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竜神の花嫁  作者: 黒川 月夜
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白竜編

昔々、竜神が少女に恋をして、少女も竜神に心惹かれる初恋のお話

 第一話 今までとこれから


 大きな山を取り囲む様に五つの村があった。

その山には竜神が住んで三百年が経つと言われている。

竜神に貢物をしなければならないが、各村の貢物は違う。

一の村は米、麦、粟、二の村は熊、猪、鹿、三の村は野菜や魚、四の村は金子と反物

五の村は娘を貢物とし、一、二の村は季節で貢物をする。三の村は毎日、四の村は半年に一度貢物を持って行く五の村は一年に一度貢物をすると決まっていた。

各村から山に入り山の中腹に白い鳥居が有りその先には行ってはいけない。

鳥居の先に行った者は帰って来なかった。

その鳥居に貢物を置く事になっていた。

決まった通りに貢物を置くと、村に災いが無くなり飢饉など起きなくなった。

この取り決めは初めて竜神が山に来た時に各村の領主が決めた事だった。

五の村は良い思いをしようと考え娘を生贄にすると決めたのだったが、三百年の間、竜神の元に行った娘は三人しかおらず、しかも夫を亡くし子供の居る女性達だった為、殺されてしまったと言い伝えがあった。

生贄に選ばれた娘は自殺したり、途中で逃げ出したり、男性と情を通じてしまう。

まだ一度も貢物が無い五の村は飢饉や災害が絶えなかった。

代々の領主は頭を抱え、隣の村の田畑を借り何とか生き延びて来た。

貢物の変更を申し出たが許されなかった。

その年、娘は十七才になった生娘で村一番の美貌を持っていないといけない。

逃げない様に鳥居まで付き人を付けたりしたが、駄目だった。

五の村は田畑が荒れ、台風が直撃し、家は壊れ、人が生きて行くのが難しい土地になりつつあった。

五の村が終わりに近づいていた。


 第二話 生贄


 毎年、春になるとその年に十七才になる娘が領主の元に集められる。

数人の村で権力がある者が集まり、どの娘にするか見定めた。

この年の十七才になる娘は一人だけだった。

娘の名は美樹と云った。

美樹は自分だけだと知っていたが、決まった男が居た。

連れて行かれる前に、その男と駆け落ちしようと、気が付かれない様に用意する。

「姉様?」

声を掛けられ身体が固まる、声の主は妹の三奈だった。

「姉様、もしや達治さんと逃げるのですか?」

美樹は悩んだ、誰にも知られてはいけない、達治が殺される。

「何の事ですか?」

振り返り笑みを浮かべ誤魔化そうとした。

「今年は姉様だけしか十七才はいません、ですが、達治さんと好き合っているのは知っています。もしも姉様が達治さんと駆け落ちするのであればお手伝いします。」

三奈はそう言って美樹の手を握った。

「三奈、ごめんなさい。村を救わなばならないのに、私は達治さんと添い遂げたい」

小さな声で言いながら泣いていた。

「村を出るのはいつですか?」

美樹の肩を抱き三奈は聞いた。

明日には出ようと思っていると美樹は言った。

今夜は全ての家の長が領主の家に集まっている。

話会いと言いつつ、美樹しか居ないので前祝で酒を飲んでいた。

「姉様、出て行くなら今日です。皆家に居ない、早く用意を、私は達治さんに言って来ます」

「三奈、ありがとう、ごめんなさい」

そう言って、荷物を風呂敷に包んでいく。

三奈は達治元に走る

「達治さん」

小声で言うと達治が出てきた。

「村を出るなら今です。姉はもう用意をしています。達治さんも早く、皆が帰ってくる前に」

三奈の家も達治の家も母親が居ない、用意をしていても気が付かれない。

「分かった、三奈ちゃんありがとう」

達治も家を出る準備を急いだ。

三奈が家に帰りまもなく、達治が来た。

「三奈、ごめんね、ありがとう」

達治と姉はそう言って頭を下げた。

「二人とも早く行って下さい、見つからない様に、達者で幸せに」

二人は村を出て行った。


 第三話 駆け落ち


 各家の長が帰って来た。三奈は寝ている振りをしていた。

父親に起こされる

「美樹は何処へ行った!荷物も無いぞ」

怒り狂い大きな声を出す、近所から人が集まる。

「達治も居ない、駆け落ちしたのではないか?」

村中大騒ぎになった。

見つけようと村中、村の周りを探すが居ない。

皆は途方に暮れた、今年こそ貢物が出来ると思っていたからだった。

「姉様、達治さんが逃げ切れます様に」

三奈は心の中で祈っていた。

地主が周りを見渡し

「十六の娘は何人居る?仕方がないその娘の中で決める」

十六になる娘たちは泣き崩れた。

「嫌です、何故私たちが生贄なのですか!美樹さんを見つけて下さい」

領主の娘も十六だったが、婿を取り家を守る為に生贄に出来ないと

言い訳をして生贄から外す。

誰も逆らえない

「お前の家の娘が駆け落ちしたせいだ」

と、石を投げられる。

父は土下座をして謝る。

達治の父親も土下座をして謝った。

村中全員が二人に罵声を浴びせる。

「私では駄目なのでしょうか?」

分かっていながら姉を逃がしたのだ、覚悟は出来ていた。

三奈の言葉に領主は

「お前はいくつになる?」

「十五です」

皆が静まり返った。


 第四話 道中


 「年は違うが居ないより良いか、お前の姉が起こした事だ、お前に行ってもらう」

領主にそう言われ、はいと答えた。

三奈が生贄になり村人はそれぞれ家に帰って行った。

三奈は美樹が持って行くはずだった白装束、櫛を風呂敷に入れ用意をする。

朝早くの出発なので床に着く

次の日の朝、誰も見送りをしなかった。

用意して来たむすびを途中で食べた。

「姉様は逃げ切れたかしら?幸せで居られたら良いな」

そう呟いて水を飲み、また山へ歩いて行く。

歩き慣れた道だったが、今日は何故か遠く感じた。

道中蛇を見た。残った米を蛇の元に置くと食べて行ってしまった。

山の麓に来たが息が上がる。

いつもなら何ともないのに足が重い。

不思議な感じだった。

山の中腹までやっと着いた。

鳥居に台があり、そこには女性が居て

「三奈様ですね、お待ちしておりました、右に風呂が有ります。湯につかり、白装束に着替えて下さい」

そう言って微笑んだ。

風呂の周りは囲いで見えなくなっていた。

言われた通りに湯に浸かり、身体を清め髪を結い白装束に着替え鳥居まで行く。

「では、参りましょう」

そう言って鳥居と通る、初めて足を入れる。

先程感じた足の重さも無くなって居た。

山を登って行くと、崖などがあり、此処で死んだ者が多いのだろうと思った。

崖が終わり広くなった場所に籠が待っていた。

「さあ三奈様、籠にお乗り下さい」

言われる通りに籠に乗る。初めて籠に乗った。

暫く登ると籠が止まり、籠が開いた。


 第五話 竜神


 「三奈様どうぞこちらに」

案内され洞穴の中に入って行く。

穴の中は徐々に広くなり、奥のそのまた奥に行くと大きな龍が居た。

三奈は正座をし、頭を下げながら

「竜神様、三奈と申します。宜しくお願い致します」

初めて見る物語の中にしか存在しないと思っていたが目の前に白い大きな龍がいる。

「頭を上げよ」

低い声がして頭を上げた。

「何故、お前が来た?此処には違う娘が来るはずだが?」

きっと竜神は何でも知っていると思い素直に話す。

「はい、此処に来るはずの娘は私の姉でした。姉には好きな人が居てその人と添い遂げたいと駆け落ちの用意をしており、私は、賛成しました。条件に合わないですが変わりに私が来ました、竜神様のご判断を」

そう言って、また頭を下げ判断を待った。

「三奈と申したか、お前は何才になった」

「十五才です」

頭を下げたまま言った。

「顔を上げろ」

竜神に言われ顔を上げた。

「三奈は龍である私を怖いと思わないのか?」

そう聞かれ困っていた。

「いいえ、怖いとは思いません正直に言えばとても奇麗です」

本当にそう思った。

竜神は三奈を見つめ少し考えてから

「分かった、そなたで良い。シマ、村にその様に伝えよ」

途中から一緒に山に来た女性はシマと呼ばれていた。

「かしこまりました」

シマは外に出て行ってしまった。

三奈はホッと胸をなでおろす。

殺されてもおかしくない事をしたのだ。

「三奈様、こちらに」

シマとは別の女性が来て三奈を誘導する。

付いて行くと立派な屋敷があった。

「私、朱美と申します、三奈様のお世話を致します」

「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

お着替えをと言われ用意された上等な着物に着替える。

そして案内され食事の用意がされている部屋で待つよう言われる。

暫く待っていると二十才位の男性が部屋に入って来た。

頭を下げていると

「三奈、もう頭を上げよ」

と、言われ頭を上げる、銀の長い髪で色の白く背の高い美青年が目の前に居た。

「初めまして三奈と申します。」

「もう会って居る」

もう会って居る?三奈には何だか分からなかった。

すると青年はクスクス笑いながら

「先ほど会ったではないか、龍の姿で」

そう言われ始めて目の前の青年が竜神だと分かった。


 第六話 ハク


 「龍の姿以外に人の姿にも成れるのだ、私の名前はハクと云う」

人の姿の時も奇麗な男性だった。

声も違い龍の時の低い声では無かった。

「ハク様、気が付かず申し訳ありません」

頭を下げようとすると

「そんなに頭を下げるな、そして謝るな。一緒に居れば時期に慣れる」

「はい、ありがとうございます」

食事を一緒に食べたが緊張で食べた気がしなかった。

食事が終わり、ハクが皆を紹介すると呼んだ。

「三奈、驚くとは思うが、慣れてくれ。」

紹介の前にそう言うと皆が揃った様だった。

「三奈に名前と色々覚えてもらう」

ハクがそう言うと一列に並んで座って居た皆が端から自己紹介を始めた。

「先ほど一緒に山を登ったシマでございます。シマヘビでございます」

「お着替えをお手伝い致しました朱美、赤蛇でございます」

「籠でお供致しました青、青蛇でございます」

「籠でお供致しました大井、鷲でございます」

「初めまして、黒と言います、カラスです」

名前の他に人間以外の時の姿を教えてくれた。

「改めまして三奈でございます。宜しくお願い致します。」

驚いたが、龍神に仕えるのだ人間では無いとは思っていた。

驚く事ばかりの日だった。

「シマ、三奈を部屋に案内頼む」

「かしこまりました」

こちらにと言われシマに付いて行く

「此方の部屋をお使い下さい、部屋に有る物は自由にお使い下さい」

そう言ってシマは出て行った。

広い部屋が二つ続いていて、寝室と別れているのだろう。

「こんなに広いお部屋を、鏡や化粧道具、箪笥、凄い」

村で云えば一軒の広さが部屋だと思う。

持って来た荷物を置き整理し始めた。

「三奈様、お風呂の準備が出来ました。」

「はい、直ぐに行きます。」

部屋を出て朱美に付いて行くと、温泉の様な広さの風呂で驚く

「三奈様、お背中をお流し致します。」

「いえ、大丈夫です。自分で出来ます」

恥ずかしさと、どうしたら良いのか分からず言うと

「旦那様に言われておりますので」

朱美はそう言って、三奈の着物を脱がす。

湯に浸かり、一息つく

朱美は三奈の身体と、髪も何度か洗った。

村では身体を拭く以外出来ず、髪も梳かすだけだった。

田畑の仕事で日焼けか垢か分からない位浅黒い。

「さあ、出来ましたよ。」

「朱美さんありがとうございました」

寝室に行くと布団が用意されていた。

「上等なお布団、フカフカで気持ち良い」

そう言って直ぐに眠りに落ちた。


 第七話 覚悟


 朝、起こされるまでぐっすり寝てしまった。

着替えて行くと、ハクが待っていた。

「申し訳ありません」

恥ずかしくなる。

「かまわぬ、色々あったから疲れていたのであろう気に病むな」

ハクは優しかった。

朝食を終え、ハクが付いて来いと言い三奈は付いて行った。

洞穴から出るととても奇麗な景色が目に入る。

「奇麗な景色ですね」

三奈が言うと、ハクは

「私を恐れ女子は皆死んだ。私の元に来たのは今までで三人、共に、夫を亡くし子が居る女だった。」

「その方達はどうなされたのですが?」

言い伝えでは殺されたとなっているが、殺すような人に見えずに聞いた。

「子供と共に他の地に連れて行き家や畑を与えた」

やはり、この人は優しかった。

「ハク様、私は農民です。お嬢様の様な教養やしぐさなど出来ません」

本当の事だ、ちゃんと話さねばと思いハクに言う。

「そんな事は知っている。これから色々とシマや朱美が教える」

「ありがとうございます」

ちゃんと、考えてくれている事が三奈は嬉しかった。

「戻ろう」

ハクに言われ屋敷に帰る。

直ぐに、シマがお茶やお菓子を持っていてくれた。

食べろ、と言われたので菓子を食べると甘く今まで食べた事の無い美味しい菓子だった。

そんな三奈を見てハクは微笑んだ。

「美味いか?」

「はい、とても美味しいです。初めてこんなに美味しいお菓子を頂きました」

キラキラした目、本当に美味しいのだろうを分かる。

「三奈、話がある」

ハクに言われ菓子を食べるのを止め、ハクを見た。

「今まで此処に来た者が居ないが、三奈は本当はどうしたいのか考えてくれ、村の事も考えず、ただ三奈の気持ちで答えて欲しい」

ハクに言われ考える、生贄として此処へ来た、でも、此処の皆は優しかった。

何より恐れられていたハクがとても優しく、三奈の事を考えてくれる。

姉の様に好いた人も居ない、まだ会ったばかりだが三奈はハクの事が知りたかった。

「ハク様、正直に思った事を言います。生贄として此処に来ました。そしてまだお会いしたばかりです。が、私はハク様の事がもっと知りたいと思いました。」

ハクはそうかと言ったが少し嬉しそうだった。


 第八話 初めての夜

 

 ハクの所に来てまるで何処かのお嬢様の様な扱いを受け恐縮していたが、皆これが仕事だと言って何もさせて貰えないが、シマや朱美が読み書きを教えてくれる。

本当に有難いと感謝しつつ一生懸命覚える。

此処に来てから朱美が風呂で何度となく身体と髪を洗ってくれ鏡で見る自分が別人の様になっていた。

日焼けや垢で浅黒くなっていた肌は白くなり、ぼさぼさだった髪は櫛が通る位サラサラになっていた。

「これが私?」

「本来の三奈様ですよ」

朱美が言い、三奈は朱美に何回も礼を言った。

見た目だけは良家の娘になっている。。

ハクが出かけている時だった、使用人達に呼ばれ部屋に行くと、皆が揃っていた。

皆に対面する様に座った。

「何か有ったのですか?」

「三奈様は私達が怖くは無いのですか?蛇や鷲、カラスですよ?気味が悪いと思いますよね?」

意を決してシマが三奈に言った。

三奈は少し考えて

「正直に言いますと初めは驚きました。ハク様もそうですが、人間の姿に成れると初めて知りましたから、驚きはしましたけど、怖いや気味悪いなどと思った事はありません。良くして頂き感謝しかないです」

そう答えると皆はホッとした様な顔をした。

「三奈様はお優しいですね。私に握り飯をくれた」

青がそう言った。

あの時の蛇は青だったのかと、初めて知った。

「旦那様に仕えてから私達は、此処に人が来てくださる事も無く、人里で元の姿で居ると叩かれたり、切られたりしますので三奈様の様な人間は初めてでお役に立ちたいと思いお話させて頂きました」

「ありがとう御座います。皆様のお陰で私は此処で生活を出来ていると思っています」

何故だろう?本当に驚き以外は何も感じなかった。

夜、ハクが帰って来て三奈に

「私の背に乗れ」

龍の姿のハクに言われた。

龍の首あたりに乗せてもらう。

「ちゃんと捕まって居ろよ」

そう言うとハクは空を飛んだ。

「星に手が届きそうです。」

三奈が言うとハクは笑いながら

「たまには外に出たいであろう、昼も出られるが、夜の闇も中々見る事が出来ないからな」

きっと屋敷か、洞穴の近くにしか出ていない三奈への気遣いなのであろう。

風が気持ちいい、空高くから見た町や村の明かりが綺麗だった。

二人で出かけた初めての夜だった。


 第九話 婚約


 朝餉が終わり、ハクに呼ばれ部屋に行く。

「ハク様、三奈です」

廊下で言うと

「入れ」

その言葉で襖を開け中に入る。

ハクと向き合う様に座る。

「三奈、お前さえ良ければ正式に婚約をし、その後結婚を考えている。」

此処に来る前から覚悟は出来ていたが、前の様な気持ちとは違いハクの事が知りたいと思っていると伝えた時と気持ちは変わらない。

「はい」

そう答えると、ハクは照れくさそうにしていた。

「三奈、ありがとう、では準備を始める」

何だか三奈も嬉しかった。

ハクは使用人達にその事を伝え皆が喜んでくれた。

婚約をすると、どうなるのだろう?

人間の時間と、竜神の時間は違う何才まで此処に居られるのだろうか。

聞いた方が良いのか迷っていた。

でも、聞けないでいた。

婚約が決まり、皆忙しそうだった。

婚約がどの様な事をするのか分からない。

でも、ハクとの日々が続くを思うと三奈は嬉しかった。

「三奈様、こちらにいらして下さい」

シマと朱美に言われ部屋に行くと沢山の着物が広げられていた。

「奇麗な着物ですね?」

三奈が言うと、二人は微笑みながら

「全部三奈様のお着物ですよ。婚約の日にどのお着物にしようか選んでおります。三奈様はどのお着物が宜しいですか?」

目移りする程沢山の着物が有る。

「晴れの日ですから、鮮やかなお着物が良いかしら?」

「此方の桜色のお着物も三奈様にお似合いですね」

シマと朱美は楽しそうに着物を三奈に当ててみる。

「この銀色は?」

三奈は白に近い銀色の着物を見た。

「ああ、此方も似合いますね、ハク様と一緒な感じで良いですね」

朱美が言う、シマも頷く

「婚約の日は何をするのですか?」

疑問に思っていた事を聞いた。

「竜神様は旦那様だけではございません。他の竜神様達にお披露目し、連名で婚約書を書きます。」

「他にも竜神様がいらっしゃるのですか?」

三奈は驚く

「はい、この国は広く他の地にも竜神様はおられます」

住んでいた村しか知らなかった三奈には国の広さを知らなかった。


 第十話 村への褒美


 三奈が竜神と婚約する事が村に知らされる。

村人全員が涙した。

三百年、飢餓、不作などに悩まされもう五の村は終わると言われていた。

永い間待っていた恩恵を受ける事が出来る。

「条件は違いましたが、竜神様が三奈を気に入ったと云う事ですか?」

領主が大井に聞く

「はい、竜神様は三奈様で良いと仰せになりました。よって、この村への戒めを解くとおっしゃいました。三奈様に伝言等ありますか?」

皆に聞くと、親でさえ何もないと言った。

只々、喜ぶばかりだった。

大井は山に帰って来てハクに有った事を伝えたが、ハクは不満そうだった。

三奈に何も無いと云うのが気に入らなかった。

三奈の事を思うと怒りさえ覚えた。

ただ、三奈は此処へ覚悟を持って来たのだ、これ以上の戒めは三奈を悲しませると考え止めた。

次の日から降らなかった雨が降り、土地を潤し、気候も普通に戻り作物の種を植えたりと村人は作業をしていた。

その事を三奈に伝えると三奈は喜び礼を言った。

「三奈は優しいのだな」

ハクは三奈の頭を撫でながら言った。

三奈は顔を赤く染めて恥じらった。

只の生贄と思っていたハクは三奈の事が気になって仕方なかった。

「旦那様は三奈様の事がお気に召した様ですね」

黒が言うと、ハクは少し考えて

「私にも分からない。三奈の喜ぶ顔が見たいのだ。他の龍の婚約者や嫁は記憶を操作されている。そうしなければ、怖がり死んでしまう、だが、三奈は記憶を操作しないで、私の事を知りたいと言う初めての娘だ」

ハクの話を聞いて黒は微笑んだ。

きっと二人は上手く行くのではないかと思いながら。

婚約者が決まれば村から娘を年一回差し出す約束は無くなる。

五の村は喜び色々な家で結婚が多くなった。


 第十一話 他の竜神


 婚約の日が来た。

事前に決めてあった銀の着物を着て奇麗な簪を付けハクの元にやって来た三奈をハクはただ見つめた。

「似合って無いでしょうか?他の着物に着替えましょうか?」

無言のハクを見て三奈が慌てる。

「いや、その着物で良い、よく似合っている。奇麗だ。」

龍の姿のハクが低い声で言う。

その言葉に三奈は頬を赤く染めた。

奇麗だなんて言われたことが無かった。

「では乗れ」

大井が乗るのを手伝ってくれる。

「大井さんありがとうございます」

ハクの首元に乗りお礼を言う

「旦那様、三奈様行ってらっしゃいませ」

皆が頭を下げ送り出す。

「ハク様、何処に行かれるのですか?」

三奈の質問に飛びながら

「この国で一番高い山だ」

ハクに乗れば直ぐに付いた。

黄色、黒、赤、青の龍と女性達が居た。

この国にこんなにも竜神が居る事に驚く

「白竜、やっと婚約か、皆死んでしまったからな」

黄色い龍が言う

「放っとけ、でも、集まってくれありがとう」

そう言いながら人間の姿になる。

他の龍も人間の姿になった。

婚約書にハクが自分の名前を書く、隣に名を書けと言われ三奈も書いた。

立会人として他の龍も名を書いて婚約が成立した。

「竜神の皆様、本日はありがとうございました」

深々と頭を下げると、竜神達は驚き

「白竜、婚約者に操作していないのか?」

次々に聞いて来る

首をかしげる三奈に乗れと言いハクは逃げる様にその場を去って行った。


 第十二話 君となら


 山から帰って来て操作の言葉の意味を知りたいと思ったが三奈は聞かなかった。

ハクは三奈を呼び夜空を見ながら説明する。

「他の竜神も皆生贄の者と婚約したり嫁にするが、皆、怖がる。だから気に入った生贄の女子の記憶を操作し、ずっと龍と居たと思わせている、しかし自分の意志は有る」

その言葉に驚く。

「私には操作しないのですか?」

「三奈とはこのまま婚約した。婚約後の操作はしてはいけない。」

ハクはちゃんと、本当の事を話してくれる。

「三奈は最初私の事を知りたいと言った。怖がりもせず、奇麗だと言った。それを聞き、一緒に生活する中で、他の者にも怖がらず普通に接していた。だから三奈となら操作しなくても共に居られると思った。」

「有難うございます。私の事を考えて下さり」

「だから他の竜神が驚いたのだ」

そうだったのですねと三奈は言いハクを見た。

「記憶を操作しなくても共に居られるならこんなに嬉しいことは無い。だから、三奈、君となら一緒に生きて行けると思ったのだ。」

ハクは三奈を見返した。

「はい、ハク様となら怖くないですし、私もこのまま一緒に居たいです」

俯きながら恥ずかしそうに言った。

他の者が見ても微笑ましい二人だった。

「三奈、この世には龍以外にも神が居る。だが、龍以外に付いて行ってはいけない。」

「他にも神様がいらっしゃるのですか?」

ハクに会ってから驚く事ばかりだった。

「虎、鳥、亀が居る。それらについて行ってはいけない」

「はい、分かりました、ハク様」

危険な事を伝えていたのに、真剣にハクを見ながら聞いている三奈を見てハクは赤くなる。

「本当に分かっているのか?」

「分かっています。ハク様」

照れ隠しに念を押した。


 第十三話 初恋


 「三奈様は恋をした男性は居たのですか?」

シマに着替えを手伝って貰っている時にそう聞かれ

「恋ですか?恋かどうかは分かりませんが、愛おしいと思ったのはハク様だけです」

真面目に答える。

部屋の外で聞いていたハクは赤くなる。

「ですが、ハク様は他にいらしたのではないでしょうか?三百年の永い月日で」

シマに本当の気持ちを言うと、襖が開き

「私だって三奈以外愛おしいと思った女子は居ないぞ」

と、真剣に言ったが

「旦那様、三奈様はお着替え中ですよ」

シマに怒られてしまうが、三奈は赤くなっていた。

「でも、嬉しいですハク様」

そんな三奈を見ていたハクも赤くなっていた。

そんな話を皆で話していると他の者も

「ずっと冷静沈着な旦那様が、三奈様の事になると冷静さを無くすな」

大井が言いながら微笑む

「お二人のあまりにも初々しさが良い感じですね」

朱美も言う

「これなら結婚も早まるのではないですか?」

青も二人の様子が嬉しいと思った。

「二人共に初恋ですね。」

黒が言う。

「三奈様で良かったと思います。旦那様も楽しそうで」

朱美も微笑ましいと思って居た。

「しかし、操作されていないと他の神に知れれば奪いに来るかもしれない」

青が気がかりな事を言った。

「旦那様が居ない時に他の神が来た時は我らが三奈様をお守りしなくては」

大井の言葉に皆が頷く。

操作されてない娘は誘拐され他の神の婚約者にされる事が有ると言われている。

昔、一度三奈と同じ様に操作されなかった娘が居たが、他の神に攫われ命を絶ったのだった。

「旦那様、三奈様の恋を誰にも邪魔させない」

黒が言う。

「そうですね、好き会って居る二人を離れ離れにさせてはいけませんね」

朱美が言いながら武器などを見に行った。


 第十四話 贈り物


 この日朝早くからハクは居なかった。

「朱美さん、ハク様は何処へ?」

聞くが、皆ハクが何処に行ったのか知らなかった。

いつもの様に過ごしていると、ハクが帰って来た。

「ハク様何処へ行っていたのですか?」

心配でたまらなかった。

「後で、教える」

そう言ってご自分の部屋に行ってしまった。

「ハク様、体調が悪いのでしょうか?」

シマに聞くが分からない。

夕方になり、部屋に居た三奈に

「三奈、ちょっと良いか?」

「はい」

部屋にハクが入って来て座り

「三奈、これを」

と言って箱を渡した。

「開けても宜しいでしょうか?」

ハクが頷く、箱を開けると簪が三本入っていた。

「ハク様、これは?」

「三奈に似合うと思った簪を買って来た、だが、三奈の好みが分からなくて三本買って来た」

ハクはどうしたら良いのか分からない様だった。

「有難うございますハク様、三本共凄く綺麗、嬉しいです」

花が咲いた様な三奈の笑顔に一瞬ハクの時が止まった。

「気に入ってくれたなら良い」

「大切に使わせて頂きます。」

二人で見つめ合い微笑む。

ハクは誰かに贈り物をした事が無い。

三奈は誰かに贈り物を貰った事が無い。

出会って二人共に気持ちが変わって行った。

次の日、簪を見た朱美がどうしたのか聞くと

「ハク様が買って来て下さったの」

と、嬉しそうに言う三奈を見て、ハクが昨日居なかった理由が分かった。

皆心配していたのでその事を言うと皆が驚いた。

本当に微笑ましい二人だと話題になって居た。

一層この二人の仲を壊されない様にしなければと思い決めた。


 第十五話 鱗


 いつもの様に朝起きて着替え朝食を二人で食べた後、ハクに呼ばれた。

ハクの部屋に行くと厳しい顔で待っている。

「遅くなりすいません」

何か有ったのかと緊張が奔る。

「三奈、言っておきたい事が有る」

いつものハクとは少し違う。

ハクの部屋に皆が来た。

「他の者は知っているが、三奈は気が付いたかもしれない、我々は不老不死だ。しかし、三奈は人間だ」

「はい」

「他の神の嫁は我々と同じ不老不死になる、その方法は神ごとに違うが、龍の嫁になる者は鱗を一枚食べると不老不死になる。」

今まで疑問に思って居た事をハクは話始めた。

「此処に居る者達は鱗を食べ不老不死になり、元の姿と、人間の姿に成れる様になった。三奈にはその覚悟が有るのか知りたい、直ぐでなくて良い。嫌なら婚約を解消し三奈は他の土地で人間として生きて行けば良い。考えてくれ」

そう言って部屋を出ようとするハクを止め座ってもらう。

「鱗を食べてら不老不死と龍に成るのでしょうか?」

気になっていた事を正直に聞いた。

一瞬時が止まり、ハクと皆が笑う

「いや、三奈は龍にも他の姿にもならない、人の姿のまま不老不死に成るだけだ、髪はもしかしたら私の様に銀に成るかもしれないが、人間に鱗を食べさせた事がないから分からない」

笑ったがハクはちゃんと答えてくれた。

その言葉を受け三奈は

「食べます」

と、直ぐに答えた。

「本当に良いのか?」

ハクに聞かれ

「ずっとハク様と一緒に居られるのですよね?」

「ああ、ずっと私と夫婦で居る事になる」

「良かった、食べて捨てられるのは嫌ですが、ずっと夫婦で居られるなら食べます」

三奈の気持ちは決まっていた。

ハクは何度も何度も良いのか聞いて来た、その度にはいと三奈は答えた。

この結婚はまた竜神が集まり行われる。

直ぐに他の龍にも通達が有った。

「では、明後日の夜に行うが良いか?」

と聞かれ、はいと答えた。

シマと朱美は忙しく用意を始めた。

そしてその日が来た。

三奈は白無垢を来てハクの首に乗る。

三奈の姿を見て、自分が送った簪が有る事が嬉しく

「三奈、奇麗だ」

そう言って飛び立った。

龍が集まり真ん中でハクが自分の鱗を取り皿に乗せる、三奈はその鱗を食べた。

硬かったがちゃんと噛んで最後まで食べた。

三奈の身体が熱くなり、一気に熱が冷めた。

言われていた通り、髪が銀色に変わった。

「これにて結婚の儀式を終了する」

ハクが言うと他の龍達が拍手する、結婚した事にハクも三奈も喜んだ。

家に帰ると皆が喜んでくれた。

二人にとって記念すべき日になった。


 第十六話 同じ時間

 

 ハクの鱗を食べ髪は銀に成ったが他は変わりがない、本当に不老不死に成ったのかも分からないがハクが言った事だきっと不老不死に成ったんだろうと三奈は思った。

「銀の髪がまだ慣れないな」

ハクが言うと

「私はハク様と同じ色になって嬉しいです。」

三奈がそう言うとハクは嬉しそうにしていた。

「髪の色だけでなくずっと一緒に居られるのですね」

結婚の儀式から三奈は嬉しそうだった。

勿論、ハクも皆も三奈がそのままの心で結婚した事を嬉しく思って居た。

やっと色々な作物が取れるようになった村に知らせと、褒美が届られた。

村は潤い石を投げた人々は父親に礼を言う様になって居た。

「もしも、美樹ちゃんだったらダメだったかもしれないね、三奈ちゃんで良かった」

父親も村の皆と同じ思いだった。

「そう言えば三奈、君のお姉さんは幸せに暮らしている、誰にも知られない土地で子も出来た」

ハクに言われ

「ハク様は何でも知っているのですね。有難うございます。幸せになってくれていて良かった」

三奈が安心した様に呟いた。

「三奈は本当に自分以外の事ばかり考えているな、お前の村は潤い農作物、果物など前は違う村に成った様であった。姉には夫と子供がちゃんと暮らして行ける様配慮してある。」

そうハクに言われ三奈は微笑みながら

「ハク様はお優しいですね。村と姉の事まで気に掛けて下さり有難うございます」

ハクは三奈の肩を抱き寄せ

「三奈の悲しむ顔は見たくない、いつも笑っていて欲しいのだ」

ハクの肩に頭を付け

「はい、有難うございます。ハク様」

暫くしてハクが

「三奈とこれからずっと同じ時間を過ごせるのだな、私は今、幸せと云うのがこの様な事なのかと初めて知った。」

強く三奈を抱きしめた。

「私も幸せはハク様と同じ時を過ごし、一緒に居る事なのだと知りました。」

何もかもが初めての二人だった。

だが、三奈が操作されていないと聞いた神が居た。


 第十七話 他の神


 一か月に一度竜神だけが集まり他の神の動向を報告しあう。

ハクは皆に言って来ると言って集まりに出掛けた。

「竜神様と他の神様は仲が悪いのですか?」

疑問に思った事を皆に聞く

「そうですね、どの神が一番なのかを気にする神が居るのは確かです。」

大井が教えてくれる。

「本来神同士がいがみ合う事は無いのですが、約二百五十年前、奥様と同じ様に操作されないで婚約した女子が居りました。それを羨ましく思い攫って行き、その女子は嫌がり崖から飛び降り自害

したのです。その女子も竜神様の婚約者でした。それからです。神同士が距離を置くようになったのは」

「何故、女子の事で、神は神なのに、亡くなった女性が可哀そう過ぎるわ」

三奈は涙を零した。

そんな時だった、三奈の身体がフワッと浮き地上から離れていく

「奥様~」

シマ、朱美、青を鋭い爪で切り裂く、大井、黒も飛んで三奈を助けようとするが風圧で飛ばされ岩にぶつかり気絶する。

「止めて、皆を傷つけないで」

三奈はそう言い上を見ると、大きな鳥に捕まれていた。

他の山に連れて行かれ降ろされると、赤、黒、青、緑の鳥が居た。

皆、人間の姿になり、三奈を逃げられない様に縛る。

「何故、神で有る貴方達がこの様な事をするのですか?」

三奈は涙ながらに言う。

「何故いつも龍の所にこの様な娘が嫁入りするのか?」

「本当だ、前は虎に取られた、自殺してしまったがな」

全然三奈の話を聞かない。

龍が集まる山に何とか大井が辿り付いた。

「大井どうしたんだ。」

ハクが言うと何とか大井は声を出して

「奥様が朱雀神に攫われました」

ハクは憤り朱雀の居る山へ飛んで行った。

「白竜待て」

ハクには誰の声も届かなかった。

他の龍もハクを追って飛んで行った。

「さて、この娘は私の嫁にする」

「嫌です。返して、私をハク様の元の返してお願い」

三奈の訴えは聞こえていない様だった。

「名は三奈だったか?鱗を食ったな、白竜の嫁か、だがまだだな、私の子を産め」

朱雀は三奈に言いながら近づいて来た。

そして、三奈の首に口づけをした。

「いや~止めて~」

三奈は縛られていて身動きが取れない。


  第十八話 決意の涙


 初めて身体に口付けされ出来る限りの抵抗をするが、何も出来ないのと同じだった。

「ハク様以外に触れられたくない」

心の中で思う。

そして縛るのを手だけにし、押し倒して着物を脱がそうとする。

「辞めて、私に触らないで」

抵抗するが男の力は強い。

着物を脱がされ、肌襦袢だけになったが、何とか立ち上がり、崖の隅まで行く。

「白竜、冷静になれ、話を聞け」

黒龍が言う。

だが全くハクには聞こえない。

「三奈、三奈、今、迎えにいくから」

独り言の様に言う。

ハクは他の龍も見た事の無い荒ぶる姿だった。

それは竜神皆が昔に見た事が有る様子だった。

「さあ、私の子を産め、三奈」

迫りくる朱雀が言う。

「子が欲しいなら他の方に頼んで下さい、私は白竜の妻です」

三奈は朱雀を睨みながら叫ぶように言う。

「中々気が強そうだな、虎の所に行った娘は只泣いて死んだらしいが」

「何故、自分で見つけないのですか?神なのにこんな事して、ただ、ハク様に嫌がらせをしているだけの様に見えます」

「ああそうだ、何故二人も操作されない女子が龍の元にだけ行くのか、忌々しい」

朱雀はそう言って三奈を殴る。

「このままでは、朱雀の物になってしまう、ハク様、ハク様」

三奈は涙を流しながら心でハクを思った。

「でも、不老不死に成ってしまっている、此処から飛び降りても死ねないの?朱雀の子を産むしかないの?そんなの嫌だ、ハク様以外の子を産むのは嫌だ」

朱雀が三奈に触れた、

「お前は私の嫁になれば良い」

「嫌です。ごめんなさいハク様」

三奈はそう言って朱雀を振り払い崖から身を投げた。


 第十九話 貴方の元へ


 肌襦袢姿で身を投げた三奈がハクの目に入った。

「朱雀~許さぬ」

ハクは相手の元に突撃して行く。

三奈は柔らかい何かの上に落ちた。

目を開けた時、青い色が見えた。

「三奈ちゃん大丈夫?」

「青龍様?」

小高い山に下り三奈を守る様に蜷局を巻く、他の龍は戦いをしている。

神同士の戦いは凄まじかった。

しかし本当に怒っているハクには勝てなかった。

他の龍達も傷つきながらも、勝利した。

ハクは三奈が何処に落ちたのか見て回るが、傷を負いながら血を流しながら懸命に探す

「白竜、三奈ちゃんは此処だ」

青龍の声に顔を向け三奈が居る事を確認した。

「三奈」

急いで青龍の元に行く、そして人の姿になり三奈を抱きしめる。

「青龍助けてくれたのか?ありがとう」

「白竜お前泣いているぞ」

青龍に言われ始めて涙が出ている事に気が付く

「青龍様有難うございます」

三奈は頭を下げ青龍に礼を言う。

「もう、見たくなかったのだよ。女子が飛び降りる所を、後は白竜、三奈ちゃんを大切にしろよ」

他の龍達もその場を去って行った。

「早く帰ろう、乗れ」

ハクに乗り家路を急ぐ

「ハク様、青龍様が言っていた事は」

「家に着いたら話す」

そう言って無言で飛んだ。

家に帰り三奈は驚く、皆、怪我をしていて包帯などをしていた。

ハクも人間の姿になり治療する。

「ハク様大丈夫ですか?」

「三奈、口から血が出ている、頬も腫れている、痛かっただろう。すまない」

三奈は首を振る。

すると皆が土下座をして

「奥様をお守り出来ず、本当に申し訳ございません」

「辞めて下さい、皆さんが守って下さらなかったら私は死んでいました。」

皆が三奈に泣きつく

治療が終わり、ハクと二人だけになった。

「前に亡くなった女子は青龍の婚約者だった。結婚前だったから虎に狙われ攫われ崖から飛び降りたのだ、青龍は死んだ女子の記憶を見て泣いていた。その後青龍は亡くなった女子にそっくりな女子を選び特別に記憶を操作して自分の名前も忘れさせ、名前を奈々にした。死んだ婚約者の名前だ。だが、奈々にも意志は有る。」

ハクは全部教えてくれた。

青龍が三奈の落ちる姿を前の婚約者と重ねたのかもしれない。

「愛し合っていたのですね」

三奈が言うとハクは三奈の首元に触れた、三奈は身体を強張らせた。

ハクは三奈の首に口づけをし、痣を作った。

「ハク様?」

驚いてハクを見ると

「記憶の上書きだ」

そう言って照れていた。


 第二十話 幸せ

 

 皆の怪我が治って来た時、贈り物が届いた。

「誰からだ?」

三奈を呼んだ、ハクの元に来ると

「青龍から三奈にだ」

少し不貞腐れて言う。

手紙を読み箱を開ける。

「三奈ちゃん、着物台無しにされたから新しいのを送る、私の妻と色違いだ」

「ハク様、青龍様の奥様とお揃いです。」

三奈が言うとそうか、と言いまだ機嫌は直らない。

「きっと、奥様の着物を買ったついでに私にも下さっただけですよ」

するとハクは

「それなら良いか」

と言って三奈の手を取って

「何だか胸の当りがムカムカするのだ、三奈が他の男に触られたり、贈り物を貰う事が、嫌なのだ、この気持ちは何だろうな?」

ハクは正直に気持ちを言ってくれる、三奈はそれを嬉しく思って居た。

「それはきっと、やきもちでしょうか?私が愛しているのはハク様だけです。」

恥ずかしいと思いつつ、三奈も正直に気持ちを伝える。

ハクは三奈を抱きしめ

「私は三奈と出会ってら、心が乱れる、やきもちとやらになったり、三奈が笑顔だと嬉しい、今、愛していると言われて胸が温かく私も三奈を愛していると感じる。永い月日生きてきたのに知らない気持ちばかりだ」

耳元でささやく様に言う

「私もです。ハク様以外に触れられるのも嫌でした。只々ハク様の元に帰りたかった。恋しいと思ったり愛おしいと思ったりそんな気持ちになったのは初めてです。」

そう言うと、ハクは三奈の顎を少し上げ口づけした。

「ハク様」

「これが、きっと人間で云う幸せと云う気持ちなのだな」

「はい、私も幸せですハク様」

そう言ってまた口づけをした。

「今回は他の龍にも迷惑を掛けたな」

ハクが言うと

「竜神様と、奥様、婚約者様をお呼びしておもてなしをするのは如何でしょうか?」

三奈が提案すると、それはいいなとハクは賛成した。

その後、他の龍と嫁、婚約者を呼び食事と酒を楽しんだ。

青龍の事を聞いていたが、青龍の嫁は三奈を見て微笑んだ。

他の龍も嫁、婚約者と仲が良く微笑ましかった。


 第二十一話 共に永遠に


 「そう言えば、鳥達は亀の監視下になった。」

黄龍が言った。

「これで平和になるな」

赤龍が答えた。

「亀神は偉い方達なのですか?」

三奈が聞くとハクが教えてくれる。

「亀は歴史が長い、一番初めからいた神だ。虎の時もその後亀の監視下に置かれた。」

そうなんですねと三奈は答えつつ青龍が気にしないか不安だったが、今は奈々さんと幸せそうにしていた。

「私も近く結婚の儀式をしようと考えている」

黒龍がいきなり云う。

「黒龍も結婚の儀式をすれば、竜神は皆結婚した事になる」

黄龍が黒龍の背を叩きながら喜ぶ。

「おめでとうございます」

三奈が黒龍に言うと

「ハクと三奈さんを見ていたら羨ましく思ってしまってね、美沙に言ったら喜んでくれて、心を決めたのだ」

決めた理由を言われたハクと三奈は照れていた。

婚約者なら破棄して操作を解除出来る。

だが結婚は違う、不老不死になり永遠に一緒に居る事になる。

竜神達は皆優しかった。

操作をしていても相手に聞いて結婚する。

操作と云っても意志が無いわけではないと聞いた。

此処に居る皆が永遠に幸せでいられる様にと三奈は願った。

宴は終わり、それぞれ帰って行った。

「他の竜神様と奥様や婚約者の方々がお幸せそうで何だか嬉しいです。」

見送りながら三奈が言った。

「そうだな、今回の事で皆、自分の嫁を大切だと再確認しただろう。相手に確認して結婚するのは龍だけなのだ。」

ハクの言葉に三奈は驚き

「他の神は違うのですか?」

「亀は聞く者もいるらしいが、虎や鳥は女子を人形の様にしてしまう女子の意志は無いのだ」

何だか悲しい結婚の様な気がして三奈は気が沈む。

「しかし、私達は違うだろ?三奈の気持ちと私の気持ちが同じだった。こんなに幸せな事は無い、ずっと三奈と、共に生きるのは嬉しいと思う」

「はい、ハク様と共に生きて居たいと思って居ます」

二人は夜空を見ながら手を繋ぎ見つめ合った。

「三奈、龍達にもてなしを考えてくれてありがとう、前にも増して竜神の絆は強くなった。黒龍も結婚すると言った、美沙も嬉しそうであった。三奈が此処に来てくれてから色んな事が上手く回り始めた。本当に感謝している」

「いいえ、ハク様と出会って私の世界が広がりました。ハク様有難うございます」

二人で笑った。

永遠に一緒なのだと嬉しく思っていた。

そんな幸せそうな二人を使用人達は暖かい目で見ていた。


 最終話 伝説になる


 人間の時間は短いが、祖父や祖母などに子供達が聞くおとぎ話が有った。

昔、五の村に居た少女が生贄の為に竜神の元に行き村を救い、竜神の花嫁になった。

竜神と少女は幸せに今もあの山で暮らしていると。

だから今は生贄として女子が山に行かなくても良くなった。

皆が見合いや好いた相手と結婚出来る様になったのだと聞かされる。

仲が良いと聞かされ育った者達は皆、結婚の時は龍の置物を祀り永遠の愛を誓う様になって居た。

これは、他の村でも同じだった。

龍と娘が一緒になった置物が結婚の時に祀るのが人気になって居た。

いつまでも仲良く幸せでいられます様にと願うのだ。

そんな話を聞いたハクと三奈は嬉しく思っていた。

今まで怖い存在だった竜神が幸せの象徴の様に祀られる。

「不思議な事だな、前はあんなに怖がられていたのにな」

ハクは皆の行動に嬉しくも不思議な感覚になっていた。

「皆に竜神様は怖くないと分かって貰えたのです。お優しい神々だと、良い事ではありませんか」

三奈がハクに言うと

「三奈のお陰だな、結婚の時に祀られるとは思わなかった」

少し照れながら言う。

「竜神様は守りと幸せの象徴になったのですね。とても嬉しいです」

そう言った三奈を抱き寄せ村々を見る。

あれからどの位の時が立ったのだろうか?

三奈が居た時の村人は皆亡くなり次の世代に移り変わり

時代も変わりつつあった。

でも、ハクと三奈の仲の良さは変わらなかった。

他の龍達も同じだった。

黒龍もあの後、結婚した。

青龍と奈々に子が出来た。

いつもと変わらない時を過ごしているが、辛くはなかった。

シマ、朱美、黒、大井、青が居て、大好きなハクが居る。

三奈はとても幸せだった。

時々、他の竜神が夫婦で来てくれたり、此方から遊びに行ったりして交流していた。

他の龍が居る周りの村も結婚の時に龍を祀る様になったと聞いた。

「私達がおとぎ話や伝説の様に語り繋がれるとは思わなかったな」

「はい、でも私は本当に幸せです。ずっと、ずっとハク様と一緒に居られるのですから」

三奈を抱きしめ口づけをし

「永遠に、三奈を愛している」

「私もですハク様」

きっと今も山の上で龍と花嫁は幸せに暮らしているのだろう。























 







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