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「箱根のどこにいるんです?」

 そこへ向かう途中、羽田野が松田に訊いた。

「さあ? そこまでは分からないよ」と、松田は言った。

「え? そうなんですか。箱根っていったって、広いじゃないですか? 片っ端から捜すんですか?」

「そのつもりだけど?」

「何言ってるんですか! 私たち二人じゃ無理です! 途方に暮れちゃいますよ!」

「俺ら二人とはいっていないさ」と、松田は言う。「とりあえず、小田原警察に動いてもらう。それから、周辺地域の交番の巡査たちにも動いてもらえばいい」

「あ、それなら……」

「うん」

「それで、私たちはどうします?」

 それから、羽田野はそう訊いた。

「とりあえず、箱根湯本の駅に向かってる。まずはそこで聞き込みをしよう!」

「分かりました!」

「羽田野さん、早速なんだけど、小田原警察に連絡してほしい」

 松田がそう言い、羽田野は自分のスマホからそこに電話を掛けた。

「これから動いてくれるそうです!」

 電話を終えた彼女が松田にそう言った。

「そうか。それから?」

「それから、近くの交番の巡査たちも小黒さんの捜索をしてくれるそうです!」

「おし! 分かった。僕たちも着いたらすぐ聞き込みだ!」

「はい!」

 車を三時間ほど走らせて、ようやく箱根湯本の駅に到着した。近くの駐車場に車を停め、松田たちは早速、駅の係員や駅周辺のお土産屋で聞き込みをした。

 しかし、ほとんどが見ていないと言うばかりだった。

 その後、少し歩いた所の干物屋に二人は入った。

「いらっしゃい!」と、店主の男性が元気よく挨拶する。

「すみません。実は私たち警察なんですが」と、松田は言って警察手帳を見せる。「人を捜しておりまして、最近こちらの方をお見かけしていませんか?」

 そう言って、松田は小黒圭蔵の写真を見せた。

「ああ……、この人、昨日見ましたよ!」と、店主は言った。

「昨日ですか!」

「ええ」

「昨日の何時頃、こちらに来られましたか?」

「うーんと、確か午後……二時か三時頃だったかと」

「二時から三時頃ですか」

「はい」

「その時、小黒さん――この方は何か買われましたか?」

 松田がそう訊くと、「いえ、店にある干物をちらっと見て、すぐに出て行っちゃいましたよ」と、彼は言った。

「はあ、そうでしたか……」

「はい」と店主は頷いてから、「あのー」と、口を開く。

「何です?」と、松田は訊いた。

「この方、常連さんなんでよく覚えてますよ」と、店主は言った。

「常連でしたか!」

「はい。時々ここへ来て、干物をよく買ってくれるんです」

「ほう」

「でも、昨日は一瞬見て、その後すぐ帰っちゃいましたね」

「そういうことはよくあるんですか?」

「いえ、そんなことは滅多にないですね」と、店主は言った。「あ、そうそう。前に来た時に、その人がこう仰っていたんです。『魚ってどうして開いて、乾かしたら美味くなるんだろう』って」

「ほうほう」

「そう仰るから、私は説明いたしましてね……」

「なるほど……」と、松田は頷く。

「どうしてなんです?」

それから、羽田野が気になって店主に訊いた。

「あー、えーっと」と、店主は羽田野の方を見て話し始めた。「魚ってね、死後硬直に入ると、イノシン酸やグルタミン酸っていったうまみ成分が出るんだけどね、その後すぐにそれらの成分が分解されて、美味しさが減少するんだよ。けど、干物の場合、うまみ成分が生成された段階で乾燥させるから、うまみ成分が保持されるんです」と、店主は笑顔でそう説明した。

「へー、なるほど! そういうことなんですね」

 羽田野は納得して言う。

「人間も開いたら美味いんですかね?」

 その後、松田が奇を衒った発言をした。店主と羽田野は松田の方に目をやる。

「……その方と同じことを言いますね」と、店主は言った。

「あ、そうですか」と松田は言って、照れ笑いする。

 それから、「人間は絶対に美味しくないですよ」と、羽田野が言った。

「そうかな。ご主人はどう思います?」と、松田は訊いた。

「さあ?」と、店主は首を傾げた。

「やっぱ不味いか……色んな意味で……」

 その後、松田が呟くように言った。

「そうだ、ご主人」それから、松田が口を開く。「昨日は、小黒さんとはお話されていないんですね」

「ええ」

「昨日じゃなくてもいいんですが、前に彼が来たときに、どこへ行くかって言ってませんでしたか?」

 松田がそう訊くと、「そこまでは……」と、店主は言って黙る。

「そうですか。分かりました。どうもありがとうございました」

 松田はそう言って、店主に頭を下げた。

 失礼します、と松田は言ってそこを出た。羽田野もペコリと頭を下げ、その場を後にした。

 その後も、松田たちは聞き込みを続けた。時々、彼を見かけたという声もあったが、どこへ行ったかまでの情報は掴めなかった。

 午後五時を過ぎた頃、喫茶店で聞き込みをした後、羽田野のスマホが鳴った。小田原警察からであった。すぐに彼女は電話に出た。

「はい、羽田野です!」

『もしもし、小田原警察署の篠崎(しのざき)です。小黒圭蔵さんの件で、宮城野(みやぎの)駐在所の巡査から昨日の午後、強羅公園(ごうらこうえん)で近所の住民が見かけたという情報がありました! おそらくその周辺にいるんじゃないかと考え、我々は尽力をつくしております』

「分かりました!」

『そちらはどうですか?』と、篠崎が訊いた。

「こちら、駅周辺での目撃情報はあるんですが、本人らしき人物は見られません」

 羽田野がそう答えると、『分かりました。引き続き捜査して参りましょう!』と、彼は言った。

「はい! よろしくお願いします」

 羽田野はそう言って、電話を切る。

 電話を終えた後すぐ「なんだって?」と、松田が訊いた。

 羽田野は篠崎という男から聞いた話を松田にした。

「強羅公園か……うん、ちょっと行ってみよう」と、松田は言った。

「え? 今からですか?」

 羽田野が驚いて聞く。

「うん、今から」

 松田はにやりと笑い、すぐに車へと戻る。羽田野も彼の後を歩いた。

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