第89話 全員が。
「キョーク・・・。魔王って?どういうことだ」
まずは薬屋が聞いてくる。
ダンも解体屋も真剣な顔をしている。そりゃそうだ。
俺は伏し目がちになる。・・・そりゃそうだ。
「そう言う事だよ!何か文句あるのかい!?」
女将が腰に手をやり言い返している・・・。
「文句も何も魔王って言えば、人族の敵じゃねえか!」
この声は・・・薬屋だ。俺は下を向いていて居るのでどんな
顔で言っているかはわからない。
「じゃああんたは魔王に、魔族に何かされたのかい!?」
女将の声だ・・・。俺の為に反論してくれている。
「いや、俺や村に実害はないが聞けば方々で暴れまわってた
らしいじゃねえか。」
薬屋・・・。すまん。
「そうだな、俺も聞いたことがある。」
これは・・・だれだ?あの娘を殺された若い奴か。
「俺も亜人の国から物資を調達するような依頼を受けたことがある。
元は人族のモノだったとかで」
これは・・・ダンだ。
「じゃあその物資は本当に人族のモノだったのかい!?」
女将が・・・反論している。
「い、いや、まぁ?確かに亜人の国でしか作れないモノだったが。」
ダンの声は少し弱い。
このまま女将に任していいのか?いや、ダメだ。逃げてるんじゃねえ、俺。
向うの世界と同じには成りたくねえ!せっかくこの世界に来たんだ!
「聞いてくれ!」俺は意を決して!顔を上げ!言う!
俺が魔王と言うのは事実だ。それ以上もそれ以下でもない。
俺が嫌なら・・・ここから離れてもらって構わない。と。
「いや、そうじゃないんだよ村長。」薬屋は真剣な顔で俺に言ってきた。
「確かに信じられんことだけど、何故先に言ってくれないんだよ」
いやいや、俺だって魔王って信じたくねえよ!と思ったがソレは言わない。
「俺達はここのエルフ達に良くして貰っている。最初は嫌な目で見られていたさ。
俺達は人族だからな。だけど、一緒に居て色々と判るんだよ。
一言では言えないけどさ。亜人って本当に敵なのか?とかもさ。」
ダンが真剣な目で言ってくる。全員が頷いている。
「俺はさ、キョーク。お前が好きだ。だから村長にって話に
いの一番に賛成した。お前が魔王だって言っても、だからと言って
俺は手のひらは返さない。俺達はお前にもエルフ達にも恩がある。
聞けば、ここは魔王領の庇護下って話じゃねえか。じゃあ、俺達は
魔王領の魔族?に守ってもらっている。じゃあそのテッペンの魔王様には
頭が上がらねえよ。」
解体屋・・・。
「そうだな!逆に村長が魔王ってなら守ってもらうしかねえじゃねえか!
ん?今までと変わらんな!と、いうか、キョーク様って言った方がいいのか?
まぁ流石に村長じゃまずいしな」
おいおい、薬屋。
「俺は村長に感謝している。娘の仇を打ってくれたし。
それが村長だろうが魔王だろうが関係ない。俺はそう思っている。」
・・・ありがとう。
「因みに・・・。魔王って人族食うのか?」
おい!食うわけねえじゃねえか!
取りあえず俺は向うの世界からダイブしてきた所から今までの事を
話した。勿論、王国や皇国の事も。
ついでに王国が皇国に編入する際の決議の事も話した。
殺された村長が居ることも。
「あぁー。そんな感じはしていたよ。噂では魔獣や亜人が仕出かした
って事になっているけどな。村長の話の方が現実味があるな。」
「おい、おにぎり作ったから食べながら話そうぜ」
ファブがそう言いながら大量の御握るを持ってきた。
いや、すまん。さっき定食食ってきた・・・。
あ、ファブが泣きそうな顔でこっち見ている。食う!食いますよ!
・・・そうだな。焼こう。焼きおにぎりにしよう。
何故か焼きおにぎりパーティになってしまった。
「村長も色々と大変だったんだなぁ。しかしさ、その皇王?
ヤバくね?」
村人の一言に全員がうんうんと頷いている。
俺は魔王って事でいいのか?・・・いいんだよね?納得してくれたのよね?
「はぁ?その体と魔王の体は別だろ?ならその体の時は村長って呼ぶし。」
ダン焼きおにぎりを頬張りながら言ってくる。
やっぱこいつらは・・・いいじゃないか!
ちらっとリルさんを見ると・・・眉間にしわが寄っていた。
いや、この体の時はコレでいい、と俺はリルさんとリュウに伝える。
二人は少し微笑みながら俯いた。
「ところでさ、その美人とイケメンはだれ?」
ダンが普通に聞いてきたので答えて上げた。リリスとヴァスキって。
思った以上の反応。口の中の食べ物を全員が吹いてくれた。
方々から、「あの」とか「例の」とか聞こえてきた。どれだけ魔族は
その名前を轟かせているんだ。
ダン曰く、魔族 八芒星は王国でも皇国でも相当に名前が通っているらしい。
『姿を見たら、終いと思え。』実際は姿を見たモノは居ないと言う。
何故ならば・・・生きて王国や皇国に戻って来た者はいないからだ。
ただ、噂として、「相手は単体だった。群は率いていなかった。」と。
人はうわさをする。亜人の国で聞いた。
クドラク様が・・・、とか。マカーブル様が、とか。
リリス、ヴァスキ、ニュクス。勿論、ヴァスキ、リャナンシー。
・・・そのモノ達の名を。人族は後で知る事になるのだ。遣られてから。
遣ったのは魔族 八芒星だったと。
「俺達はこれからもここに居ていいのか?」
少し心配そうに薬屋が言ってきたので、俺は長をチラリと見る。
「勿論ですよ。いままで色々と見させてもらいましたが、本当にあなた達は
私達と友好にしてくれている。それにキョークさんの村の人達だ。
逆に来てくれてうれしく思っています。人族も様々なのですね」
長はそう言うと、女将が
「こちらこそ、最初は偏見の目で見ていたんだ。本当にすまなかった。
そんな目で見ていた自分たちが恥ずかしいよ。これからも力になって欲しい」
エルフの長に深々と頭を下げた。・・・つられて全員も。
なんか、話が斜め上に行った気がしないでもないが俺が魔王って事は
わかってくれたようだ。
「いつ皇国を攻めるんだ?」
わかってない奴が居た・・・その名はダン。
女将に蹴られたのは言うまでもない。
「これは決め事だ。キョークの体の時は今まで通り。でも
魔王の体?見たことないけども。その時には私達は庇護していただいている
という事を胸に刻んで接するよ。因みにどんな姿なんだい?
相当な強面なんだろうねぇ・・・。」
女将がそう言ってくると、すかさずリルさんが。
「それはもう絶世の美しさですよ?女性の私でも惚れてしまいました。
本当に美しいお方です。」
「え?」
全員の顔が。言葉を発しないが聞こえてくるほどの顔。
「ちょっと待って!魔王様って!?村長のもう一つの体、いや!
魔王様って女性なの!?」
女将よ・・・。わかる、わかるよ。その反応。
すまん、事実だ・・・。そう言うと・・・。
「絶世の・・・美しさ。村長、すまん。俺、そっちがいい。
・・・村長は、もう引退して魔王様で今後来てくれや。」
解体屋のその一言に全員が頷く・・・。こいつら!
「はっはっは!まぁ一目見たいが嘘だよ嘘。」
全員が笑う。くっそ!・・・いいじゃないか!こいつら!
「そういえば、『嘘』って人族のみの『スキル』って知ってました?」
突然にリュウが言ってくる。リルさんも頷いている。
マキナも、そして長も。
「え?そうなの?」俺も村の皆も驚く。
「あ、わかるかも。俺、この村に来て『嘘』とか『冗談』すらも
聞いたことない。」
誰かがそう言うと「確かに」と全員が頷いている。
「冗談ももとをただせば『嘘』だしなぁ。でも冗談を言わなくても
ここは楽しいし、笑い顔もでる。本当に来てよかったよ」
薬屋はいいこと言うが・・・おにぎり食うか喋るか、どっちかにしろ。
俺のその一言に・・・全員が、
笑う。