黒龍編
第一話 出会い
昔からこの国には竜神が住むという山が有った。
山の周りには4つの村が有り、各村は竜神に貢物を添えないと大地は枯れ、山の幸、海の幸は取れなくなる。
各村は貢物を決め、納める時期も決まって居た。
ある夜、黒龍は夜空を飛んでいた、偵察や村の安全を見て回っていた。
ある村の上を飛んでいた時、娘が男5人に襲われそうになって居た。
急ぎ近くに降りて人間の姿に成る、娘の叫び声が聞こえ、その声の方に向かう。
娘は押し倒され暴れたからなのか殴られて居た。
「おい、お前達何をして居る」
黒龍が言うと、男達の4人が黒龍にかかって来た。
「グワッ」
4人の男は簡単に倒されてしまい、最後、娘に馬乗りになって居た男も黒龍に倒された。
娘は着物を直し
「本当にありがとうございました。」
と、深々と頭を下げて礼を言った。
「こんな夜遅くに若い娘が外に出るものでは無い、殴られた頬が腫れている、痛いだろうに」
黒龍はそう言って娘に濡れた布を優しく頬に当てた。
「見ず知らずの方に助けて頂き何てお礼を言って良いのか」
「君が無事なら良いのだ、気を付けて帰りなさい」
娘は黒龍が見えなくなるまで頭を下げていた。
黒龍はまた空を飛んだ。
娘は、夜の空を飛ぶ漆黒の龍を見る為に外に居たのだった。
「あの方は誰だったのだろう、この辺の方ではない様な、見た事も無い、でも助けてくれてありがとう」
娘はまた、礼を口にして家に帰った。
「お帰りなさいませ旦那様」
使用人が出迎える。
「何か有りましたか?」
「そうだな、今日は襲われていた娘を助けた」
「また、物騒な時代に成ったのでしょうか?」
「そうなのかもしれないな」
使用人のコイと話して居た。
第二話 次の夜
次の日の夜も黒龍は空から偵察をしていた。
すると昨日娘が襲われていた場所に、昨日の娘が此方に手を振っていた。
黒龍はまた人の姿に成り、娘の元に行った。
「昨日、言ったであろう?何故こんな時間に外に居る、また襲われるぞ」
そう言うと、娘は
「知ってますか?この時間位に成ると空に竜神様が通るのです。月に竜神様が重なる時とても奇麗なんですよ」
娘はキラキラした目でそう言い黒龍を見た。
「だからと言って、また危ない目に有ったらどうするのだ、早く家に帰りなさい」
娘は微笑みそうですねと言った。
帰るのを見送っていると娘は振り向き
「私、美沙です。お名前を聞いても良いですか?
「クロスだ、咲、早くお帰り」
美沙は小走りに帰って行った。
まさか自分を見る為に危険を冒す娘が居るとは思わなかった。
「でも、近くで龍を見たら怖いだろうな」
クロスはそう言って帰って行く。
帰る途中、連日の雨で山が崩れそうに成っている場所が有った。
「これが崩れたら、あの娘の村は飲込まれるか?」
独り言をつぶやき崩れそうな所を直しておいた。
美沙は家に帰り、酒を父親に渡した
「毎回、お前は酒を買いに行くと帰りが遅い、のろまな女だ」
父親は美沙を殴った。
「ごめんなさいお父さん、ごめんなさい」
母親が亡くなり父は働かず酒ばかり吞んでは美沙に暴力を振るう。
「お父さん、もうお金が有りません」
美沙が言うと、お前みたいな娘でも吉原で売れるか?」
そう言って美沙を見た。
美沙は怖くなり布団に入った。
第三話 助けて
昼間は畑仕事をし、井戸で洗濯をする、川に行き魚を取り、売りに行く。
野菜と魚を売っても金は父親の酒に消えた。
出来の悪い野菜、傷が付いた魚が夕食になる。
「美沙、早く酒を買って来い、もう無くなる」
「お父さん昨日お酒は買って来た筈です」
美沙が言うと父親はさっさと行けと蹴り飛ばし家から出す。
農民の中でも特に美沙の家はお金が無かった。
酒屋へ向かう酒屋の女将が
「美沙ちゃんまたお酒を買いに来たの?此処の所、毎日だね?」
「すいません、もう終わるみたいで」
酒を入れた陶器を渡されたが、お金が少し足りない
「女将さんすいません、お金が少したりないんです」
申し訳け無いやら、恥ずかしいやらで泣きそうになる。
「いいよ、毎日買いに来てくれているからおまけするよ」
女将さんは優しくおまけしてくれた。
酒を持って帰る時に丁度、月と黒龍が重なる時なのだった。
美沙は月を見る、
「竜神様だ、本当に奇麗」
クロスに言われていたので小走りに家に帰った。
空から黒龍も娘を見ていた。
次の日美沙は毎日の畑仕事、洗濯、魚取りに加え山に薬草を取りに行った。
少しでも金に成ればと働いた。
何とか金にはなったが、今日も酒で金が無くなる。
「お父さん、お願いお酒をもう少し減らして」
美沙が言うと、父親は美沙を殴り、蹴りし
「もういい、お前は売る」
そう言ってまた酒を飲んでいた。
次に日下賤の男が来た、美沙の顔を良く見てから父親に金を払い
「吉原へ行けばまた金を借りられる」
と父親に教えて紐で片手を縛り、逃げられない様にして歩き出す。
村人は皆、可哀そうだと思って居たが、何も出来ないし、何か言ったら暴れられる。
ただ見送るしかなかった。
竜神の生贄は決まって居たから美沙には用が無い。
美沙は懸命に心の中で助けを求めた。
「竜神様、お願いです私を助けて、吉原に行きたく無い」
その願いは黒龍に届いた。
第四話 怖い
近道の森に入った時だった、強い風が吹き男は何かに弾き飛ばされた。
美沙の目の前に大きな黒龍が居た。
美沙は後ずさりする、助けてを願ったのは確かに美沙だ、しかし空を飛んでいる黒龍しか見た事が無かった美沙はこんなに黒龍が大きいとは思って居なかった。
美沙は思わず怖いと思ってしまった、美沙が感じた恐怖は黒龍に伝わってしまった。
「すまぬな美沙、怖い思いをさせた、売られるのを助けたかっただけだ、もう会う事は無い達者で暮らせよ」
黒龍はそう言って天に昇って行った。
男は黒龍を見て逃げ出していた。
しかし、美沙は家に帰っても同じ事が待って居るだけだった。
家に戻る途中、村の中で泣いている娘が居た。
梅だ、竜神の生贄に選ばれた娘だった。
村の占い師が選ぶ、しかし今までの娘は竜神より村に戻されていた。
「竜神様の気に居る娘を捧げないと」
村の15歳から20歳の中から占いで選ぶ、選ばれた者は何処にも逃げない様に領主の家で奉公する。
来るべき時の為に。
美沙は家に帰った、しかし、父親は優しかった、美沙を売った金が有り、美沙が帰ってくればまた稼いでくれるからだ。
いつもより酒が進み、またいつもの父親に戻る、
「美沙、酒買って来い、今日は2本だ」
「お父さんお酒の量が増えてます、直ぐにお金が付きますよ」
美沙が注意するといつもより呑んでるせいか、暴力は激しくなっていた。
「お父さん止めて、痛い、痛いと言いながらお腹を蹴られるのを我慢する」
家から出されまた酒を買いに行かされる。
「美沙ちゃん、大丈夫かい?今日は一段と傷が凄い、お父さんは酒を辞めないのかい?」
「はい、言っても、酒を隠しても直ぐに見つけ吞みながら暴力が酷くなってしまって」
可哀そうにと女将は言いながら酒を2本用意した。
美沙はそれを持って家に帰る時、空を見たが、あれから黒龍を見る事は無くなってしまった。
「襲われた時助けてくれた、腫れた頬を濡れた布で冷やしてくれた、売られそうになった時にも助けてくれた、遅いから早く帰れと言ってくれた、優しくしてくれたのに大きいからと云って怖がってしまった。」
美沙は歩きながら黒龍の事、クロスの事を思って居た。
「竜神様、ごめんなさい」
呟く様に言いながら家に入ると、遅いと言って酒を奪い取る様にして呑みまた美沙を殴った。
こんな暮らしなら売られた方が良かったのかもしれないと思ってしまった。
第五話 それでも
梅の所に呉服屋が来ていた、白装束を作る為だった。
山に登って行くと鳥居が有りそこから入れる唯一の人が生贄だった。
梅はまだ15歳だった、あれからずっと梅は泣いていた。
悪い龍では無いと美沙は知っている、とても優しい龍だと知っていた。
間地かで見た竜神は大きく怖いと思った事も事実だ。
ただ何故か、他の娘が生贄で竜神の元に行く事が何だか嫌な気持ちに成った。
怖いでも、他の娘が竜神の所に行くのは嫌だ。
美沙は城主の元に行った。
「領主さま、お願いがございます」
玄関先でお辞儀をし領主と話をしたいとお願した。
領主が出てきて
「美沙、何の用だ?今は忙しいと知っているだろう、生贄の用意が有る、父親の事なら私は知らん」
そう言って奥に行こうとする領主を呼び止め
「領主様、私を生贄にして下さい」
お願いする。
領主は立ち止まり、美沙を見た。
「生贄は占いで決めている、お前は選ばれていない」
「分かっています。でも、占いで選んでも皆帰って来るでは無いですか?お願いします」
領主は考え
「お前は、酒ばかり吞んでいる父親から離れたいだけだろう?」
「いいえ、私が生贄に成りたいのです。殺されても、食べられても良いのです」
美沙は必死だった、竜神に有って謝りたい只それだけの気持ちで言った。
領主はため息を付き、お前の父親に聞くと言って美沙の家に来た。
領主を見た父親は一瞬止まり、どうしたのかを聞いた。
「お前の家の娘が生贄に成りたいと申して聞かない、生贄にして良いか父親で有るお前に聞きに来た」
父親は考えた、収入が無くなると酒が吞めなくなる。
「お前の娘が竜神に気に入られれば、十分な施しが有るだろう」
領主が言うと、父親の顔が変わり
「でしたらどうぞ、生贄にして下さい」
そう言ってまた呑み始めた。
第六話 記憶の操作
美沙は出発の用意をしていた、白装束は途中から美沙に合うように作り替えた。
持って行くものは櫛だけだった。
朝、おにぎりを作り途中で食べようと作った。
「では、お父さん行って来ます。」
頭を下げて最後の挨拶をしたが、父親は金を置いていけと言って全部取られてしまった。
鳥居までは付き添いの者が居たが、鳥居に付くと直ぐに村に引き返して行った。
持って来たおにぎりを食べ鳥居で待つと赤と白の模様の着物を着た女性が来た。
「さあどうぞ此方へ」
そう言われ付いて行く、山の中腹に入ると籠が待って居た。
籠に乗る様に言われ籠に乗った、初めての籠だった。
暫く籠に揺られると、籠が止まり降りる様に言われた。
中腹から頂上までは早く着いた。
洞穴の奥に案内されて付いて行く、奥はとても広くなって居て左側には屋敷が立っていた。
前を向くと竜神が居た。
竜神の前に座り
「美沙と申します。宜しくお願い致します」
そう言って頭を下げた。
「お前は、何故お前が来た、来るのは他の者だろう?」
黒龍は驚きながら美沙に聞いた。
「はい、他の女性が来ることに成って居ましたが、私が志願致しました。」
「頭を挙げよ」
言われる通りに頭を挙げ黒龍を見る、やはり黒龍は大きく怖かった。
「怖いと思って居るのに何故志願までして此処に来た?」
「申し訳ありません、怖いと思って居るのは確かなのですが、それでもクロス様に会いたかった」
暫く間が空く
「気に要らなければ殺すなり、食べるなりして下さい」
そう言ってまた頭を下げた。
黒龍は少し考えてから
「美沙に聞くが、もしも私が美沙の記憶を操作し龍の時の私も怖くなくなれば美沙はどうする?」
咲は頭を挙げ、少し考える
「怖くなくなるのであれば、記憶の操作をして頂きたいです。私は竜神様が怖いのではなく、大きくて怖いだけなのです」
「其処までしてでも私と居たいというのか?」
「はい、一緒に居たいです、竜神様が許して下さるなら」
美沙は目に涙を貯めながら言う、黒龍は決めた。
「ならば目を瞑れ、良いというまで開けるな」
「はい」
美沙は目を閉じた、ふさふさと頭を撫でられている感じがした。そして何かが薄っすらと記憶が無くなって行く感じがした。
「目を開けても良いぞ」
目を開けると前には黒龍が居る、しかし何が怖かったのか分からない、そもそも怖かったのかすら分からない。
目の前の黒龍は漆黒で美しく見えた。
第七話 ずっと一緒に居たい
美沙は黒龍に微笑んだ。
「コイ、美沙を風呂に入れ洗ってくれ、スズメ、美沙に着物を用意してくれるか?」
二人は、はいと言って美沙を屋敷に連れて行く
風呂に入るとコイも入って来た。
「コイさん、1人で大丈夫です。」
恥ずかしくてそう言うと、言いつけですのでと言って美沙を洗う。
初めての風呂だった。
美沙から流れる水が茶色に濁っている、身体を拭くだけだった汚れていたのだろう。
頭も洗われる自分がこんなに汚れていたのかと思うと恥ずかしい
「コイさんすいません汚れていて」
コイはいいえと言いまだ洗っていた。
随分長い間洗われていた
「終わりましたよ、さあ湯に浸かって疲れを取って下さい」
コイはそう言って出て行った。
「気持ちいい、お風呂とはこんなに気持ちが良い物なのね、コイさんが沢山洗って奇麗にしてくれたからだよね。」
美沙は独り言を言っていた。
風呂から上がるとスズメが待って居た、身体を拭き新しい着物を着せてくれる。
初めてこんなに高価な着物を着た。
「さあ此方へ、旦那様が待って居ます。」
スズメに付いて行く、奥の部屋に行く前に手前の部屋を開け
「本日からこのお部屋が美沙様のお部屋に成ります、有る物は全て美沙様の物ですので自由にお使い下さいね」
中を少し見て驚いた、元居た自分の家より大きな部屋だった。
奥の部屋に付き
「旦那様、美沙様がいらっしゃいました」
「入れ」
襖が開くと其処には人間の姿のクロスが居た。
中に入りクロスの前に座り頭を下げた。
「うん、美しくなったな美沙」
そう言われて美沙は頬を染める。
「クロス様のお陰です、ありがとうございます」
本心でそう思って居た。
「夕食を食べたら少し話が有る、良いかい?」
「はい」
クロスはいつも優しく美沙に聞く、2人で食事をした。
今まで食べた事の無い程美味しかった。
食事が終わり、クロスは美沙の手を引いて洞穴から出た。
夜空を見ながらクロスが話を始める
「このまま行くと、私たちは婚約し、その後結婚する事に成る、結婚するには私の鱗を食べ不老不死と成る、美沙が嫌なら操作した記憶を戻し、村に返す。美沙はどう思っている?」
美沙は気持ちを決めていた、考えるまでも無かった。
「私はクロス様と、共に居たくて志願しました、そして記憶を操作して頂きました。もう、ご存じかと思いますが私は17歳です。今、思う事はクロス様は私で良いのかです」
「歳は知っていた。私は初めて美沙が手を振ってくれた時から、いや、その前から美沙が気に成って仕方無かった。だから人間の姿で美沙に会った。」
美沙は嬉しそうに笑った。
第八話 婚約
クロスの話に美沙は私はそうしたいと言った。
クロスも美沙にばかり言わせるのは卑怯だと思い
「私は美沙が一緒に居てくれたら嬉しい、会って間もないが信じて欲しい、愛している」
「はい、信じています。私もクロス様を愛しています」
2人は抱き合い初めて口付けをした。
黒龍が婚約すると他の龍にも報告があった。
婚約の日、美沙は驚く様な事を言った。
「婚約と結婚は同じ日には出来ないのですか?」
クロスは笑いながら別の日だと答えた。
美沙は着替えて奇麗な花柄の着物でクロスの上に座る。
「これから婚約の儀式をする、他の龍が来るが驚くなよ」
「はい、クロス様が居て下されば私は大丈夫です」
「では、行って来る」
使用人に言って飛び立つ
「いってらっしゃいませ」
皆に見送られ集まる場所まで行く到着すると美沙が驚いていた。
「竜神様はこんなに居るのですか?」
クロスは驚くなと言っただろうと笑っていた。
「黒龍が笑う所を初めて見た気がする」
朱龍が驚きながら言った。
「竜神の中で婚約が一番遅かったのは黒龍だったか」
黄龍が言った。
「クロス様婚約の儀式は何をするのですか?」
美沙がクロスの手を握り質問する。
「私と美沙の名前を書き、立会人で他の龍達にも名を書いて貰うのだよ」
美沙は他の龍達に向かい
「宜しくお願い致します」
と頭を下げた。
2人の名前を書き、他の龍にも書いて貰い婚約が成立した。
「黒龍がこんなに女子に優しく話すとは思わなかったな」
白龍が言うと、クロスは美沙にだけだと堂々と言った。
美沙はクロスの腕にしがみ付いて
「クロス様、私嬉しいです」
と、頬を染めて言った。
クロスは美沙の耳元で私もだと言った。
第九話 嬉しい
婚約した後、家に帰り使用人に改めて
「皆様、これからも宜しくお願い致します」
と、頭を下げた。
「美沙様、お辞め下さい私達に頭を下げるなんて」
コイが言うと咲は
「皆さんが居ないと私は何も分かりませんし何も出来ません、ですからお願いします」
美沙は使用人が何者かを聞かなかった。
クロスが居ない時にコイは美沙に聞いた。
「我々が何者か聞かないのですか?」
「何者でも良いんです。クロス様にお仕えしているんですもの良い人だと思います」
その言葉を他の使用人に言うと、皆ビックリしていた。
「少し変わった婚約者様だね、でも、嬉しいではないですか?何者でも良いって言ってくれて本来なら嫌がると思うけどね、コイは鯉、スズメは雀、タカは鷹、僕は蛇だからね」
コンが言う。
「最初に、旦那様が娘を助けたと言った時、珍しいとは思ったのです、旦那様は見回りをしているけど、人間を助ける事が無かったから、その時から美沙様の事気に成っていたのかしらね?」
コイがそう言って微笑む
「人間は生贄として竜神の元に来るけど、殆どが途中で居なくなったり、崖から飛び降りたりしてしまうからね」
タカが言うと今までの事を思い出す。
「美沙様は自分から生贄にして欲しいと言って来た人だからね。」
「本当に仲が良い2人ですよね、結婚も早いのでは?」
コイとスズメが話をしていた。
「では、早く、支度をしておいた方が良いかもな」
コンが言って、皆、支度を始めた。
「美沙、何回も聞いてすまないが、本当に私と生きてくれるのか?」
「クロス様は私じゃ嫌ですか?私はクロス様と共に生きて行きたいです」
美沙は積極的で一途な女性だった、物事をハッキリ言うクロスはそれが心地良い。
「私も美沙と共に生きて行きたい。私は女性との恋愛に疎いだから美沙に心配や私の心が通じて居ないかもしれないが、私は、初めて会った時から美沙が気に成っていた、そして次の日には美沙の笑顔を見て心奪われただから生贄に咲が志願して来てくれた時とても嬉しかった。」
「私、凄く嬉しいです」
美沙は泣き始めた、本当は気に入って貰えて無いのだと思って居たからだった。
「美沙、泣くな、美沙には笑顔が良く似合う」
クロスは美沙の涙を拭いながら抱きしめた。
次の日、クロスは少し出て来ると言って出かけて行った。
美沙は落ち着かずウロウロしていた。
「美沙様、大丈夫ですよ、さあお座りに成ってお茶と、お菓子です」
「ごめんなさい、スズメさん有難うございます」
美沙は座ってお菓子を食べた、あまりにも美味しくて嬉しそうにしていた。
夕方、クロスが帰って来た、そして美沙を呼んだ。
「クロス様、美沙です」
「どうぞ」
襖を開けて中に入る。
「今日出かけていたのはね、美沙に贈り物がしたくてね、これを」
そう言って箱を2個先の前に差し出した。
「開けても良いですか?」
美沙が聞くと、クロスは頷く、そして箱を開けた
「わあ~素敵な簪と櫛」
「美沙に似合いそうな物を見つけるのに迷ってしまって遅くなった、すまん心配していただろう?」
美沙が心配して落ち着かなかったのをクロスはスズメに聞いて知っていた。
美沙は恥ずかしくなったが、花が散りばめられた櫛、花束に花びらが揺れる簪とても奇麗で美沙は見た事が無い素敵な物だった。
「クロス様、ありがとうございます、とても素敵、嬉しいです」
パッと花が咲いた様な笑顔をしていた。
第十話 このままで
簪と櫛を送ったクロスは美沙の笑顔に時が止まった。
「美沙、婚約して間もないが、私と結婚してくれないか?」
クロスが赤くなりながら結婚を申し込んだ。
美沙は、少し驚いたようだったが、はいと言って泣き始めた。
「美沙、何故泣く?嫌か?」
慌てて咲に聞いた。
「いいえ、嬉しくて、本当に嬉しくて、クロス様とずっと一緒に居られて妻に成れるなんて三奈さんが羨ましかったのです」
美沙の言葉にクロスは美沙の肩を抱き頭を撫でで居た。
美沙はこの幸せがずっと続く事が嬉しくクロスの胸に顔を埋めた。
2人は本当が仲の良かった、使用人もクロスが感情を表に出すのを初めて見た。
このまま、何事もなく結婚まで行けると良いと思っていた。
この結婚は他の神にもしれてしまっていた。
他の神も生贄を妻にする予定だが、どの神も生贄が途中で居なく成ったり、崖から落ちたりと中々妻を娶れないで居た。
竜神達は他の龍の妻になる娘を奪ったりはしない。
が、他の神はどうなのだかは分からない、竜神にとって最後の婚約者だった。
美沙は洞穴の外に出た所にある花畑が好きだった。
色とりどりの花を今までは野良仕事、家の事、魚取り、薬草を取りに行き売ったり懸命に生きていた、周りを見る余裕すら無かった。
「奇麗なお花ですね、取って帰り花瓶に入れましょうか?」
コイが言うと美沙は首を振り
「このまま此処で咲いているのが一番奇麗だと思うので、コイさんありがとうございます。私の事を考えて下さって」
コイは微笑みいいえと答えた。
使用人皆は、この可愛らしい人を守りたいと思っていた、使用人にもさんを付け、呼び捨てで良いと言ってもさんを付けて呼んでいる。
見る物全てが初めての様に目をキラキラさせて聞いて来る、読み書きを教えた時すら一生懸命に覚え、炊事場の手伝いをしようとする、そんな美沙を笑顔のままで居させたかった。
第十一話 貴方以外は
事件が起きたのはそんな時だった。
クロスは夜、毎日の見回りに行っていた。
美沙は花畑に居た、その美沙を見つけた者が居た。
美沙が浮いている、何が起きてるのか美沙にも分からず上を見ると虎に咥えられていた。
「いや、コイさん、スズメさん、タカさん、コンさん助けて」
美沙の声が聞こえて皆、直ぐに穴の外に出る。
美沙を咥え虎は此方を見て帰ろうとした、皆、元の姿に成り美沙を取り返そうとした。
コンとコイは尻尾に嚙みついたが振り落とされ崖にぶつかる、タカとスズメは空中で美沙を助けようと、虎の口元に行くが爪で落とされる。
「ダメ、皆を傷付けないで」
美沙が叫ぶと、虎は
「うるさい女だな」
と言って咲を軽く噛み気絶させる、噛んだ時、美沙の身体に歯が当たり出血していた。
血痕を残したまま虎は自分の山へ帰った。
クロスがいつもの様に帰って来た時、使用人皆が倒れて居るのを見つける。
急ぎ降りて皆に聞く、やっと話が出来たのがタカだった。
「美沙様が虎に連れて行かれそうになり、我々で助けようとしましたが、力及ばず、虎は我等を殺そうとしたのですが、美沙様が辞めてとおっしゃって殺されずに済みましたが、美沙様が噛まれ傷を負われています。申し訳ありません、旦那様」
行き絶え絶えに報告する、状態を見ると相当時間が経っていた。
急ぎ、他の龍に連絡を取る、龍が集まり虎の居る山に向かった。
気が付いた美沙は見た事も無い所に居た、起き上がると右肩に激痛が走った。
まだ血が止まって居ない、クロスが用意してくれた着物も破れていた。
痛みを堪えて起き上げり逃げようとした。
「娘、何処に行こうとしている」
上から声が聞こえた、上を見ると5体の虎がいた。
「いや~」
美沙は泣き叫んだ
「連れて来たが、俺はこの娘はダメだ、うるさい」
白い虎が言うと、赤い虎が
「では、私が頂こう、威勢が良くて良い」
そう言って手で自分の所に美沙を引き寄せる、力加減が分からないのか美沙は引きずられ足にも怪我をした。
「いや、いや、クロス様の所に返して下さい」
泣きながら願う
「黒龍の嫁になる女か、では俺が貰う」
今度は黒い虎が美沙を自分の元にひきずる。
地面に血の跡が残る。
「誰か、助けて、クロス様」
泣きながら呟く、まるで毬の様にされて痛くてたまらない。
其処に来たのは黄色い龍だった。
白い龍も、赤い龍も青い龍もいた、皆が助けに来てくれたと思い意識を失った。
龍達の決断力は凄まじかった、特に黒龍は婚約者の沢山の怪我をし血を流して倒れているのを見た途端に暴走とも云える戦いをした。
虎達は返すと言い他の山に行ってしまった。
「美沙、美沙」
クロスの声がする、何とか目を開け
「貴方以外、美沙は嫌です、クロス様会いたかった」
そう言ってまた意識が無くなった。
クロスは美沙を抱きしめ泣いていた。
黒龍、私に乗れ白龍が言うが、大丈夫だと断り自分の上に落ちない様に乗せ自分の山に帰った。
第十二話 愛している
他の龍の使用人が来てくれクロスの使用人や美沙の手当をしてくれている。
本当に有難い、勿論は他の龍達も居た。
美沙の怪我が酷い、各龍達は使用人の他に薬なども用意してくれた。
「黒龍、落ち着け」
黄龍が言うと、クロスは分かっていると言ったきり、屋敷の方を見ていた。
其処に小さな円盤が来た。
龍の姿に皆が成ると円盤は丁度真ん中に止まり、亀の姿に成った。
龍達は人間の姿に成った。
「私、玄武様の使いで参りました、今回の事を聞きたいとの事です、後、これを、薬でございます、傷は跡が残らない様になります、それとこちらの薬は飲み薬で、血を作る働きが御座います」
他の使用人が来て薬を貰い屋敷に入って行った。
「玄武殿に感謝致します、今回の事は虎が我が婚約者を誘拐しそれを守ろうとした使用人に怪我をさせ、婚約者は大怪我を致しました、此処に居る他の龍達は私の婚約者を奪還する為に来てくれたのです」
クロスが事の成り行きを報告する。
「お辛い中、お話頂き感謝致します。玄武様に報告し、今後の虎の処分を考えます、では失礼致します」
玄武の使いは帰って行った。
「皆、私は怖い、初めて心惹かれ、妻にしたいと思った娘があんな姿で必死に私が来る事を願っていた、死んでしまうのでは無いか、殺されていたのでは無いかと思うと壊れてしまいそうだ」
いつも冷静なクロスが初めて見せた弱い姿だった。
「大丈夫だ、玄武の薬は良く効く傷も残らないと言っていた、しかし何故、美沙さんは狙われたのか?確かに今、妻が居るのは亀達と俺達だけだ、だからと言って誘拐しあんなに傷つける物なのか?」
青龍が言うと、朱龍がただの嫌がらせに見えると答えた。
「黒龍、結婚はどうするのだ?怪我をさせてしまったから辞めるなどと言うなよ?それこそ美沙さんが可哀そうだ」
黄龍が言った、クロスは少し考えて
「美沙に傷が完治したら、直ぐにでも結婚の儀式をしたい、だが、美沙の気持ちを聞いてからにする、決まったらまた連絡する、皆すまなかった、使用人まで借りてしまって」
クロスが言うと、使用人の事は気にするなと皆が言った。
「黒龍様、美沙様がお目覚めに成りました、使用人の方々も、完治致しました」
「良かった、それでは我らは帰るが、美沙さんの側に居てやれ」
黄龍がそう言って皆、使用人を連れて帰って行った。
クロスが美沙の部屋に入ると使用人達が泣きながら看病していた。
「皆さんの傷が癒えて本当に良かった、もう大丈夫なのですか?泣かないでお願い」
使用人の事を気にしていた、そしてクロスを目に捉えると手を伸ばし
「クロス様、お会いしたかった」
そう言う美沙にクロスは抱きしめ
「美沙が居なくなると思ったら自分が止められなかった、美沙が血だらけに成りながら私を求めているのを見たら美沙を失うのが怖くなった、美沙、私も会いたかった、愛している」
美沙はクロスの胸に顔を埋め嬉しい、私も愛していますと言った。
第十三話 結婚
美沙の傷は玄武の薬で早く治り、痕も残らなかった。
元気になって普段と変わらなく過ごせる様に成った時、クロスが話が有ると部屋に呼んだ。
美沙が部屋に入ると、使用人達も皆居た。
「何かあったのですか?」
美沙がクロスに聞くと
「美沙、先ずは今回の誘拐の件守れずすまなかった。私は美沙と結婚をしたいと思って居る、美沙はどう考えているのか、もし私の事が嫌いに成ったのなら記憶を戻し村に帰れる様にする」
クロスは真面目な顔で美沙に聞いた。
「確かにあの時は怖かった、でもクロス様や他の竜神様達が助けて下さった、私がクロス様を嫌いに成るなんて事は永遠にありません」
美沙はハッキリと答えた。
「結婚の儀式は私の鱗を1枚食べて貰う、そうすれば美沙はこのまま不老不死と成り、私とずっと居る事になるが本当に良いのか?」
不安で何度も聞いてしまうクロスに美沙はクスクス笑い
「クロス様の鱗を1枚食べればずっとクロス様と居られるのですよね?こんなに嬉しい事はありません」
クロスの不安を吹き飛ばす様な笑顔と言葉が嬉しかった。
「では、結婚の儀式をする事にする、婚約の時と同じように他の龍が来て立ち会う」
「はい」
美沙は笑顔のまま返事をした。
使用人達も、とても嬉しそうに、準備をしますねと言って出て行った。
「美沙、おいで」
クロスが美沙を呼ぶ、美沙はクロスの横に座り頭をクロスの肩に乗せる。
「クロス様、夢の様です、月の光でクロス様が漆黒の様に見え奇麗だと思い毎日辛いと感じていた日々でしたが、こんな私がクロス様と結婚出来るなんて、志願して来た女を受け入れて下さるなんて本当に幸せです」
美沙は本心を言った。
「確かに志願する女子は居ないな、しかし、美沙でない女子が来ていたら私は村に返していただろうな、美沙が来てくれて良かった、初めて会った時から私は美沙を好きになって居た、今は愛を知った」
美沙の頭を撫でながらクロスが言った、結婚の儀式は明後日に成った。
次の日、咲はコイとスズメに呼ばれ部屋に行くと沢山の着物が並べてあった。
「まあ色とりどりでとても奇麗ですね」
そう言うと、婚礼衣装を出して来て
「明日はこの着物でお願いしますね、この柄なら旦那様からの簪が合うと思います」
コイが言った。
婚礼衣装は白だが、うっすらと花の模様が入っていた。
「本当ですね、明日が楽しみです」
美沙はそう言ってとても幸せそうだった。
当日、美沙は用意してあった着物を着て、簪を差しクロスの元に行く、クロスは美沙の姿を見て顔を赤くした、バレない様に龍の姿に成った。タカに手伝って貰いクロスに乗る、暫く行くと婚約した山に付いた。
他の龍はもう来ていた、クロスの鱗を1枚取り皿に乗せ美沙に渡す。
美沙はその鱗を全部食べた、美沙の身体は熱くなりその熱は直ぐに無くなった。
儀式が終わり、他の龍達は帰って行った、クロスも美沙と帰った。
帰って来て美沙は何か自分に変わった所が無いか鏡を見た。
髪の毛が伸び真っ黒く、瞳の色も漆黒の様に変わっていた。
第十四話 ずっとずっと
結婚の儀式が終わり、正式にクロスの妻に成った美沙は毎日嬉しそうだった。
「クロス様、見て下さい、髪が伸びて髪も、瞳の色もクロス様の様に漆黒です」
クロスはそんな美沙を微笑ましく見ていた。
「そうだな、同じだな」
クロスが言うと美沙はクロスの腕に自分の腕をからませ
「これからずっと一緒に居られるなんて本当に私は幸せです」
「美沙、少し聞きたいのだが、美沙は好いた男が居た事は有ったのか?」
クロスが急に聞いて来た、美沙は迷うことなく
「いませんでした、初めて好きに成った男性はクロス様です」
言わせておいてクロスは赤くなる。
「何故その様な事を聞くのですか?」
美沙が不思議がってクロスに聞いた。
「何だか、過去の事とは云え美沙が好いた男が居たら嫌な気分になる」
美沙はふふっと笑い
「やきもちですね?クロス様は?」
「美沙以外居ない、気に成った事も無い、私は美沙だけだ」
「私もクロス様だけです」
お互いに微笑み口付けをした。
結婚してからはクロスの夜の見回りに美沙も同行する様になった。
ひと時も離れて居たくは無いのだろうと使用人達は微笑ましく思っていた。
美沙の為に使用人達は花畑を大きくし種類も増やした、季節ごとに見られる様にした。
それを聞いた美沙は使用人皆に抱き着いた。
「ありがとうございます、凄く嬉しいです」
そんな美沙をクロスは微笑ましいと思いつつ嫉妬していた。
すると美沙はクルっとクロスの方を向きクロスに抱き着いた。
「クロス様、皆さんが花畑を手入れして下さいました」
顔を上げクロスを上目使いの様に見る、クロスはそんな美沙が可愛くて仕方なかった。
「美沙はまるで幼子のようだな」
そう言うと頬を膨らませ
「もう17です、大人の女です」
その姿さえ愛おしいく思い使用人が居る事を忘れ口付けをする。
「クロス様、皆さんが見ています」
美沙は顔を真っ赤にして胸に顔を埋める。
「すまん、つい可愛くて」
そう言って美沙を抱きしめた。
「ずっと、ずっと皆と美沙と私で生きて行こう」
「はいクロス様」
最終話 私の花嫁
二人の夜の見回りはまるでデートの様だった。
ちゃんと見回りはしているがこの時間が2人は好きだった。
「これで竜神は全ての者が結婚した事に成るな、でも良かった、美沙が来てくれるまで待って居て」
「クロス様、嬉しいです。私も志願して良かったと思って居ます」
龍に成ったクロスの首に抱き着く、それがクロスは好きだった。
「皆さん仲が良いのですね、見ているととても幸せそうで嬉しい」
「何を言う、私達が一番仲が良いと思うが?」
クロスが恥ずかしさを隠しながら言うと、ふふっと声がした、きっと美沙は笑みを浮かべているのだろうと感じた。
このまま永遠に一緒に居られる事を幸せだと思う気持ちを互いに教え合っていた。
「クロス様、竜神の皆様と奥様達がずっと幸せで居て欲しいです」
美沙が言うと、クロスは
「知っているか?竜神は愛情深い生き物なのだ、だから心配はいらない、皆ずっと一緒で、ずっと幸せだ」
「良かった、私も他の竜神の奥様達と仲良くしたいです」
クロスの首を抱き締めたまま言うと
「大丈夫、美沙なら皆とも仲良く出来る、只、竜神は嫉妬深いから他の龍と仲良くするなよ」
と云う
「行く時はクロス様と一緒ですから大丈夫ですよ」
美沙は毎日が幸せで嬉しくてたまらなかった。
「今日の見回りは終わりだ、家に帰ろう」
そう言ってクロスは家に向かって飛んだ。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」
「ただいま帰りました」
使用人が出迎え美沙は微笑みながら言った。
「旦那様、本当に美沙様が奥様に成り良かったですね、私達も嬉しいです」
コイが言う
「そうだな、私もそう思って居る、皆ありがとう」
クロスはそう言って美沙の後を追った。
最近では一緒に寝る事も多くなった。
先に布団に居たクロスが美沙を布団へ呼ぶ、美沙はまだ恥ずかしがっているが
「さあおいで、私の花嫁」
その言葉に誘われる様に布団に入った。
「可愛い私の花嫁お休み」
そう言って美沙のおでこに口付けをした。