16(呼夢の視点) なんだろ、なんでだろ、この気持ち。
新ヶ木島記念祭でのファッションショーに出した月彦くん専用の服を着た彼本人が喜んでいるのを見て、胸がドキュッとした。見入ってしまった。
いやいや。待ってよ。
同じ家に住んでるんだよ。
えっ? 今のは何? 何のときめき?
きっと、作った服の良さを認めてもらえて、嬉しかったんだ。そうに違いない。
――よし、次はもっといいものにしよう!
控え室で男女別になって衣装から普段着へと着替えた。
と思っていたら、月彦くんはそのまま衣装を着て帰りたいらしく、着替えてはいなかった。元の服はバッグに入っているんだろう。
そのあと帰り支度をして一緒に帰り始めた時、服飾・手芸部の先輩のひとりに声を掛けられた。
「ちょっと……いいかな」
と。
「あ、はい」
彼女は「ハムリン先輩」の愛称で知られている。
――あれ? ハムリン先輩、なんでまだここに?
私達は帰るまで時間が掛かっていた。ハムリン先輩はもう帰っていると思っていた。だから意外だ。というか待ち伏せされていたみたい。
ハムリン先輩がもじもじしながら言う。
「あ、あのね。アタシも月彦くんに着てもらう用の服を作ってもいいかなぁ……」
その時、私の胸に衝撃が走った。
――え! なんか……嫌? 嫌かも。え! なんで私嫌なんだろ! え! なんか! え! 独り占めしたい!……やば。これじゃまるで、私、月彦くんのこと、自分だけの何かでいてほしいみたいな……独占欲まる出し縛り姫みたいな……なに! ヤダ!
「あの……その……」
うまく言葉にできなかった。
素直に言葉にするのさえも嫌な気がした。
どうにもできないでいると、月彦くんの声がし始めた。
「僕、はとこなんで、家族だから特別って感もあって……断ってもいいですか?」
するとハムリン先輩は、いやいやいや、と手を胸の前で振るような、そんな仕草をした、きっとそういう意味の動きだ。
「あ、いや、うん、ごめんね、なんか、アタシ、ダメ元と思って、ムリ言っただけだから……それじゃ!」
ハムリン先輩はそう言うと、機敏に一礼し、猫国魔軍のスタニャンダー伝令兵みたいにシュバババと去っていった。
私が言えなかったから、月彦くんが言ってくれた? わざわざ?
――やっだぁ、月彦くん、私の気持ちに気付いて……? や、そこまでじゃないだろうけど、アと言えばウンみたいな? ありがと過ぎでござる~!
私は突っ立ってしまっていたらしくて、月彦くんの、
「ほら、早く帰ろうよ」
の声で気付いた。そしてその言い方、響き、動き、声そのものに、私は、また、フギャッとやられた。
――これ、どうなの?