17(月彦の視点) ショーから冷める熱や、魅入り、入る熱。
ファッションショーは不思議な体験だった。服を嬉しく紹介してみたのに、来場客には僕全体を見ている人が多いような気がなぜかして。僕が客に伝えたかったものと客が見ているものとのズレが結構あるように感じた、そういう事だろう。
ああいう時、自分自身をもよく見せられる人の方がいいんだろうな。
帰り際、ショルダーバッグに入れて持ってきていたカメラで、新ヶ木ドーム全体が写るように撮ってみた――迫力が出るように真ん中を大きく。
それから、海辺のこのドームから、山の方を向いてそちらも撮った。
人工島とはいえ――だからこそ力が入ったのかもしれないけれど――雄大だ。まるで大きな緑の――ひとつの三角チョコみたいな……ちょっと違うか。とにかく、人工的な小さな白くない富士山のようで――
――こっちの方がいいたとえだな。
今日もいい写真が撮れた。
いつもそう思う。いつもそうできるまで頑張っているから。不満足な写真を撮っていない日はない。
――さて、帰るか。
ショーに出た服のまま呼夢と駅へ向かい、電車に乗ると、家の近場で降りて、すぐの所で言われた。
「ちょっと買い出しに付き合ってよ」
「ん、いいよ」
呼夢が顔を逸らして目を合わせなかったけど、まあいいや。
それから、ついて行った。
「月彦くんはさ、何の教科が一番得意なの?」
道中ふと聞かれて。
「さあ。数学かな。美術かも。国語もいいけど……。社会科系は記憶ゲー過ぎるよね」
「確かに! ああいうのってどうやって憶えるんだろ」
「うーん」ちょっと考えてしまった。それから。「理由とか、流れをよくイメージして、というか、そうしながら、カードとかで繰り返し――自分に問題を出す、とか? ほかのやり方は知~らな~い」
僕がおどけて言うと、呼夢は、
「ふふ、なんかそう言うと、細宮くんみたい」
と笑った。
正直それ誰と思った。問うと。
「めしあげ! 調理部! の細宮くんだよ」
――分からんなぁ……。
そして着いた場所はホームセンターだった。
――よっぽど好きなんだなぁ、作るのが。
そんな布達や糸達を買って、帰路を歩いた。
かなり歩いた所で、フォルムの美しい陸橋に出会った。無骨にドンとあるけど、それがレトロ感を出していて、僕をうずうずとさせた。
「ちょっとアレを撮らせて」
「うん? ああ、うん」
あまりその返事を聞かずに、僕はカメラを出し、角度を選んだ。
どこからで、どのくらいの拡大撮影にするか。
「よし。コレだ!」
いいものが撮れた気がする。
「もういいよ、ごめんね、時間取っちゃって」
「ううん。へへ、月彦くんも熱が入るねぇ、いいの撮れたんでしょ、ホクホクした顔してる」
「ホクホク? 何それ。…………さっき呼夢もしてたけどね」
「え、そ~お? そっか……」
――あれ? そんなに、なにか照れることか? え? なんだ? いい顔してたんだから、いいだろ。なんなんだろ。
まあいいやと思いながら、何でもない話もする。
話しながら、残りの帰路をまた歩いた。
充実している気がした。――呼夢だからかな。どうなんだろう。
それとも、一人じゃないから、というだけなのか。……ううむ、分からないけど。
今は、楽しい。
いい気分でいられる。いられている。
こんなことばかりが続けば、呼夢なんかは撮るかも。ちょっとだけそう思った。