青龍編
第一話 奈々
「旦那様、本日生贄の娘が参ります」
「そうか、また逃げたり、途中で死んでしまうのだろうな」
村の安泰を望み年に1度生贄の娘が来るが、途中で居なくなったり、恐怖のあまり死を選ぶ者がいて、殆ど龍の元にやって来た生贄は居ない。
しかし今回の生贄は龍の元まで来た。
龍に正座し頭を下げて
「奈々16歳でございます、宜しくお願い致します」
「私は、蒼と言う、其方は龍である私が怖く無いのか?」
蒼が聞くと奈々は、
「はい、竜神様ですから怖いと思った事はありませんし、今も神々しいと思います」
竜の姿を怖いと思わない人間が居るとは思わなかった。
「アカ、メジロ、奈々を頼む」
「かしこまりました旦那様」
そう言って、奈々を屋敷に連れて行く、奈々は風呂に案内されメジロに何回も洗われた。
「メジロさん、蒼様とはどういった方なのでしょうか?」
洗われながら奈々が聞いた。
「さて、私では説明が出来ません、旦那様と一緒に居れば自ずと分かると思いますよ」
奈々の村は貧しく、不作が続き、雨は降らず、生贄に希望を託すしか無いと奈々を生贄として選んだ。
「さあ終わりましたよ、湯に浸かり、疲れを取って下さい」
そう言ってメジロは風呂を出て行った。
奈々は身体を拭いた事は有っても風呂に入った事は無かった、頭も洗った事も無かった。
初めての風呂はとても気持ちが良いと感じた。
ゆっくり湯に浸かり風呂から出ると着て来た着物が無くなっていた、その代わり上質の着物が置いて有った。
その着物を着てメジロが外で待って居てついて行き奥の部屋に入った。
其処には青い髪の男性が待って居た。
直ぐに正座し頭を下げる。
「初めまして、奈々と申します、宜しくお願い致します」
「さっき、会った龍だ、奈々」
そう言われ驚き顔を上げた。
蒼は笑いながら、
「奇麗に成って似合っているぞ、その着物」
そう言った。
「お風呂で洗って頂き、着物まで用意して頂きありがとうございます」
奈々が礼を言うと、
「龍を怖がらない女子が居るとは驚いた」
「そうでしょうか?美しく見えました」
奈々の言葉に蒼は赤くなった。
第二話 このまま一緒に
奈々は16歳とは思えない程美しい娘だった。
そして、青龍にも恐怖を感じない珍しい娘で、蒼は奈々が気に入っていた。
奈々も、蒼の優しい接し方や物腰に初めて胸の高鳴りを覚えていた。
「奈々、このまま行けば、私は奈々が気に入っている、だから婚約の儀式をしてその後、結婚の儀式をしようと思って居る、少し早いかもしれないが」
そう言われた奈々は嬉しそうに微笑み
「本当ですか?蒼様は私を気に入って下さっているのですか?嬉しい」
頬を赤くしながら蒼に言った。
2人は初めて会った時からお互い気に成っていたし、心惹かれ相思相愛だった。
「まだ出会ったばかりで、こんな話をしてすまない、奈々が嫌であれば村に帰って良い、村には何もしないから」
「いいえ、村には帰りません、私はこの短い時間で蒼様と共に居ると胸が高鳴り一緒に居たいと思って居ます、女子からこんな事を言うのははしたないとお思いでしょ?」
奈々は本心を蒼に言う娘だった。
「いや、私はそう言って貰ったら嬉しいし、同じ気持ちだ」
奈々は表情豊かで蒼は目が離せない娘だった。
次の日、蒼は出かけていた、帰って来て奈々を呼ぶ、奈々は急ぎ蒼の部屋に行く
「蒼様、奈々です」
「おいで」
襖を開けると、色とりどりの着物に簪、櫛などが有った。
「こんなにどうなさったのですか?」
驚き蒼に聞くと
「奈々に似合うと思った物を買って来た」
それを見た奈々は
「見たことの無い物ばかりです、とても奇麗」
奈々が喜ぶ顔が見たかった、奈々が喜んでくれるならと蒼は思って居た。
「そうだ、奈々、奈々が居た村は雨を降らせ、大地は色々な作物が採れる様にした」
それを聞いてパッと花が咲いた様な顔に成り蒼に抱き着いた。
「奈々?」
「すいません」
つい嬉しくて蒼に抱き着いてしまったが、蒼は驚いたが嬉しかった。
奈々を抱きしめた。
「蒼様?」
今度は奈々が驚く、蒼はすまないと言って離れた。
使用人達も相思相愛の2人が幸せに成る事を願っていた。
第三話 婚約
「奈々、奈々が良ければ婚約の儀式をしたい、まだ早いと言うなら奈々が良いと思った時で良い」
蒼は奈々に優しかった、奈々の気持ちを1番に考えた。
「いいえ蒼様、私を婚約者にして下さるのですか?凄く嬉しい」
そう言って泣き始めた。
「どうしたのだ、嫌だったか?」
「嬉しくて、嬉しくて、私が蒼様の婚約者に成れるなんて思ってもみなかった、私だけが蒼様を好きで片思いなのかと、蒼様は優しいから私に合わせて話をして下さっているのかと思ってました。」
蒼は奈々を抱きしめ
「奈々、私は奈々が好きだ、愛おしいと思って居る、嘘ではない、出会ったばかりで奈々は不安に思ったのかもしれないが、私は本気で奈々と婚約し、後に妻にと考えている、奈々が良いと言ってくれたなら」
そう言われ奈々は
「はい、私は蒼様と一緒に居たい、婚約者や妻に成りたい」
「ありがとう奈々、では婚約の儀式をしよう、婚約の儀は他の龍に立会人として名を書いて貰う儀式だ」
奈々は喜んで蒼に抱き着いた。
その話は他の龍にも知らされた。
蒼が買ってきた着物、簪から何を着ようかメジロとアカに相談する。
奈々は無邪気な娘で使用人達にも色々聞きながら行動していた、使用人達も奈々が好きだった。
「奈々様、この着物は如何ですか?」
薄い青い色で川の絵が薄っすらと書いて有る着物だった。
「素敵ですね、では簪はどれに、これはどうですか?」
奈々が着物に合う簪を選ぶ、龍の簪で星の様な飾りが揺れる簪だった。
「合うと思いますよ、楽しみですね奈々様」
「はい、凄く嬉しいです」
婚約の日に成った、奈々は決めていた着物と簪をして蒼の元に行く、
蒼は奈々のその姿を見て、見惚れた。
「奈々、とても良く似合う、奇麗だ」
蒼が言うと奈々は恥ずかしそうに微笑み龍の姿の蒼にすり寄った。
「行こうか?」
奈々は手伝って貰い蒼に乗る、初めての空は思ったより広かった。
山に付き他の龍を待つ、そして集まると
「皆、宜しく頼む」
と言って、名を書き、奈々も名を書いた。
他の龍も書いた。
「奈々、これで我らは婚約者だ」
「はい、蒼様、嬉しいです」
花の様な笑顔を見せる、他の龍達もこんなにも相思相愛なんて事が有るのかと思って居た。
「皆様、ありがとうございます」
奈々が言うと、白竜が
「まさか、操作していないのか?」
蒼は頷くだけだった。
第四話 誘拐
婚約した事により奈々は毎日嬉しそうに色んな事をしていた。
蒼もそんな奈々を見ているのが好きだった。
早く結婚の儀式をしたいと思って居た。
「奈々、私は明日、月1回の龍の会議に出かけるが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。会議が有るのですね?」
「ああ、私達が見守っている村や町の事を話し合う」
「気を付けて行って下さいね」
そう言って蒼の元にやって来た。
蒼は奈々を抱きしめ分かっていると言った。
次の日蒼は会議に出かけて行った、奈々は手を振って見送った。
蒼はそれだけで幸せだった。
しかし、会議は長引いた、やってはいけない事をした村が有ったり、遠くの村で飢饉が有ったりした。
奈々は蒼が帰って来るまで花を見たりして楽しんで居たそんな時だった。
奈々の身体が宙に浮く、何が起こっているのか分からない、上を見ると虎に咥えられていた。
「嫌~、皆さん助けて」
奈々の叫びを聞き使用人達が皆出てきた、そして奈々を取り返そうと戦うが、相手は神だ勝てるはずも無みみずくのミズ、メジロ、熊、蛇が戦うが皆、倒されてしまった。
「嫌、殺さないで、皆を殺さないで」
懇願すると虎はうるさいと言って奈々の肩を噛む、奈々は気絶した。
皆、気絶していて蒼に伝える事が出来なかった。
朝出て行って、いつもは昼には帰って来るが今回はそうは行かなかった。
ドンと地面に落とされ奈々は目を覚ました、知らない所に居て、周りには虎が数頭いる。
初めて怖いと思った。
「此処は何処で、あなた方は誰ですか?」
振るえる声で聴くと虎は
「我々も神だ、お前は何故、操作されて居ない?だったら我らの誰かに嫁いで子を産め」
「神が何故このような事を、操作とは何ですか?」
「うるさい女だな、俺は要らない」
「では私が頂こう」
話をして居る間に逃げようとしたが、見つかり爪で着物を破られる。
「嫌~、蒼様、蒼様」
呼びながら泣き続けた、
「ほう、青龍の生贄か」
「お願いです、見逃して下さい、私を返して下さい」
奈々は頼むが全く聞いてくれない。
着物を裂かれ裸同然になり、見知らぬ場所、見知らぬ神、蒼の元に帰りたい。
何度か逃げようと試みたがその度に虎の姿で殴られ岩に叩きつけられる。
「蒼様」
奈々はそう言って気を失った。
第五話 奈々の記憶
夜に蒼が帰って来ると使用人が皆血を流し気絶していた。
不安に成り屋敷の中を、奈々を探すが居ない、
他の龍達が帰る時丁度蒼の山を通った時に異変に気付く
「青龍どうした?」
黒龍が聞くと、蒼は顔色を変え、奈々が居ないと言って探し回る
黒龍がやっと気が付いたメジロに聞く、蒼もメジロも元に行く
「虎がやって来て、奈々様を連れ去って行ってしまいお守り出来ず申し訳ありません」
グッタリしているメジロに
「もう1つ、それはいつの事だ」
黒龍が冷静に聞いた。
「旦那様が出かけた直ぐ後でございます」
もう半日以上経っていた。
龍皆で虎の所に行く、蒼は奈々が心配でたまらなかった。
虎の所に着くと、地面には血の跡が有る
「貴様ら、我が婚約者をどうした」
蒼は怒り虎に聞く、虎は知らない振りをする、
「何処だと聞いている」
白龍が聞くと虎は崖の下を差した。
蒼が見ると其処には崖から落ち死んでいる奈々が居た。
「奈々」
直ぐに奈々の元に行き人に成り抱きかかえるが、奈々はもう冷たくなっていた。
奈々を抱きしめ蒼は泣いた。
「奈々、何が有った、何故、こんな事に成った」
蒼は奈々の額に手を当て記憶を読む
奈々がされた事、怖い思い、奈々の決意が読める
「このまま虎の子を産むなんて嫌、蒼様の元に帰りたい、帰れないならいっそこのまま此処から身を投げよう、ごめんなさい蒼様、愛しています蒼様、蒼様」
そう言って身を投げたのを蒼は奈々の記憶で見た。
「あああ~」
叫びともうなり共言えない声がして蒼が龍に生り、その身体は怒りでより青くなり目は血の涙が出ていた。
蒼は虎を食い千切り、他の虎も尾で叩き潰す、他の龍にも手が付けられない様に成っていた。
虎も不老不死だったが、蒼は何回も殺していた。
其処へ亀が来た、
「青龍よ、静まれ」
蒼は一旦止まった、そして
「婚約者を殺され許せと云うか?」
蒼の怒りは止まらない、が他の龍にも止められやっと暴走は止まった。
蒼は冷たくなった婚約者を背に乗せ何も言わず帰って行った。
第六話 誰にも会わない
蒼は奈々を奈々が好きだった花畑に埋めた。
あんなに愛し、愛され、もうすぐ結婚をしようと考えた婚約者を他の神に殺された。
「怖かっただろうに、心細かっただろうに、痛かっただろう、側に居られずすまなかった。奈々、すまない、奈々の笑顔が見たい」
蒼はあれからずっと花畑に話しかける、それからは他の龍にも誰にも会わなかった。
月1回の会議にも出なくなった。
「仕方が無いと思う、あんなに相思相愛の2人だった、青龍の心の傷は深すぎる」
黒龍が言うと、白竜も
「奈々さんのあの無邪気な笑顔は青龍の宝だっただろう」
竜神達は皆、蒼と奈々の事を考え気が重くなる。
「何とか時間が掛かるとは思うが元の青龍に戻れると良いが」
皆、心配していたが、青龍は奈々を失った喪失感は無くならなかった。
この頃に成ると使用人にも必要な事以外は喋らなくなっていた。
蒼が話すのは奈々の居る花畑だけに成って居た。
誰にも会わず奈々を失って250年が経っていた。
やっと月1度の会議にも出て来るようにはなったが、話は殆どしなかった。
青龍の管理している村や町は荒れはて、人が住めない様な土地に成って居た。
「青龍、お前の管理している村や町が荒れ放題だ、何もしないのか?」
朱龍が聞くと青龍は
「何処へでも行けば良い」
龍達が初めて見る蒼だった、蒼は村や町の事を本当に良く見て管理していた、
そんな蒼がそんな事を言うとは思わなかった。
まだ蒼の闇は深かった。
蒼はいつもの様に花畑に話かけていた、いつもなら奈々が返事をしてくれている感じがしていたのに
最近は返事をして貰えなくなった。
「奈々、何故、返事をくれない?」
寂しさが増して蒼は泣いていた。
第七話 山での怪我人
蒼が屋敷の周りを見回る様に成って居た。
鳥居には入って居ないが、鳥居付近に怪我をして動けずに居る娘が居た。
仕方なく人の姿に成り、
「どうした?」
と聞くと娘は
「滑って足を挫いたみたいです」
蒼はドキッとした、聞いた事のある声がした。
直ぐに座り足を見ると娘は
「すいませんありがとうございます」
と、言って顔を上げた。
「奈々」
「えっ?」
其処には奈々そっくりの娘が居た、声も何もかもが同じ娘だった。
「大丈夫か?家まで送って行こう」
蒼が言うと娘は首を振り木を杖にして帰って行った。
蒼の心臓は爆発しそうな位脈打っていた。
蒼は屋敷に帰り花畑に居る奈々に
「奈々、君にそっくりな娘に会ったよ、声も何もかも同じだった」
しかし、返事はもうない。
次の日、何故か、花畑は色とりどりの花だったのに1日で花が全部青い色に変わっていた。
「何で?奈々君は私の事を怒っているのか?そっくりな娘を見つけたと言ったから」
そう言ってまた部屋に入って行って出てこなかった。
白龍が蒼の様子を見に来た。
「何かあったのか?」
蒼が言うと、白竜は
「いいや何も無い、そろそろ250年だ、自分の管理している土地の事を考えてくれ」
と、言った。
「250年経っても、私の奈々は帰って来ない、土地の管理はする、それで良いだろう?」
蒼はそう言って白龍を返した。
蒼を呼ばず、緊急会議をした。
「青龍の土地はどうだ?」
黒龍が言うと、白龍は首を振る、
「しかし、この間青龍の所に行き言ったら管理はちゃんとすると言っていた、大丈夫では無いか?」
「やっと、管理してくれる様になったか」
黒龍はため息を付いた。
第八話 生贄の娘
何人もの生贄が途中で居なく成ったり、自害したりしていたが、蒼は関心が無かった。
今回の生贄を鳥居までメジロが迎えに行くと其処には奈々そっくりな娘が居た。
「どうぞ此方に」
メジロが言うと娘はついて来た。
そして青龍の姿の蒼に会う正座をして頭を下げていた。
「珍しいな、生贄が此処まで来るとは」
「初めまして竜神様、花16歳でございます」
その声に蒼は人の姿に成り花の顎を上に向けちゃんと顔が見えるようにした。
「あの時の」
蒼が言うと、娘は
「昨日はありがとうございました」
と、また頭を下げた。
「メジロ娘を頼む」
そう言われメジロは花を風呂に連れて行き洗い流す、汚れた身体を頭を洗い終えると益々奈々その者だった。
着物を着換え、蒼の元に連れて行く、蒼の部屋に入り挨拶をした。
「少し痩せたか?」
蒼は奈々に話して居る様に言ってしまった。
娘は始め良く分からない様にしていたが、急に頭痛を訴え倒れてしまった。
蒼は抱きかかえ布団に寝かせた。
いけないと思いながら娘の額に手を置き記憶を見る。
不思議な事に記憶が殆ど無い、だが、怖いと言う感情が有った。
蒼は不可思議な現象に困惑する。
今日は月1度の会議の日だった。
蒼は急ぎ会議に行く、他の龍に聞こうと思ったからだった。
そして見た事を言うと皆、困惑していた。
「では、ちょっと青龍の家に行こうか」
朱龍が言い、皆で行く事に成った。
花はまだ寝たままだった、次々に額に手を置くが分からない
他の部屋に集まり花の状態を気にしていた。
「みみずの話によると、あの娘はふらっと村に来て住み着いたらしいが過去の記憶が無い様だったらしい、だから今回生贄にされたのだと、しかし崖を怖がる様だ」
黄龍が聞いた事を言う。
「庭の、奈々を埋葬した花畑の花が1日で全部青い花に成った。」
蒼が言うと、少し考え
「亀さんを呼ぶか」
黒龍が言った、そして呼ばれた玄武は娘の額に手を当て記憶の奥まで読む
皆の居る部屋まで来ると玄武は
「信じがたい事だが、良いか?」
そう言った、皆が頷くと
「記憶が無いのは、その期間の事を忘れている為。崖を恐れるのは崖から落ちたから、崖から落ちた記憶を思い出したくないからそれより前を思い出せない」
「玄武、何が言いたい?」
蒼が言うと玄武は
「ならあの娘の記憶を操作して崖から落ちた事の前後の記憶を消してやれ、そうすれば分かる」
そう言って帰って行った。
第九話 記憶の操作、再会
「しかし、記憶を操作すると言う事は婚約する事だろう?」
黒龍が言うと、
「絶対ではない、操作し元に戻すだけなら婚約ではなくなる、決めるのは青龍だ」
皆が青龍を見る。
「やってみよう」
娘が目を覚ました時に記憶の操作をする事を伝えた、娘は自分が何者かも分からないからと言って承諾した。
「目を瞑れ」
娘は目を瞑った、ふさふさした物が頭に触り何かを忘れさせ何かを思い出した。
目を開けた娘は蒼に抱き着き
「蒼様、お会いしたかった」
そう言った。
「奈々なのか?」
蒼が聞くと娘は
「蒼様、私を忘れてしまったのですか?他に良い人が出来てしまったのですか?」
そう言って泣いた。
其処にアカが来て玄武の言った最後の言葉を伝えた。
「玄武様は生まれ変わり怖かった時の記憶を消せば元に戻ると言い残して帰って行かれました。」
「ああ私の奈々、永い間、奈々を待って居た。」
そう言って抱きしめた。
「本当ですか?もう他に妻を娶ったりしていないのですか?」
まだ泣いている、蒼は涙を拭い
「奈々の他に私の妻に成る人は居ないよ」
そう言ってまた抱きしめ蒼も泣いた。
他の龍達は分からない様に帰って行った。
「本当に永い月日、奈々だけを待って居た。」
「またお会い出来て嬉しい」
自分が何故死んだのか、何が有ったのかを忘れさせた。
その事に触れてはいけないと玄武は言っていた。
「250年永かった、でもやっと会えた。もう離しはしない、直ぐにでも結婚の儀式をしよう。奈々が良ければだが」
蒼は250年前の様に奈々を愛しそして今まで休んでいた自分の管理している村や町の管理をした。
やっとこの土地で生きて行く事が出来る様に成ったと人々は喜んだ。
使用人達も喜んだ、今度こそ守って見せると心に誓った。
第十話 2度目の婚約
奈々はこの頃から死ぬまでの記憶を消していた、1度婚約しているが、もう一度此処から始めようと蒼は思い、他の龍にも伝え、了承を得ていた。
奈々が着替え蒼の元にやって来た、蒼が龍の時と同じ色の着物で白で花の柄が有る着物だった、そして一回目と同じ龍の簪をして現れた。
「如何ですか?」
そう聞かれ蒼は
「奇麗だ、良く似合っている、さあ私の婚約者、乗ってくれ」
奈々は蒼に乗った、そして首の所に抱き着く
「怖いか?」
そう聞くと奈々は
「離れていた分を取り戻したいのです」
と、微笑みながら言う。
「そんな可愛い事を言わないでくれ人間に成って抱きしめたくなる」
2人んで笑い会う、蒼はこんな日がまた来るなんて思ってもみなかった。
山に着き皆が揃って居るのを確認すると、
「すまない、宜しく頼む」
蒼は皆に言った。
2人の名前を書き、他の龍は立会人として名を書いて婚約の儀式は終わった。
「こんなに仲が良いと結婚の儀式も早そうだな」
白龍が言った、他の龍も今回は結婚して欲しいと思って居た。
蒼はそのまま帰った。
「では着替えて来ますね」
奈々が言うと蒼はそのままで良いと言って、抱きしめる。
触れていないとまた無くしてしまいそうだった。
「蒼様大丈夫です。奈々は居ますから」
そう言って蒼を抱きしめ返した。
「私は明日にでも結婚の儀式をしたい」
「まあ、蒼様ったら、もう少し後ですよ」
奈々はクスクスと笑う。
「でも、私も蒼様の妻に成りたいです」
頬を染めながら奈々は着替えに行った。
夕食を一緒に食べる事すら楽しいと思って居た。
2人は時を埋める様に一緒に居た。
第十一話 花
奈々の記憶が戻った時、青かった花はまた色々な色に成っていた。
きっと、奈々が生まれ変わった時なのだろうと蒼は思って居た。
「沢山咲いてますね、とても奇麗」
2人で花を見ていた、
「結婚の時の着物は何にするのだ?」
急に蒼が聞いたのに驚いて、
「何を着ましょうか?」
奈々が聞いた。
「やっぱり白無垢か?」
蒼は想像して赤くなった、それを見て奈々は笑った。
「奈々が笑うとまるで花の様だ」
蒼はうっとりと奈々を見た。
奈々は赤くなり
「蒼様、どうしたのですか?そんなに甘やかすと後で大変ですよ」
恥ずかしそうに蒼に言う。
「良いのだ、時を埋めたいのだ、お互いずっと待っていたのだから」
「はい」
奈々はそう言って蒼の肩に頭を乗せた、その頭を蒼はずっと撫でで居た。
夜の見回りもする様になり、奈々を乗せて飛んだ。
「今日は星が綺麗ですね」
「そうだね、でも奈々の方が綺麗だ」
蒼はやっと会えた奈々を愛おしくて仕方なかった。
奈々も同じだった、永い時間離れていたからか蒼のぬくもりを感じたかった。
次に日、幾つかの反物が届いた、白無垢用では有ったが模様が有る物も有った。
「蒼様、これは?」
奈々が聞くと蒼は
「待って居られなくてね、どれが良いか幾つか似合いそうな物を選んだ」
「気が早いですね旦那様」
アカが言うと蒼は拗ねた様な仕草をした。
「楽しみで仕方無いのですね、奈々様」
アカが言うと奈々は赤くなった。
其処へメジロが入って来て反物を見て
「奈々様にお似合いの物ばかりですね」
色々と奈々に合わせてみていた。
第十二話 結婚の儀式
蒼が待ちに待った日がやって来た。
白無垢姿の奈々が歩いて来た、蒼が見ると、白地に花の刺繍が入っている物だった。
蒼が一番似合うだろうと思って居た着物だった。
青く薄い布を頭に被り蒼に乗った。
「やっとこの日が来た」
蒼が言うと奈々は
「私もです、本当に幸せな日に成ります」
そう言って蒼に抱き着く
「何だか飛びたくなくなった」
「蒼様、それでは結婚の儀式が出来ませんよ」
そう言われ蒼はしぶしぶ飛んだ。
婚約の儀式と同じ所に行くと、もう他の龍は来ていた。
奈々を降ろし鱗を1枚取り皿に乗せ奈々の前に置く
奈々は鱗を食べた、身体が熱くなり全身が熱くなったら熱は冷めた。
奈々の髪が青に成って居た。
「奈々、青い髪も良く似合う」
奈々は振り返って蒼に抱き着く
「蒼様と同じ色です。嬉しい」
蒼は泣きながら、
「やっと、やっと私の奈々に成った、永かった」
「はい、永い間、お待たせ致しました、これでやっと夫婦に成れましたね」
そう言って蒼の涙を拭く、奈々も泣いていた。
他の龍達もこの2人の出来事を思うと本当に生まれ変わりの奈々に出会えた事が強い愛故にこうなったのだろうと思って居た。
暫く2人は泣いていた、嬉しくて仕方無いのは分かって居たが
「もう、2人共屋敷に帰った方が良いのでは無いか?」
「ああ、すまない、そうさせて貰う」
奈々を背に乗せ家路に着いた。
家に帰り2人は手を繋いで帰って来た。
使用人達は
「おめでとうございます旦那様、奥様」
そう言って迎えた。
最終話 幸せを感じて
やっと夫婦に成れた2人は本当に仲が良かった。
永い時を埋めるには長過ぎる時間だった。
「蒼様、この箱は?」
奈々が聞くと、蒼は少し恥ずかしそうに開けて良いと言った。
箱を開けると其処には2頭の龍がお互いを見ている簪だった
「奇麗、」
奈々が言うと、蒼が
「夫婦に成って初めての贈り物だから、これが良いと思って」
と言って居る途中で奈々は蒼に抱き着いた。
「嬉しい、夫婦龍ですね」
蒼も奈々を抱きしめ
「そうだな、気に入ってくれたら嬉しい」
そう言って奈々の顔を上に向かせ口付けをした。
「蒼様、私、私、本当に嬉しくて、言葉が見つかりません」
蒼は強く抱きしめ
「もう、ずっと一緒だ、これから永遠に共に居てくれ」
「はい、はい、ずっと蒼様と居ます」
2人はずっと抱き合って居た。
そしてまた手を繋ぎ散歩をした。
全ての物がキラキラと輝いて見えた、奈々が居ない時は何も感じなかった場所ですら蒼は楽しかったし、幸せを感じていた。
奈々も全てが夢だったのでは無かったのかと思う様な気がしていた、蒼と同じ様に奈々も幸せを感じていた。
そして2頭の龍の簪をいつも付けていた。
ずっと、ずっと共に居られる様にと願いを込めて