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STEOP 気になる異装のはとこさん  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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21/42

21(呼夢の視点) 大きく吸い込んだ息

 ダムと本屋からの帰り道。

 マンション近くの坂を上がっていきながら、私は考えた。

 ――夏休み中に、もっとどこか、案内できないかなぁ……。

 ふと横を見ると、月彦(つきひこ)くんは、そこにいなかった。

 少し後ろにもいない。

「あれ?」

 十歩くらい後ろにいる。

 しかもこちらにカメラを向けて構えている。

 ――え、私を撮りたくなったの? え? ホントに?

 なぜか嬉しくなる。

 それもそうかと思った。だって、気になってる月彦くんのことだから。

 ――私? 私をなの? 最初のそれが私? やばい。ニヤける。

 自分の気持ちに振り回されるのが、なんだかおかしかった。

「ふわは」

 と謎の笑いが出るほどに。

 私はそのあとで、ハッキリ意識的に笑った。

「人! 撮れそうじゃん! やったね! 嬉しくない?」

 月彦くんは、何枚か撮ったのか、カメラをケースに入れながら――歩いてきながら。

「分かんないよ!……呼夢(こゆめ)だけかもしれないし」

 言い終わる頃には隣に来ていた。

 私にはよくても、月彦くんにはきっと違う。道の広さに関わってしまう。そういうこと。そういうことだから、私は言葉をしっかり選ばないと。

「それでもいいじゃん? 別に今日のこと、意識しなくてもいいし。とにかく、こうして撮った! それだけは事実! ね!」

 私は間違わなかったんだろうか。少し不安になる。

 でも、心は、「これでよかった、いい言葉だった」と言ってくれている気がする。

 数歩進んだ。

 だから私は振り返った。

 月彦くんを注視した。反応が気になったから。

 表情が変わる瞬間を、私は見た。

 少しだけ、月彦くんの口角が上がった。

 そこで止まれば、まだ、いつもの月彦くん。

 ほんの二秒くらいあとで、激変した。嬉しさを隠そうとしちゃうような、くしゃっとした笑顔に。

「そうやね! 今日はいい日や!」

 いっぱいの笑顔になった月彦くんが、「方言?」と思っている私の真横に、今立った。

 そして。

「ありがとね!」

 月彦くんは今までにないテンション。

 言われて、私はなぜか大きく息を吸い込んだ。目的なんてないのに勝手に体がその反応を求めた。

 ――なんで?

 と一瞬思ったけど。

 ――もう、これ、アレだ、分かった。

 胸でも脳でも理解した。

 私は月彦くんを好きになったんだ。この、可愛いと綺麗とカッコいいが入り乱れた男の人を、私は――

 今度は月彦くんが前を歩いていた。

 彼がこちらを見て言う。

「早く。行くよ~」

 ――ああ。このそんなに低くない声も。……分かった。私が一番に聞きたい。思っちゃった。きっと私、月彦くんのことを目で追う。

 体が熱くなった。さっきよりも。

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