10(呼夢の視点) 中庭にて。真剣な写真だからこそ。2
学校の中庭で、カメラの写真を見たいと言った私に、月彦くんは頑なに見せない。
逆に質問された。
考えてみた。
正直、自分が作った衣装が「うーん、まだまだかなぁ」なんて感じだったら、少し恥ずかしいかもしれない。でも、作ったからには、どうにかしなきゃ、もったいない気がする。
「失敗作を見せれるかっていう話なら、確かに見せたくはない」
「でしょ」
「でも、中々によくできたものなら……見せたいよ。いや、そりゃ、その……見たい人にだけ……本当に好きで見たい人になら、とは思うという意味で」
――それに、見たくない人に見せてもね……。
月彦くんはもうカメラを守るような姿勢ではなくて。彼が言う。
「でしょ、変な広まり方はしてほしくないんだよね、僕も。ね、本当に見たい? 僕は真剣に撮ってるつもりだけど、そういう意味で本当に見たいの?」
「ん~~……うん! そういう日常の風景のよさとかをさ、しっかり撮れるのって、凄いじゃん! だから、それってどんなのなんだろうって、楽しみたくて、本当に見たいよ?」
「そ……そっか……」
――あ、月彦くん、照れてる。可愛い。
「じゃあ……さっきのは、コレ」
月彦くんがカメラの画面を見せてくれた。
花壇の花に顔を近付けた猫が画面中央に少し大きめに……控えめに写っている。
「うぉお……! いい。いいよコレ! 好きだよ、めちゃくちゃいい写真!」
「え……っ……そ、そうかなぁ……そっか……」
――あ、月彦くん嬉しそう。可愛い。
カメラを操作して撮るモードに変えてオフにしたらしい。月彦くんはそうして耳に長い髪を掛けてからサブバッグから革のケースを取り出し、それにカメラを入れ、サブバッグの中へと納めた。
「月彦くん、可愛過ぎない?」
「は?」
「耳に髪を掛けた仕草」
「あ、そう」
なんだか恥ずかしそうなのと、面倒そうなのが半々あるみたいな、そんな感じの顔を月彦くんはしてる。少し、意外な反応。
「ね、そんなんじゃ男もカン違いするだろうし、女もカン違いしちゃうよ?」
「どう勘違いするってんだよ。というか、勝手に勘違いとやらをするのが悪い。それで何か言われたって迷惑だ」
「……可愛いって言われたいワケじゃ……ないの?」
「褒められてるのは……別に、イイコトだよ」
「ねぇ、どうしてそんなカッコしてるか、聞いてもいい?」
――急に聞いた感が出ちゃったけど、いいよね。
「言わなかったっけ。そっか。これが僕。それだけ」
「え。……え? それだけ?」
「それだけじゃ駄目? 髪が長い。うん。僕は僕のスタイルでいるだけ」
「それってつまり、えっと、好きで……自分の好みでそういう……普段着とかもそんな感じで、自分のためだけで、他人は関係ないの?」
「ないね。というか他人が関係するってなんだよ。普段から何か他人のためを想って~って格好する? 自分が心からしたい格好をするって大事だろ。なんでそこで他人メインなんだ? まず自分だろ」
「そっか、そうだよね、じゃぁ、なんだ、その……可愛さを見せつけてやろうだとか、誰かをだましてやろうだとか、思ったワケじゃないんだね」
「……いやいや、それ、本当に思ってたとしたら、相当酷いよ。酷いこと言ってるからね。酷いといえば、このあいだ尾行男もいたけどさ」
「え……? 尾行男?」
「付け狙われたんだよ。マンションを特定されそうで、横に逸れて思いっ切り蹴ってやったけどな。こっちはお前らのためにこんな格好をしてるワケじゃない。でもそりゃあさ、女に見えりゃ、そりゃ、それらしい事は起こるだろうな、それはいいよ、しょうがないからね、でも、自分が悪い癖に言い訳して、女だと思って怖がらせるような付け狙い方をした癖に僕を悪く言ったあのクソストーカーは許せないし……とにかく、どいつもこいつもと思うことはあるよ。僕は僕でいるだけ。ああ……でも、さっき何て言ったっけ。……ええっと……そうだ、誰かのために何かの格好をすることはあるかっていう……それを言おうとしたんだけど……相手を想っての自分納得の上での他人メインの服装は、アリだよね」
そこまで頑張って言葉を連ねた月彦くんは、なんだか、震えているように見えた。今も、息を整えながら思い出してるみたいに見える……。
――このあいだ付け狙われて、それで……? 怖かったのかな……。
「月彦くんは誰かのためじゃなく」
「そう。まあ、自分自身のためではあるかな、しっくり来るからね、似合うっしょ」
月彦くんは笑った。
でも、なぜか心からの笑顔には見えなかった。
「うん。似合う似合う」
とりあえずは、そう返事。だって本心だから。
月彦くんは続けて話した。
「自分の髪が長いと自分だっていう感じがしてやる気が出るんだよ。自分でも長い方が似合うと思ってるしね、長い方が、だよ」
「うん、分かるよ。……ふうん、そうなんだね、自分感、大事だね」
「……うん」
なんでそんな格好をしているの? だなんて、無粋だったな――と私は思い直した。