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「小黒さん、なぜ今回、家族の死体をバラバラにしたんです?」

 渋谷の警察署に着き、松田たちは取り調べを始めた。早速、松田は彼にそう訊いた。

 すぐに小黒は口を開いた。

「ミステリー作家だったから、とでも言っておきましょうか」

「ミステリー作家だから?」

「ええ。しかし、最近の私は、作品を書いていて何となく調子がでない。昔に比べたらです」

「確かに先生の作品はここ最近出てなかったですもんね……」と、羽田野が口を挟んだ。

「ええ、お恥ずかしいことにそうなのです……」と、小黒は言う。「だから、私はどうしたらもっと面白い作品が書けるのかと悩んでいたんです。そうした最中に、家族とひな祭りの件で口論になった。そこで、自身の怒りをきっかけに家族を殺したいと思った! どうせやるなら盛大に殺ってみたいと思い立ったのです!」

 それで、最初に思いついたのが「バラバラ殺人」だったと小黒は言う。

「ただバラバラにしても面白くない」と、小黒は話を続ける。「なにかもう一つ手間を加えたいと思った。それからすぐに『ひな祭り』であることを思い出したんです。ひな祭りと言えば、ひな人形。この人形たちをそれぞれの人物と割り当てて、一人一人の殺害方法を決めて殺害する。その後、人形たちも同じように切断したのです」と、小黒は話す。

「なるほど」と、松田は頷く。「それじゃあ、純子さんの旦那さんである藤平素生さんについては?」と、松田は訊いた。

「それは、『ひな祭り』の歌をヒントに考え付いたものです。彼を右大臣に見立て、毒入りのワインを飲ませたのです」

「最初に殺したのは、藤平素生さんですか?」

 松田がそう訊くと、「ええ」と、小黒は頷く。「彼は、お酒が弱かったのです。少し飲んで彼の顔は見事に真っ赤になりました」

「それはご存じだったんですね」

「ええ」

「その後は誰を?」

「その後は、と言うより、その時、皆でワインを飲んでいたんです。もちろん、子どもたちはジュースを。あらかじめ私以外の全員のワイングラスとジュースのコップに睡眠薬を入れていました。藤平くんが倒れた後、当然、皆がパニックになっていました。そこで、私は率先して救急車を呼ぶ振りをしました。その後少しして、孫たちや娘たちが急に眠くなってきたと言って、ソファや床、寝室のベッドで寝始めました」

「それから、全員を殺したと……」

「はい……」

「凶器は、書斎にあった電動ノコギリで間違いないですね」

 松田がそう訊くと、「ええ」と、小黒は頷いた。

「やっぱり、そうでしたか……」

 松田は呟くように言った。


「小黒さん、ご家族を殺害した今のお気持ちは……」

 少しして、松田が口を開いた。

「正直言うと……今、寂しいです。家族全員がもういないんですから。それに、今更ながら馬鹿なことをしてしまったのだなって……」と、小黒は寂しげな顔をして言った。

「そうですか」と、松田は言う。

 それから、「小黒さん」と、羽田野が口を開く。

 小黒が彼女の方を見る。松田も彼女へ顔を向ける。

「作家さんって、大変そうですね。私は単なる一読者ですが、言わせてください!」と、羽田野は言う。「今回の事件、もしこれが先生の新作だったとしたら、ものすごく面白かったと思います。私を含め先生のファンなら喜んだでしょう。けど、これは紛れもない事実です。フィクションなんかではなく、ノンフィクションなんです! だから――」

 彼女がそう言うと、目から涙が零れた。

「だから?」と、松田は彼女を見て促した。

「だから、東山先生、この事件の罪を償ってください!」

「罪を償う?」と、小黒が訊き返す。 

「ファンのために、もっと面白い作品を書いてください!」

 羽田野は泣きながら言う。

「いや、私はミステリー作家失格だ」

 それから、小黒はそう言った。「現実と空想がごっちゃになるようじゃ、作家としては良くないよ。だから、ファンの人たちには悪いけど、私はこの辺で足を洗うことにするよ……」

「そんな……」

 羽田野が残念そうに言う。

「先生、そこまではしなくても……」

 松田が小黒を見て呟くように言った。

「…………」

 小黒は俯きながら黙った。

どうも、落川です。

今回は、こちらのミステリーをお読み頂き、どうもありがとうございました。


いかがだったでしょうか?

まず今回、松田一磨刑事の登場に驚かれた方も多いのではないでしょうか!

そうです。別のミステリー作品「幼馴染の二人」に登場した刑事です。

今回、彼を登場させた理由は、前に私の友人から「彼」を出した第二弾のミステリーが読みたいと言ってくれたからでした。

そして、相方をどうするか考えていた時に、「女性刑事」のキャラクターを書きたいと思っていて、そこからキャラクターを一から作り、松田と羽田野(男と女)のコンビにしました。

二人の掛け合いなどはどうでしたでしょうか。我ながら、良かったのではないかと自負しております。


話は代わりますが、やはり久々にミステリーを書くと、とっても楽しかったです。

海外には、海外の祝日に関する文化があると思いますが、日本にも日本ならではの祝日ってありますよね。その一つが、「ひな祭り」だったりする訳ですが、その「ひな祭り」というキーワードが、「ミステリー」と絡まないかなと考え、試行錯誤して思いついたのが今回の作品でした!

ミステリーのトリックの一つに、「バラバラ殺人」があります。そのトリックを元に、犯人は一家バラバラ殺人を企てる。その殺人をした日が、ひな祭りで、犯人はバラバラ殺人同様に、ひな人形もバラバラにしてしまう! という不穏過ぎるトリックを思いついてから、スラスラと筆が進みました(我ながら、極悪非道だとも思いますが)。


因みに、ミステリー作家・東山圭蔵という名前を見て、東野圭吾先生を思い出した方、

その人物とは全く無関係ですので、悪しからず。

(たまたま思いついた「東山」という名字を彼の名前にくっつけたら、それっぽくなったのです……)


最後まで楽しんでいただけたのなら、私としても幸いです。

改めてお読み下さり、ありがとうございます。

いいねや評価、感想、レビューなどお待ちしております。

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