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「しかし、今度の事件は謎がいっぱいだな……」

 警察署に着いて、松田は自分のデスクに座り、コーヒーを飲みながら独りごちた。

「謎がいっぱいって?」

 彼の隣のデスクに座っていた羽田野がそう訊いた。

「気になるところがいっぱいある。例えば、死体だ。君も見ただろうが、多くの死体があった。おそらくあの家族全員の死体に違いない。そして、それぞれの死体が手や足、首などがむごたらしく切断されていた」

「あれは悲惨でしたね……」

「ああ。それから、もう一つ。リビングにひな壇があっただろう? あれをよく見たかい?」

「見ました。あのひな壇の人形も死体同様に手や足、首などが切断されていましたね」

「そうなんだよ! 『死体同様に』切断されていた! ここがポイントなんだよ」と、松田は言った。

「ポイント?」と、羽田野が訊き返す。

「そう、ポイントだ! つまり、犯人はひな人形とそれぞれの人物を結ぶ付けるようにして、殺人を犯したんだ!」

 松田が強調するように言った。

「なんてひどいことを!」

 羽田野は驚き、叫ぶように言った。

「俺もそう思う。おそらく犯人は気狂(きちが)いに違いない」

 松田は睨むように言った。

「犯人は内部の人間でしょうか?」

 それから、羽田野が松田に訊いた。「それとも、外部犯の仕業ですかね?」

「まだ見当はつかないね」と、松田は言った。「死体の鑑定などが進めば、そこにいる人物たちが誰なのかは分かる。思うに、おそらくだけど、そこに居ない人物が犯人の可能性が高いんじゃないかな?」

「なるほど……。確かにそこに居ない人物が犯人の可能性ありますね」と、羽田野は納得して言った。

「しかし」と、松田は続ける。「もしかすると、全員が死んでいる場合だってある。となると、外部の犯行ということになる」

「ですね……」


 それから、二日後。

 鑑識の結果によれば、殺害されていたのは、十人だった。

 寝室に刃物で背中を刺されていた女性は、奥さんの小黒春花(はるか)さんだった。彼女の横には、背中を一突きにされたお雛様の人形があった。

 左手首を切断されていた女性は長女の純子(じゅんこ)さんで、彼女は自身の部屋で殺害されていた。彼女の死体の横には、左手首を切断された三人官女の一体があった。

 右手首を切断されていた女性は次女の友葉(ともよ)さんで、彼女も自身の部屋で殺害されていた。彼女の死体の横には、右手首を切断された三人官女の一体があった。

 右足を切断されていた女性は三女の美沙(みさ)さんで、彼女も自身の部屋で殺害されていた。彼女の死体の横にも、右足を切断された三人官女の一体があった。

 それから、ダイニングに一人の男が倒れていた。彼は、長女の旦那である藤平素生(ふじひらもとお)さんである。彼から毒物の匂いがし、彼は何者かに毒物を飲ませられたようである。彼の死体の横には、右大臣の人形があった。

 そして、リビングに二人の男たちが死亡していて、一人は首を切断されていた。この男は、次女の友葉の旦那である塙晃一朗(はなわこういちろう)さんであった。彼の死体の横には、首を切られた左大臣の人形があった。

 もう一人、上下真っ二つになっていた男は、三女の美沙さんの旦那である朝比奈隼也(あさひなしゅんや)さんであることが分かった。彼の死体の横には、上下真っ二つにされていた五人囃子の一体があった。

 さらに、長女の純子さんの部屋には、左足を切断された男子の死体があり、それが彼女の息子の藤平俊亮(しゅんすけ)くんであることが判明。彼の死体の横には、左足を切断された五人囃子の一体があった。次女の友葉さんの部屋にも右腕を切断された男子の死体があり、彼は彼女の息子の塙光輝(こうき)くんであった。彼の死体の横にも、右腕を切断された五人囃子の一体があった。そして、もう一人。三女の美沙の部屋に、左腕が切断された死体があり、彼は彼女の息子の朝比奈充(みつる)くんであった。彼の死体の横にも左腕が切断された五人囃子の一体があった。

「十人も殺されていたんですね……」

 羽田野が驚くように言った。

「そうみたいだね」

「これで全員でしょうか?」と、羽田野が訊いた。

「いや、もう一人いるよ」と、松田は言った。

「え?」

「旦那さんだ」

「旦那さん……?」と、羽田野は思い出すように言った。「ああ、でも、寝室に仏壇がありましたよね?」

「そう。亡くなっているんだね」と、松田は言った。

「亡くなっているのなら、犯行は無理ですよ」と、羽田野は言った。

「そうだね」

「他に家族に当たる人はいないんですかね?」

 それから、羽田野が訊いた。

「さあ?」と、松田は首を傾げた。「いるのかもしれない。あ、そうだ。阿部さんに電話してみよう」

 松田はそう言って、デスクの電話から阿部さんの自宅に電話を掛けた。

「もしもし? 私、警視庁捜査一課の松田と申します。阿部さんのお宅で宜しいでしょうか?」

『はい、そうですが』と、女性の声が言った。阿部さんのようだった。

「一点お聞きしたいことがありまして、小黒一家のことです。小黒家で殺害されていた人物たち全員で十人でした。小黒家は十名、いや、十一名であってますかな?」

 松田がそう訊くと、阿部さんは考えるために少し沈黙した。ややあって、彼女は口を開いた。

『十一名? いや、全員で十二名だったと……』と、彼女は言った。

「十二名?」と、松田は訊き返した。

『ええ』と阿部さんは言って、彼女は名前を挙げて言った。

『旦那様に、奥様、娘さんが三人で、娘さんの旦那さんたち三人。それから、純子ちゃんには二人の息子がいたし……』

「え? 純子さんに二人の息子がいるんですか!?」

 松田はそれを聞いて驚いた。「本当ですか!?」

『ええ、そうです。それから、友葉ちゃんと美沙ちゃんには、一人ずつ男の子がいたわね……』

「その、純子さんの息子の二人の名前って、ご存知ですか?」

 それから、松田がそう訊く。

『ええっと、なんだったかしら? ああ、そうそう。お兄ちゃんが啓輔(けいすけ)くんで、弟ちゃんが俊亮くんって言ったかな?』

「分かりました! ありがとうございます」

『ああ、いえ』

「お忙しい中、すみません。失礼いたします」

 松田はそう言って、電話を切った。

「羽田野さん、小黒家にはもう一人いたんだよ。藤平啓輔(ふじひらけいすけ)だ」

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