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 それから、二人は車に乗り、強羅公園まで向かった。十五分程、車を走らせ、そこへ着いた。

 その公園はとても広かった。沢山の花が色とりどりに咲いていた。フランスを思わせるような庭園のように見えた。

 中央には噴水があった。松田たちは公園内を散策したが、小黒らしき人物は見当たらなかった。

「いなさそうですね」

 羽田野がベンチに座って、松田に言った。

「そうだね」と、松田は頷く。

「ここにもいないとなると、一体どこにいるんでしょう?」

 それから、羽田野がそう訊いた。

「うーん、そうだなあ……」と、松田は独り言つ。それから、「どうして、昨日、先生はここへ来たのかな」と、松田は言った。

「どうして?」と、羽田野が訊き返す。

「うん、どうして来たのか?」

「うーん、それは……」と言って、羽田野が考える。それから、「ここで何かしたかったから、ですかね?」と、彼女は言った。

「うん、そうだと思う」と、松田は言う。「一体、何がしたかったのか?」

「花でも見たかったんですかね?」

「いや、それはないと思う」

「じゃあ、噴水が見たかったとか?」

「それも違うなあ」

「あ、絵を描きたかったからじゃあ!」

羽田野がそう言うと、「僕が思うにね、執筆でもしていたんじゃないかな?」と、松田は言った。「ほら、あそこのテーブルに座ってね」

 そう言って、松田はそのベンチから少し離れた所にある木製の備え付けテーブルを差した。

「あー、そっか! 小黒さんって、作家でしたもんね」と、羽田野が思い出したように言った。

「うん」

「それは確かにありえますね!」

「でしょ?」

「そして、これも僕の推測だけど、今、彼は別の公園にいるのかもしれない……」

 松田はにやりと笑って言った。

「別の公園?」

 羽田野がビックリして言う。

「おそらく。ここじゃないとしたら、どこかほかに公園はあるだろうか?」

 松田がそう言うので、「ちょっと調べてみます!」と羽田野は言ってポケットからスマホを取り出すと、別に公園がないかを調べた。

「あ!」

 それから数十秒して、彼女が声を上げた。

「あったかい?」と、松田が訊く。

恩賜箱根公園(おんしはこねこうえん)という公園があるそうです!」と、羽田野は言った。

「恩賜箱根公園か……」

「はい」

「羽田野さん、でかした! うん、そこへ行ってみよう」と、松田がにやりと笑った。「ここからどれくらいかな?」それから、松田がそう訊いた。

 羽田野はスマホを見る。「ここからだと、十五分くらいです」

「分かった。早速、行こう!」

 松田はそう言うと、足早に駐車場まで向かった。羽田野も彼の後について行った。

 それから、二人は強羅公園を後にして、目的地の恩賜箱根公園へ向かう。

 運転中、松田は鼻歌を歌っていた。

「松田さん、その曲って」と、羽田野が訊く。

「ん? ああ、ひな祭りの曲だね。タイトルは……なんだっけ?」

「『うれしいひな祭り』ですね」

「ああ、そうだ! ひな祭りの事件だから、ついひな祭りの曲を歌っていたみたいだね」

 松田はそう言って笑う。

「松田さん、その曲歌えます?」

それから、羽田野がそう訊いた。

「歌えるよ!」と言って、松田は歌い始める。「明かりを付けましょ、ぼんぼりに~ お花を挙げましょ、桃の花~♪」

 松田が歌うので、羽田野も続けて歌う。

「五人囃子の~笛太鼓~ 今日は楽しいひな祭り~♪」

「二番は?」と、松田が羽田野に訊く。彼女はすぐに二番の歌詞を歌った。

「お内裏様とお雛様~ 二人並んですまし顔~ お嫁にいらした姉さまに~よく似た官女の白い顔~♪ です」

「三番は分かる?」

 松田にそう訊かれ、「覚えてないです」と、羽田野は答える。

「そっか。あ、羽田野さん、そのスマホで聞けないかな?」と、松田が言った。

「ああ、そっか」と羽田野は言い、ポケットからスマホを取り出し、YouTubeで「うれしいひなまつり」の曲を掛けた。

すぐにその曲が流れる。一番と二番の歌詞は二人が歌ったもので間違いなかった。

曲が三番に入る。三番の歌詞はこうだった。


金の屏風(びょうぶ)に移る日を

微かに揺する春の風

少し白酒(しろざけ)()されたか

赤いお顔の右大臣


キキキキ!

松田はその歌詞を聞いて、思わずブレーキを踏んだ。急に松田がブレーキを掛けるので、羽田野はビックリする。

「そうか!」

それから、松田が大声で言った。「なぜ藤平素生の横に右大臣があったのか!」 

「え?」

「彼は右大臣なんだ!」

 松田のその言葉に、羽田野は再び驚く。「右大臣?」

「いや、右大臣役といった方がいいね。ひな祭りの曲には、『赤いお顔の右大臣』とある」

「それって……つまり?」

「彼はワインを飲んで、酔っぱらう。酔っぱらったらどうなる?」と、松田は羽田野に訊く。

「顔が赤くなりますね」

「そう。ただ、それだけじゃない彼を殺せない。それで、犯人はそのワインに毒物を仕込んだ……」

「え? ああ、なるほど!」

「いや、よくできてるよね、この事件!」と、松田は言う。

「ええ……」

「ひな祭りの殺人、と呼んでいい」

 そう言って、松田はにやりと笑う。


 十五分程車を走らせ、そこへ着いた。

 その公園は先ほどの公園よりずっと広かった。様々な花が咲き、木々が緑豊かである。

 少し歩くとテーブルベンチのある広場があった。

 そこに一人の男性がいるのに、松田たちは気付いた。

 黒いハットを被り、サングラスをしている年配の男である。彼はそのテーブルに座り、ノートパソコンのキーボードを叩いていた。

 彼は、松田たちに気付くと、一度ぺこりと頭を下げ、再びパソコンの方に目を戻した。恰好は違うが、あの写真の男に違いなかった。

 彼は再度キーボードを叩き始めた。

「小黒さんですよね?」

 松田が彼にそう訊いた。しかし、彼は反応せず、ただ黙々とキーを叩いている。

「東山先生!」

 と、今度、松田がそう呼ぶと、男は松田たちの方を振り返った。

「どなたです?」と、その男は言った。

「申し遅れました。私、警視庁捜査一課の松田と言います」

 そう言って、松田は自身の警察手帳をその男に見せる。「そして、こちらが同じく羽田野です」と、松田は彼女を紹介した。

 彼女も松田同様に警察手帳を見せた。

「警察? 私に何の御用です?」と、男は訊いた。

「一家殺人の犯人として、小黒圭蔵さん、あなたを逮捕します!」

 松田はその男を睨むなり、そう声を張った。

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