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遠い夏の日

作者: ヌベール

高校2年の夏休み、友人と比較的近場の海水浴場へ行った。

私たちは「体連崩れ」の仲間で,それはどういう意味かというと、体育連盟の、私は野球部を、友人は自転車部を挫折してやめ、文化連盟の美術部に入って活動していたのだが、そんな自分たちを自嘲的にそう言っていたのだ。

しかしその高校の野球部は、かなりの強豪でかつては有名なプロ野球選手も輩出していて、私のようなへなちょこが勝ち抜いていける世界ではなかったら、ま、当然といえば当然なのだった。


で、海である。

私は友人と海へ来たのはその時が初めてで、かなり浮かれていたのを覚えている。眩しい太陽、青い海、ああ「太陽がいっぱい」みたいだな、と喜びながら焼きそばを食べたりジュース飲んだりしていたのは今でも忘れられない。

またその友人が映画好きで、そんな私の映画とのギャップを笑わずにいてくれるのだった。


水着姿の同じような年頃の女の子たちを眺めながら、波間に漂い、ちょっと背伸びしてビーチパラソルを借りて砂浜に寝転んだりした。


そうしている時、ちょっと魅力的な女の子が目についた。

髪はショートカットで、目鼻立ちがはっきりしていて、体にピッタリしたワンピースの水着を身につけている。でもそれは競泳用か何かのように、おへその窪みまで見えるのだった。

彼女の顔は今でも思い出そうと思えば、おぼろげにだがイメージすることができる。それほど印象的だったのだろう。

年は多分私よりひとつふたつ下という感じで、親と来ているらしかった。


私は、泳いだり、コーラを飲んだり、日光浴をしたりしながら彼女を何度も目で追っていた。なんだか、胸がときめくような気がするほど、かわいいのだった。


ーいいな、あんな子


それからまたひとしきり私たちは波と戯れ、海の家でシャワーを使った。

1人は荷物を見ていなければならないか何かだったのだろう。1人ずつ交代で行くことになり、まず私が先に行った。

その時はシャワーといっても、扉もカーテンもない、ただシャワーがいくつか並んでいるだけの、簡単なものだった。だからもちろん男女を問わず水着の上から体を流すだけしかできない。

と、なんと、そこでその女の子がシャワーを浴びていたのだ。全くの偶然だった。

その子はなぜか口を半開きにして、ポーっとした目でシャワーを浴びながらチラチラと私を見る。私も彼女を見ている。

彼女の視線が一瞬私の下半身に注がれる。

私も彼女の胸や、窪んだおへそや下半身を見てしまった。

屋根はないので,飛び散る水が光を反射している。互いに恥ずかしさを感じながらも、互いに何かを意識している。

だけど、ただそれだけである。私は何となく息苦しく、いたたまれなくなってその場を離れる。どれだけ戻りたいと思ってるかしれないのに、そのまま友人の待つところへ行く。

もう、それで終わりである。つかの間の、なまめかしい感覚の交錯は終わりを告げたのだ。


ほんの一瞬の出来事だったが、強烈に、それは私の胸に残った。

彼女の眉、彼女の瞳、彼女の口元、彼女の胸元と窪んだおへそ、そして……。


ただそれだけのことだ。

遠い夏の話。


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