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02(月彦の視点) はじまり2

 実験の日々が数日過ぎると、家族が面会に来た。母と兄と姉と弟。父は抜けられない仕事があるという話だった。

STEOP(スティープ)が分かったら――」

 と、母が話し出した。

「――そうだ、あたしの従妹の一家がここに住んでるから、そこにお世話になりなさいよ、ひとりはまだ無理だろうし、ねっ。何かあった時はここの方がいいんだし。ね」

 友人と言えるほどのクラスメイトなんかもいなかった。元同級生も。

 新ヶ木島(にいがきじま)ではSTEOP(スティープ)発現者へのサポートが金銭面でも充実している、だからその方がいいというのは分かるけど……別の言い方で聞きたかった。

「……うん、分かった」

 着替え、その他の要る物だけをひとまず受け取った。

 兄と弟が純粋にSTEOP(スティープ)能力を気にしたのが嬉しかった。いつも通りみたいで。

 少しだけ喋った。どんな発現は感じだったかとか、ここでのこととか、ほんの数日のあいだに何があったのかとか。

「これ、持ってきてあげたよ、あんたには必要でしょ?」

 そう言った姉の手にあるのは僕が愛用しているカメラ。

 一時間もしたら四人は帰っていった。

 いや、もしかしたら観光してから帰りそうだ。母の従妹もいるというし、そこへのあいさつにも行くんだろう。


 見送ってからも特定試験は続く。

 裏返しのカードの表の絵を当てようとしたり、転がしたボールに止まれと念じてみたり、紙の折り目を消そうとして念じてみたり、重いダンベルを軽々と持てたらと思って念じてみたり……様々なことを試した。

 何日も何日も。

 研究所には食堂や運動する場所などの施設が豊富にあった。

 研究所の裏の坂になった草地を歩いている時に気付いた――歩くのがきついなと地味に思っていたら、急に楽になって、視野の角度まで変わった。どうやら自分に掛かる重力の向きを変えることができたらしい。

 それからは簡単な確認作業の連続。

 崖、壁、天井、岩……を歩く。

 あくまで自分に掛かる重力の向きを変える力らしい。それを使っている間は天井だって歩ける。触れた相手にもその現象は起こる。

 判明したことを、次の実験時に男性所員に話した。

 すると。

「よかったな、割と早かった。月彦(つきひこ)くんのお母様から、もう手続きを済ませたと聞いてる。明日用紙が届くよ」

 ――ふうん……。

「そうだ、転入試験はないんですか?」

「あるよ、それも明日だ」

 翌日、テストを受けた。

 そこまで難しくはなかった。

 数日後、ある所員が言った。

「合格だそうだ。ここのサポートを受けて転入できる。さて、キミのはとこの住所はここだ」

 メモを渡された。

「そこへ行けば――ってコトだが、まぁ迎えが来るんだろう?」

「え、そうなんですかね」

「……確認してみるよ」

 彼が腕時計をケータイ化させて、それでどこかへと電話した。それから。

「明日迎えにくるってさ」


 そして翌日。

 出入り口前から外を眺めながら胸に芽生えたものを感じた。

 ――この島にも、魅力的な場所がいっぱいあるんだろうな……。

 かなりギッシリと物が入ったスポーツバッグを片手に、左手首には腕時計。首からはデジタルズームカメラ(耐水性で単体で即印刷可能なもの)を提げ、歩き出し、十数歩の所で、前方にいる女性に呼ばれた。

「月彦くん、こっち。乗って」

 ――あの人か。……小さい頃にも会ったことがないんじゃないかなぁ……。

 と、思いながら歩き寄ると。

「私、月彦くんのお母さんの従妹のハナカっていうの。花が香ると書いて花香(はなか)。よろしくね」

「よろしくお願いします、こちらこそ」

「電話番号、交換しとこ」

「あ、はい」

 腕時計をしたままの手首を互いに近付け、腕時計の横のスイッチをふたりともが押すと、ピポパポピポパン、ピポパポピポパン、と完了の音が鳴った。

「お母さんから教わっててもよかったのに」と僕が言うと。

「え、番号? 本人から知りたいじゃない?」

 まあもっともだった。

「さあ出発~!」

 山から町へ。可愛らしい車で向かう。

 道中、首から提げたケースからカメラを取り出すと、近付く町並みを、一枚だけ撮った。


「ただいま~」

 花香(はなか)さんのあとに、とあるマンションの506号室へと入った。靴を脱ぎ、大荷物を手に、リビングまで歩いた。右にふたつ、部屋が隣り合っているようで、スライド式半自動ドアがこちら向きに二面、見えている。

 そのひとつが今開いた。

 出てきたのは女性。同年代くらいに見える。彼女が口を動かした。

「……え? 女の子?」

「男です」

「え! あなたが月彦くんっ?」

 疑問はこちらにもある。この女性が、黒い軍服のようなものを身にまとい、猫耳っぽいものを着けているからだ。しかもちょっと服がセクシー。

「はじめまして。洲中(すなか)呼夢(こゆめ)でござる」

 彼女は手を差し出してきたが、握手を求められていると気付いたのは五秒後くらいだった。

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