ参る。
歩き、電車、歩き……その順番の経路の途中……月彦くんが歩みを止めてバッグからカメラを取り出し、山を撮影した。
「山が好きなの?」
「……ううん。自然とか、綺麗な人工物とかは好き。人はあまり撮らない」
過去に何かあったのか。
――解き放ってやりたさを感じる……それも萌え。
そんなこんなで少しだけ丘になった所にある明先高校の入口前の坂に到着。
「写真部に入るの?」
少し疲れる程度の坂を上がって行きながら、私は聞いた。
月彦くんは私の後ろをついて来ながら。
「入らないと思う。学校のことで人を撮るのを任されそう。それが嫌だから」
「……そっ」
いつか進んで人を撮る日が来ればいいのかもなぁ……と、ただ勝手に思いながら、私は校舎までを歩いた。