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11(月彦の視点) 洲中家とデパート

 デパートに行くことになった。お世話になっている洲中(すなか)家の三人と一緒にだ。

 ある程度買い物をしたあとでバーガー店に入ってテーブルを囲っているが、そんな時にトイレに行きたくなった。

「ちょっとトイレ行ってきますね」

 とだけ僕が話すと、おじさんがこう聞いてきた。

「どっちに入るんだ?」

「え、普通に男の方に」

「いや、キミは普通じゃないでしょ」

 僕が望んでそっちに行こうとしているのに、何の普通を吟味するべきなんだろう、と思った。

「普通って何なんでしょうね。こんなカッコしてるけど男っていう普通の存在ですよ僕は」

「いやいやいや、周りが普通だと思わないんだよ」

「周りがどう思おうと、僕は男だから男のトイレに入りますよ」

「襲われないか心配だなあ」

「ご心配どうもです、もう行きますね」

 と、僕がやっと立ち上がって歩き出すと、呼夢(こゆめ)がついて来ながら。

「私、ついて行って外で待ってるから」

 ふたりでトイレに向かう中、呼夢(こゆめ)は話した。

月彦(つきひこ)くんは可愛い自分にしっくり来る人なんだから、もしかしたら本当にそういう人って可能性もあるんだからね。だから気を付けないと」

「……まあ、うん、ありがと、わざわざ……まあ、何かあったら叫んだりぶん殴ったりするから大丈夫」

「そう……? ってぶん殴るの?」

「正当防衛」

「そりゃそうか」

 入口に着くと。

「じゃ、気を付けて」

 何だか変な話だ。

 ――でも確かに、僕が危険を呼び込んでる? ふざけんなよ、僕は僕でいたいだけなのに。僕らしいのって何だ、って思ったら、こうあろうとすることだったんだよ、なんで……まあいい。面倒臭いヤツのことなんかもう考えないようにできたらいいな、ほんと。僕みたいな人のことを分かってない癖に分かったかのようにしたその目を人に向けるな。

 とは思ったけど。

 言っておこう、本当に奇妙な状況だから。

「この状況、何なんだろうね。こんな風にさ、話してたら誰かが気にして、それで、目が僕に向いてたら僕は注意されるんだよ。いつもだったら注意されない。それどころか、いつもは同伴者なんていないっつうの」

「そうなんだ……そっか……。私がついて来なくても同じ? ついて来ても同じ?」

「……さあね。どうでもいい。じゃ行ってくる」

 と、僕が入っていこうとするその時、男の声が。

「ちょっと! そっちは女子トイレじゃないよ!」

「僕は男なんで」

 胸を張って入っていった。

 ――今のは誰が目立ったんだ? 一人なら違った? 声掛けられなきゃすんなりジェントルマンのトイレに入れたのにと思っちゃうけど、もういい、なんだこれ、呼夢(こゆめ)のせいになっちゃうじゃん。

 何となく立ってするのは外だと気が引ける、なので個室に入った。

 ――はぁ、もういい、もうやめとこ、ここ周りのことを考えるのは。

 用を足し、出て手を洗う。石鹸でしっかりと。送風機のジェット温風にて乾かしもする。

 手が綺麗になってから、目の前の鏡で髪型をチェック。分け目を整えて……よし、と思ってからトイレを出た。

「さ、戻ろ」

 そこにいた呼夢(こゆめ)に言って、すぐそこのバーガー屋にいるおじさん達の所に戻った。

「あとは月彦くんの服も買うか」

 先に買っていたのは、日頃からよく使うもの、食器、雑貨、呼夢(こゆめ)が使う布や糸、スポンジや文具なんかだった。

 さっきのおじさんの言葉を受けて最初に感じたのは「そのお金は誰が?」「僕のためなんかに、いいの?」だった。

 それを僕が話すと、おじさんとおばさんは顔を見合わせた。そしておばさんがこちらを見て――

「お金のことなんか気にしないで。ちゃんと理由もあるの。新ヶ木島(にいがきじま)のサポートもあるんだしね。それとね、月彦くんは月彦くんで、ゆくゆくは、いい生活をしていいって、言う側になるの。今は、あなたの将来のための、私達の好意を、快く正しく受け取ってほしい。さ、行きましょ」

 自分は奇異の目で見られている。

 そう思っていた。

 自分が自分でいたいだけなのにと。

 それを――それでいいんだと言ってくれている気がした。嬉しい。

 こうでいてほしいって押し付けてくる人もいる中、いいんだよって、言ってくれた気がした。

 ユニセックスなものが好きで、STEOP(スティープ)の影響でムダ毛も無くなったし、膝下を出すようなズボンだって穿きたい、そういう欲求も満たせる。ゆったり着れるシャツや、ポンチョみたいな服だって着れるんだ。そういうものを、服屋に入ると、手に取っていった。

「僕はVネックとかじゃないと首が苦しくてダメで、丸首は前が大きく開くのじゃないと息がし辛くて嫌なんです、嫌というかダメなんです、だから、コレはすみません」

 仕方なく拒否することがあった。

 これは体質のために絶対で、それもおじさんとおばさんは受け入れてくれた。

 もし、こういうことに誤解が生じるなら、できるだけ避けたい……が、僕がこうだという事を家族はたまに忘れる。彼らはどうなのか、同級生はどうなのか――できればすぐに理解され、その理解は、続けばいいなと思う。

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