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「一家殺人? どういうことだ?」と、小黒は訊き返した。

「御存じないですか? あなたのご家族全員がバラバラ死体となって殺害されているんです!」

 松田がそう言うと、「なんだって!?」と、小黒は目を丸くした。

「なぜ私が犯人なんだ?」

 小黒は松田を睨むように見て言う。「証拠はあるのか?」

「証拠は……ありません」

 松田がそう答えると、「ないんだな……それじゃあ、私が犯人だとは言えまい」と小黒は言い、鼻で笑った。

「他に犯人の目星はいないのかい?」

 それから、小黒がそう訊いた。

「他に犯人となる人物はおりません」と、松田はきっぱりと言った。

「どうしてだい?」

 小黒は不思議な顔をして訊く。

「小黒家の人物で、圭蔵さん以外の人たちが亡くなっているからです!」

「私以外……か。つまり、生きている私が犯人と言うことかい?」

「ええ、その通りです」

 松田がそう言うと、「ハッハッハー」と、小黒が笑った。

「それは面白い推理だな」と、彼が言った。それから、「じゃあ、私が犯人だとして、どうして私が皆を殺したっていうんだい?」と、小黒が訊いた。

「それは……」

 そう言った後、松田は考え込む。

「それは?」と、羽田野が松田に訊いた。

「羽田野さんは、どう考える?」

 それから、松田が彼女に訊いた。

「え? 私?」と、羽田野は松田にそう訊かれて、戸惑う。「私、全くわかりませんよ」と、彼女は言った。

「そっか」と、松田は言う。「僕の考えだとこうです」

 松田はそう言って、自身の考えを述べ始めた。

「小黒さん――圭蔵さんは、家族を憎んでいた。だから、家族全員を殺した」

「ほーう」と、小黒が言う。「それで?」

「どうして憎かったんです?」と、羽田野が訊いた。

「それは、まだ分からない。しかし、自宅を捜査した時に、二つの不自然なものがありました。一つは、ひな人形が置かれていたこと。もう一つは、そのひな人形がバラバラになって、バラバラ死体と共にその脇に置いてあったことです」

「確かにあれは不自然でしたね……」と、羽田野が相槌を打つ。「どうして、あのようになっていたんでしょう?」

「おそらく、犯人は見立てを行ったのだと思うんです」と、松田は言う。

「見立て?」と、小黒が首を傾げる。

「ええ、例えば、奥様の春花さんは、背中を一突きされた状態で殺されていて、彼女の横にはお雛様の人形が転がっていました。その人形を見ると、背中が一突きされていました」

「ほう」と、小黒が頷く。

「他の人たちもそうです。娘さんたちや彼女たちの旦那さんたち、そして、子どもたちも殺害方法がそれぞれの人形と同じなんです!」

「それが見立てという訳か」と、小黒が言った。「となると、私は『お内裏様』という訳になるわけだ」

「ええ、その通りです」

「その人形は、どうだったんだ?」

 小黒が訊いた。

「実は、その人形は……首と両手首、両足が切り取られていました」

 松田がそう言うと、「あれ? おかしいじゃないか?」と、小黒は首を捻った。

「君は見立てと言ったよね?」

「ええ、言いました」と、松田は頷く。「ああ、そうだ。そのひな人形なんですけど、一体だけ、無事なものがありました」

「その人形とは?」

「五人囃子の一体です」

「つまり、その一体である人物が犯人と言うことなんじゃないのかい?」と、小黒は言った。

「私もそう思いました。確かに事件発生直後、鑑識の調査でそこに藤平家の長男だけがいませんでした……」

「じゃあ、私ではなく、彼が犯人じゃないのかい?」

「しかしですね、再度、ご自宅を調べさせていただくと、あなたの書斎に彼の死体を発見したんです! その死体は首と両手首と両足が切断されていました。お内裏様の人形は、その時発見されたものなんです」

「なんと……」

 松田は話を続ける。

「因みに、書斎には鍵が掛かっていました」

「そうかい。で、警察はその扉を無理やり開けたのか?」

 不審に思った小黒がそう訊いた。

「いえ、寝室のテーブルの引き出しに鍵を見つけて、それを拝借して開けさせてもらいましたよ」と、松田はにやりと笑って言った。「おそらくですが、犯人はお内裏様の人形をバラバラにして、五人囃子の一体を切断しないままにすることで、捜査を撹拌(かくはん)させようとしたんだと思います。しかし、藤平啓輔くんが死んでいることが分かると、外部犯の仕業だろうと思ったんです。しかし、我々は騙されていた。小黒家の主人・小黒圭蔵さんがてっきり亡くなっているものだと思っていました。理由は、あの仏壇です。近所の方が、ひな祭りの日にご主人を見かけたという証言をしてくれたんです。それで、犯人が一人しかいないと思ったわけです」

 松田がそう話すと、「なるほど……動機は?」と、小黒は訊いた。

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