18(呼夢の視点) 校舎の裏の木の下と月彦くん
ある朝、うっつらうっつらしたまま朝食を口にする月彦くんを見た。まだ眠そう。
それが数分後にはきびきびした口調で、
「早く、行くよ~」
なんて言う。
最近の私の一日はそうやって始まる。明先高校一年三組が私のクラス。月彦くんは一年一組。合同体育ですら一緒ではない。あらゆるものが別。
そして、昼だけ、頑張れば一緒にいられる。
――が、頑張れば……って、別に必死なワケじゃないケド!
でも探してみた。
だいたいは昼食を終えてからどこかへ行くらしい。探すのが面白そうだから私もいつも通りに部室で食べてそれから探した。
実は教室で会わない理由が少し欲しかったりもした。なんでだか、ひっそりしたかったから。
裏庭と言えそうな所の木の足元に、月彦くんはいた。
そこから上を見上げている。
――何を見てるんだろう。
そばにはサブバッグ。そこから彼はカメラケースを取り出し、ケースから本体を取り出して、さっきと同じく上を見上げた。そしてカメラを構えた。指が、多分動いてから、カメラは、またケースに入れられ、サブバッグへ。
私は近付いた。
「いいの撮れた?」
「おお、びっくりした。あー、まあ、撮れたよ」
「見せて見せて」
「ん」
それは、単に広がる木の枝だった。枝葉が暗い。向こうは青空。
ただそれだけ。
なのに凄く胸を貫いた。
「なんか……親の撮影した思い出の中に飛び込んだみたい」
私がそう言うと、月彦くんは、
「ああぁ~……確かにそんな感じ」
と言って、枝の隙間から垣間見える薄青い空を見たみたいだった。……実際は何を見たんだろう。
何だか不思議な人だ。髪も長い、それも赤茶色がかった、女みたいな男。その綺麗な顔で――その目で――これから何を見ていくのか。
じっと見詰めてしまった。
「何?」
問われたけど、
「何でもないでござるぅ」
としか言えなかった。
「なんでござるなの」
ふふ、と笑う月彦くんは、今まで見た誰よりも美しく見えた。