21(呼夢の視点) 大きく吸い込んだ息
ダムと本屋からの帰り道。
マンション近くの坂を上がっていきながら、私は考えた。
――夏休み中に、もっとどこか、案内できないかなぁ……。
ふと横を見ると、月彦くんは、そこにいなかった。
少し後ろにもいない。
「あれ?」
十歩くらい後ろにいる。
しかもこちらにカメラを向けて構えている。
――え、私を撮りたくなったの? え? ホントに?
なぜか嬉しくなる。
それもそうかと思った。だって、気になってる月彦くんのことだから。
――私? 私をなの? 最初のそれが私? やばい。ニヤける。
自分の気持ちに振り回されるのが、なんだかおかしかった。
「ふわは」
と謎の笑いが出るほどに。
私はそのあとで、ハッキリ意識的に笑った。
「人! 撮れそうじゃん! やったね! 嬉しくない?」
月彦くんは、何枚か撮ったのか、カメラをケースに入れながら――歩いてきながら。
「分かんないよ!……呼夢だけかもしれないし」
言い終わる頃には隣に来ていた。
私にはよくても、月彦くんにはきっと違う。道の広さに関わってしまう。そういうこと。そういうことだから、私は言葉をしっかり選ばないと。
「それでもいいじゃん? 別に今日のこと、意識しなくてもいいし。とにかく、こうして撮った! それだけは事実! ね!」
私は間違わなかったんだろうか。少し不安になる。
でも、心は、「これでよかった、いい言葉だった」と言ってくれている気がする。
数歩進んだ。
だから私は振り返った。
月彦くんを注視した。反応が気になったから。
表情が変わる瞬間を、私は見た。
少しだけ、月彦くんの口角が上がった。
そこで止まれば、まだ、いつもの月彦くん。
ほんの二秒くらいあとで、激変した。嬉しさを隠そうとしちゃうような、くしゃっとした笑顔に。
「そうやね! 今日はいい日や!」
いっぱいの笑顔になった月彦くんが、「方言?」と思っている私の真横に、今立った。
そして。
「ありがとね!」
月彦くんは今までにないテンション。
言われて、私はなぜか大きく息を吸い込んだ。目的なんてないのに勝手に体がその反応を求めた。
――なんで?
と一瞬思ったけど。
――もう、これ、アレだ、分かった。
胸でも脳でも理解した。
私は月彦くんを好きになったんだ。この、可愛いと綺麗とカッコいいが入り乱れた男の人を、私は――
今度は月彦くんが前を歩いていた。
彼がこちらを見て言う。
「早く。行くよ~」
――ああ。このそんなに低くない声も。……分かった。私が一番に聞きたい。思っちゃった。きっと私、月彦くんのことを目で追う。
体が熱くなった。さっきよりも。




