第76話 ユキ、抜刀
「どうやら囲まれたみたいですね!」
イブさんや、貴方は何でそんなにウキウキしながら言うの?
俺は青龍に村人を守る様に指示をしながらリャナさんに
バフを依頼する。
イブさんをちらっと見ると既に・・・。始めていた。
うわぁ、何のデバフを掛けたんだ?敵がラりってるぞ・・・。
「キャッキャキャッキャ」
イブさんは凄くはしゃぎながらラりった兵士に氷魔法をぶち込んでいる。
アイスピックの連射だ。なるほど、中級魔法でも連射をする事で
上級魔法よりもMPを押さえて威力も近いモノを出す。流石だ。
・・・こ、これなら右の方は任せていいかもしれん。
青龍を見ると、なんだか結界を張っている。そんなのあったか?と
よく見ると攻撃風魔法を全方向に放っているのか。
初級の魔法をイブさんのように常時くり出す事で結界のような感じに
しているのか。旨いな。
さて、俺もイライラしてるんだよ。2本の剣を抜き突っ込む!
お!リャナさんが素早さ向上のブーストを掛けてくれた。
ジヴァニアは青龍の所に行っている。良い判断。
敵の兵士はレベル70程度って所か。・・・敵ではない。が、
数が多い。
「キョークさんは何故、兵士を殺さないんですか?こいつらのはずですよ?
村の人族を殺して回ったのは。」
イブさんの一言に俺は何かのスイッチが入った。
え?こいつら?俺は手加減をしていた。殺さないように。だって
相手は人族だ。王の命令に従って仕方なく来たのだろうと・・・思っていた。
「それはもう笑いながら、酒を飲みながら火は放つし殺すし。
私が魔王領からではなかったらもう少し逃がせたんですがね。うふふ。」
そう言いながら兵士を踏みにじっている。あ、頭潰れた・・・。
そうか・・・。こいつら、笑いながら・・・殺したんだな?
俺の村の住民を。そうか、そうか。
激高。なるほど、理性ってなくなるんだな・・・。
くそがあああああああ!
俺は覚えていない。気が付いたら死体の山が出来上がっていた。
返り血もびっしりと受けていた。
イブさんが水魔法をぶっかけてきて気を取り戻した。
その後にリャナさんが炎と風魔法で温風を作ってくれて・・・。
でもおれの涙は乾かなかった。
ちくしょう、ちくしょう。リスボアもこいつらも・・・。
人間じゃないのか!何だってんだよ!なんで!?同じ人間じゃないか!
なんで、そんな事が平気で出来るんだよ!
俺は青龍が守っていた村人の所へ行くと・・・。俺を見て?なのか?
青ざめ・・・震えている。・・・なんで?仇は打ったのに。
あぁ、そうか。俺もこいつらと同じなんだ。
殺しちゃったんだ、人間を。あぁこれで2回目だ。
「あ、ありがとう。仇を打ってくれて。」
女将が俺にそう言葉を投げるが・・・目を見てくれない。
その時だった・・・。
「ばかやろう!女将!村長は仇を打ってくれたんだよ!
なんでそんな顔で!あいつらが先に殺しやがったんだ!」
そう言ってきたのは奥さんと娘を殺された若者だった。
「村長は俺達が出来ない事をやってくれたんだ。
罪を全部、かぶってくれたんだよ。」
そうだ。人殺しは罪だ。俺は・・・やっちまったな。
「いやぁ、キョークさんすごかったね!惚れ惚れしちゃった!
さすが・・・魔・・んぐっぐうう」
なんかイブさんとリャナさんが漫才をしていた・・・。
俺は殺した兵士たちを埋めた・・・。取りあえず手は合わせた。
イブさんによると数人をワザとにがしたそうだ。
「既に始まりを告げたのですからね、皇国は。」
そう言いながら村人に向けてなにかの魔法を放った。
「これは夢。そう夢なのです。変な夢を見たって感じでしか
覚えておりません。てへへ。」
イブさんの魔法恐るべし・・・。
グヲオオオオオオン!
なんだなんだ!と思ったら雪丸だった!おお、戻ったか。
「少し先にエルフが数人と人族の男が荷馬車でこちらに向かって
来ております。・・・ヤリますか?」
やめてくれ、イブさん。それは仲間だ・・・。と言ったら
冗談ですよと笑った。
数時間で俺達はダン達と合流した。飯だ!俺達は炊き出しを行う。
「そうか・・・。親父はおっ死んだか。みんなの囮になって。
さすが親父じゃねえか。うん、さすが親父だ。」
ダン・・・。すまない。俺がしっかり・・・。
「まさか、俺がしっかりしとけば・・・。とか考えてないよな?大将」
ダンはそう言うと俺の手を握り「ありがとう。」と言った。
どうやらリャナさんから追手の兵士を撃退したと伝えられたらしい。
「本当にありがとう。俺は元冒険者だ。やった事はやり返される。
そんな事は当たり前だと思っている。恩には恩を、アダにはアダを。
親父が良く言っていたよ。何かをすれば必ず何かが帰ってくる、己に。
いい事も悪い事もやっていい。しかし、全て自分に帰ってくる。
そう言って俺を送り出したんだ、親父は。」
そこまで言うと、ダンは少し間を開け、さらに。
「だから俺は大将に殺されかけた。いや、殺されたんだ。
今は俺はいい事をしていると思う。だって、いい事ばっかり起こるから。
まぁなんて言っていいのか。あんまり考えないでくれ!って事だ!」
ダンは俺を心配して話しているんだ。ダンも色々な道を通ってきたんだろう。
だからなんだろうな。
そして俺達はエルフの里へと到着した。
村人はダンの農場で暮らすことになった。人手が足らなかったので
ちょうどよかったらしい。
「ハッキリ言って我々はあまり人族に対して良い考えは持っておりません。
しかし、敵対行為をしない限り問題はありません。
ダンもこの里になじんでおります。ダンの村の人達だ、信じておりますよ。」
エルフの長はそう言いながら女将と握手をした。
ふう。コレでひと段落だ。俺はエルフの長に頭を下げる。
エルフの長は大慌てで辞めてくれと言う感じで手を振っていた。
・・・恐るべし、リャナさんの威力。
「あ、あの。そちらの方は・・・。もしかして。
・・・あの方ですよね?どうみても。」
長は少し顔色が悪い。
「イブでーす。・・・イブですからね。」
ええ、そうですとも。イブさんです。決してニュクスではありませんよ?
まぁでも無理か。大丈夫・・・。常駐はしない。
「なるほど。皇国が・・・。この村にも火の粉が飛ぶかもしれませんな」
長は顎に手をやり考える。
「いや、それはないだろう。今は。ある程度の情報でしか言えない
ですが。まぁこの事態に対して少し手は打ってあります。
魔族の威を借ります。亜人の国と魔王領は、まぁ同盟みたいな
モノを結んでおります。だからここで一度、目立つ様に、噂になる様に
少しばかりの交流をと考えております。ふふふ。」
イブさんはなにか手を打っている。多分、亜人の国に手を出したら
魔王領が出てくるという事を知らしめるのだろう。
「あまりにも平和すぎるから忘れているんですよ。人族は。
我々と亜人の国の関係を。そして、・・・魔王様の事を」
数日後、イブさんが言った通り、盛大すぎる物資交換が行われた。
それは旅人からうわさが広がり、皇国の耳に入る事となる。
亜人の国と魔王領の関係が、行き来が活発になった。
新しい魔王が動き出した。・・・と。
★★★★とある山 中腹★★★★
ステラ視点
「ねぇ、スサノオってあなたの弟よね?
まぁこれは向うの世界の知識だから間違っていたらごめんなさい。」
逆に私はユキに私達はどう後世に伝わっているのかを聞いた。
勿論、スサノオは私の弟だとは答えた。その問いにユキは
イザナミとイザナギの子供としてアマテラスが生まれる。
その後にスサノオとツクヨミ、その他にも多くの神族が続く。
イチキ、タギリ、タキリはスサノオと何かの契約をして生まれた存在。
そんな契約したっけ?と思っちゃう私。
他にも。
そもそも、イザナギとイザナミは最終的に離縁している・・・とも。
千人殺すとか産むとか。・・・なにがあった!後世!
まぁでも、ユキは私達の存在はほぼ知っているという事か。
気になったのは、有名=強さだ。そう、この世界の。
だったら・・・。母様、めっちゃ強くね?
そんな事を言ったら「あんたも大概よ」と言われた。てへへ。
「ステラ様、そろそろ目的の所へと着きます。が、面倒な事が。
・・・アレはどう見てもスサノオ様では?」
視線を目の前に向けるとスサノオが居た。ついでに
視線を横に向けると、ユキが剣を抜いていた・・・。