27(月彦の視点) 新高丘夏祭り2
別の坂が近くにあった。そこから更に急階段を見付けて、そこを上がると白い石の鳥居に出会った。
くぐった先で振り返り、崖近くの手すりの前に立って見下ろすと、かなり上からの屋台の様子が見えた。
――引きでコントラストを……活かす。……違うな……ここか?……ここだな……よし……今。
いいのが撮れた。
「ごめん付き合わせて。じゃあ行こっ」
「ん、うん」
今は多分、無コスプレの呼夢。
自然で……なんか急に……綺麗だ。
――やばい。
その美を振りまいてほしくない。思ってしまった。これは多分、そういう気持ちだ。そうだったのか、僕は。自分だけの光でいてほしい………のか? 自分だけの……? ああ、それは……それは……なんて夢だ。
――そうか、自分がなってしまえば、ずっと一緒なんだし。そうなんだ。
「なんか遊ぶのもあったよね」
呼夢が言うのを僕はついて行きながら聞いた。
「射的しようよ」
「いいよ」
承諾の言葉を冷静に口にするだけなのに、妙に疲れる。心の体力がというか。
大通りに戻った。そこから家への坂まで大通りを歩く。その道の中腹で右手に射的の屋台を見付けた。
当てて落とせば、ふたりして喜んだ。
今が絶頂期のように感じた。でも、これからももっと、もっともっと、楽しくなるはず。
なぜだか不安がない。でも落とし穴もどこかにあるかも。と、思いはしても、なぜかそこまで不安にならない。なんでだろう。
当てて落としたお菓子を受け取って、ふたり並んでまた歩いた。
「いちごもちだってさ、苺を餅で包んだだけだって。透けて見えるのが綺麗だね」
「美味しそう」
と僕が言うと。
注目させたからか呼夢がふたり分を買って、ふたりでひとつずつ口へ。
餡すらないそのシンプルさの中に、かなりの技巧が隠れているんだろう、絶品だった。
「よし、もう一個」
「食べるの?」
「撮るんだよ。まあ、そのあと食べるけど」
僕が払って買うと、今度は、さっきの公園とは別の、「帰り道の坂よりこちら側」へとずっと行った先の左手にある公園のベンチに座り、紙の包みを置いて、その中のいちごもちにカメラを向けた。……なんでここかと言うと、いちごもちの屋台からはここが一番近い落ち着ける場所だったからだ。
一枚、二枚、三枚と撮り、うーんと首をひねって、四枚、五枚、六枚、七枚と撮ってからようやく満足。ただ、申し訳なくなった。
「それ、食べていいよ」
「え、そう? ありがと……じゃ、いただきまぁ~す……」
なぜだか、ちょっと、こっちの様子を見ながらだ。「いいのかな……」みたいな感じで、呼夢がほおばった。
――なんでだよ。それ、こっちの態度でしょ、時間取っちゃったし。こんな時に撮影するヤツです、よかったのかな……ってこっちがなるようなもんで……。なんで呼夢が?
僕が食べたがってると思ったのかな? にしても。
なんだよ今の――が尾を引いて、いつまでも考えてる自分にも、呼夢に対しても、ふふっとほほ笑んでしまう。
そうしたら、呼夢が、
「んふ!」
と喉を酷使して、自身の胸を叩き始めた。
「え! えっ! なにしてんの!」
「ごほっ! だっ、だって月彦くんが――」
「え? なに? 僕?」
「い、いや、なんでもない」
「は? なんでもないってなに」
「なんでもないってば」
「そんなワケないやん」
「ん! 方言! そ、そういや、みんな目立たなかったけど、方言だよね、どこから新ヶ木島に来たの?」
「福岡だよ」
「え、じゃあ博多弁」
「博多は区だからなぁ」
「正確には僕は九州弁かな、親は長崎だし」
「そーなんだ」
「そっ」
――話を逸らそうとしたな?
とは思ったものの、まぁいいやとも思った。言いたくないならしょうがない。まぁ何を言いたくないのかよく分からないけど……「月彦くんが」とは言ったから、僕が何かしたんだ。僕のせい? でも、そう言いたくないというのなら、気を遣わせてしまってる……? とか、色々考えてしまうし。本人が言いたくないなら、もう、それを汲む。それも優しさだよなと、ふと思った。
※いちごもち、作ったことがあります。餡ないけど美味しいです。




