第92話 ベレーシート創世記
★★★★皇国★★★★
「ひっどい目にあったぜ!あのバカ姉貴のせいで!
手加減しろよ少しは。いくら渡したくないと言ってもよ!
7人が犠牲になっちまった。」
スサノオは呆れながら報告をする。
「いやいや、手加減をしてるんだよ、あの子は。そうか、
やはりあの二人の体を先に見つけていたのか。」
リスボアは苦笑いをしながらスサノオを落ち着かせる。
「それはそれ。これはこれ。」
そう言うとリスボアは机の上にいびつな形の、筒の様な魔法の杖を置いた。
「試作品が完成した。・・・この銃モドキがな。」
「おお、やっとか。昔俺達が身を隠してから幾千年後の武器だな。」
スサノオはソレを手に取り眺めている。
「単純に人間は弱い。弱いと言うのは腕力などの身体能力がだ。
勿論、霊力・・・。いやここでは魔力と言うんだったな。それも
微々たるものだ。亜人や魔族と比べてだ。よくもまぁ今まで
遣られなかったもんだと思っているよ。本当にこの世界の亜人や魔族は
平和主義なんだなと思うよ。」
「その平和主義の亜人や魔族を排除して人族の世を造ろうって言うんだからな。
親父は。因みにコレどうやって使うんだ?最初俺に使わせろよ。」
スサノオはワクワクした顔でリスボアに言う。
「亜人や魔族は平和主義でも何でもないよ。
単純に人間をなめているだけだ。力が弱く魔力も低い。見下されてるんだよ。
俺は人間を愛している。新しい魔王も誕生したんだ。そう言った対応が
いつまでも続くとは思えんしな。対等の力が人間には必要なんだよ。
対等の力があってこそ均衡を保つことが出来ると思うんだ。」
そう言いながらリスボアはさらに机の上に丸い球の様な石を4つ置いた。
「その筒状の杖にコレを仕込んで相手に向かって放つんだよ。
その石には火・水・風・土それぞれの魔法が仕込まれている。
1回の充填で3回魔法を放てる。・・・中級魔法を誰でもだ。」
「3回かぁ、少なくないか?10回くらいあればいいと思うんだが」
スサノオは残念そうに筒状の杖を机に置いた。
「まぁ今は3回だ。確定で3回にやっとできたんだ。研究所では
すでに6回放った事もあるぞ?それにな、面白いんだよ。
通常の魔法では属性単体の攻撃になるが、これには複数の
石を充填すると少し違った効果が得られたんだよ。それがこっち。」
「へぇ、穴が3つあるんだな。もういっそのこと4つにすればよかったのに。」
「したさ、そしたらな。発動しなかったんだよ。魔法が。
一番効果が高かったのが風・土・水の組み合わせだ。雷の様な
魔法が放たれたよ。だからこれの名前は雷撃砲だ。5つほど
この試作品を近衛兵に持たせ近隣の魔獣討伐に行かせている。」
「へぇ準備は着々と進んでいるんだな。まじで排除するんだな。
人族以外を。
「全てはしないさ。魔族や亜人の偉い奴だけでいいさ。後は
人族の為に協力して働いてくれるさ。」
「それって奴隷にするって事か?この国では禁止事項じゃないか。」
「禁止しているのは人間の奴隷だ。」
「あ、そうだ。海の村に妖精使いが二人いたぞ?こっちを見張っていたが。
俺は気づかないふりはしたが。いいのか?ほっといて」
リスボアは手を顎にやり、少し思案する。
「いまはいいさ。あいつらはどう見ても人間の領域を超えている。
というよりも、人間とは違う何かとして存在しているのだろう。
今は静観でいい。姿かたちは人間だ。こちらの味方になるかもしれんしな。
ユキは英雄とか勇者とか言われてまんざらじゃなかったよ、はっはっは。」
「亜人たちには、おっと、王国もだったが『皇国の化け物』って言われて
いたが?」
「他と違う、何か特別な存在と言うのに憧れてるんだろう。その
『皇国の化け物』という呼ばれ方もまんざらでもなかったようだったしな。」
「ありゃあ、まじで化け物だったよ。あいつとはやりたくねえな。」
スサノオは少し手が震えているのを感じていた。
「じゃあ強くならんとな、はっはっは。」
「因みにどうなってるんだ?魂の転写の方は。」
スサノオは鼻で笑いながらリスボアに聞く。
「タギリ達で実験する事は出来なくなったからな。もう少し解析して・・・。
ツクヨミで試す。」
「失敗したらどうするんだよ。もっと他の奴にしろよ。
今からこの二つの勾玉の体を取ってくる。場所を調べてくれ。」
「そうだな、少し早まった考えをしてしまった。ではそうしよう。
あの山にあった勾玉か。これは・・・。オモイカネとフトダマか。
こいつらもこっちに来ていたのか。まぁちょうどいいかもな。
この二人の体が手に入ったらやってみるか。転写を。」
★★★★魔王領★★★★
なんだかんだで俺はレベル上げをしている。すでにメインの体を見つけ、
その必要もあまりなくなったのだが。黄龍次第では出来ない可能性も
あるからだ。勿論、あの転移小部屋を使えば23時間限定で
メインの体にはなれるんだが・・・。既にそれは出来なくなっている。
何故ならばレベルが上がったからだ!
レベル上げ。そうか、俺はなんだかんだでキョークの体を
気に入ってるのかもしれない。
因みにレベルが上がり、今は。
レベル96 HP866 SP241 MP204
攻撃力110
防御55
素早さ119
賢さ65
耐性65
運60
これにジヴァニアの効果でステータス2倍だ!
MPが200を超えたので俺のMPをマイナスにするには
リリスの塔の増築が必要になった。
「すでに取り掛かってますよ。」
リュウは凄く威張った感じで俺に言ってくる。
リルさんもウンウンと頷きながら・・・笑顔。
「これからどうするおつもりですか?」
そう聞かれたので俺は一度リリスの塔の書庫に行きたいと言う。
色々この世界について知りたいからだ。それから・・・。
黄龍を探す。
「お待ちいただければマカーブル達が探しておりますので。」
で、ですよねぇ。俺が闇雲に探すより確実だ。
じゃあその後は予定変更して全ての街や村を回る事にした。
そしてリリスの塔に戻る・・・。
リリスの塔の5階に書庫がある。
さて、どの本から読めばいいんだ?と、悩んでいると。
「まずはコレを読んでいただければ。この世界の成り立ちが
書かれています。1巻から3巻までございます。」
俺は渡された本を手に取り読み始める。
「何かありましたらお声を掛けてくださいませ。
お一人でゆっくりとお読みください。扉の向こうにおります」
そう言うとリルさんは部屋を出て行った。
『ベレーシート創世記』
ベレーシート?あああ!思い出した!大陸の名前。
俺は俺の脳みそを呪いたい。
そして俺はその本を読み始める。
~ベレーシート創世記~
初めに大陸がある。何モノも存在しない大陸、大地。
ある時、大きな裂け目が出来る。その中から。何かが出てくる。
それこそが魔王。原始にして創世のモノ。
どうやって来たのかはわからない。魔王は「手を伸ばした」と。
「手を伸ばしてこの世界に来た」と語る。
魔王が現れてから一時し、生きとし生けるモノが現れ始める。
最初は植物。そして小さな生き物、野獣。ある時、意志を持つモノが
現れる。魔王は喜びそのモノ達の手を取る。
その時に魔王の頭にある言葉が響く。「この者達は特異」と。
魔王は日々、裂け目を見るようになる。今日はどんなモノが現れるのか?と。
無論、毎日何かが出てくることはなかった。数年かかる時もあれば、
一気に毎日現れる事もあった。生き物ではない道具の様なモノも
現れる時もあった。そして・・・。
少しひ弱な生きモノがどんどんと現れ始める。やはり頭の中に声が響く。
「この者達は進化」と、それが現在の、エルフ族、吸血族。
他にも猫耳族や鬼人族。魔王はあまりの力の弱さに心配した。
守ってやらねばならない。そう心に決めた。
その夜、魔王は頭に色々な言葉が駆け巡る。
「制作」「特異」「進化」「失敗作」と。
魔王は意味が解らなかったが、その言葉だけは覚えておくことにした。
ある時「これはダメだ。失敗作だ」
その声とともに現れたのは今で言う、人族だった。