第75話 イブさんとの雑談②
とてもぐっすり眠れた。この頃考えすぎて寝れなかったので
イブさんの魔法が有り難かった。
俺はまだみんなが起きていない時間に起きて狩りに行く。
食事の為だ。すでにストックが切れてしまった。
「あら、お早いのですね。野獣の狩りですか?私も行きましょう。」
そう言いながらイブさんは大きなあくびをした。
こいつ、あれだ。昼夜逆転している奴。
まぁニュクスなんで夜が強くて昼に弱いって事か。
俺達は4匹のフランゴとイノシシ1匹を狩り、そして
自生していた食える植物を取りながら野営地へと帰る。
「キョークさんはもしも、人族と争いになったらどうしますの?
争いは好きじゃないって答えは無しですよ?」
イブさんは微笑みながら俺に問うてきた。
俺は・・・。どうするのだろう。実際今は追われている、人族に。
というか、今までずっと追われていた思い出しかない。
しかし、俺は。みんなと仲良くしたい。勿論人族とも。
そう言うと・・・。
「それでこそですわ。流石キョークさん」
そういえば、魔族は俺くらいの情報を持っているのだろう。
神族に対して。俺はそれを聞くと。
「神族は現状、数人しか確認しておりません。ご存知のように
皇国のリスボア皇王、そしてその息子のスサノオ。それに娘の
アマテラス。今はステラと名乗っているのでしょうが。
どうやらリスボアとステラは考えが不一致していると思います。
ステラはどちらかと言うと魔族の考えに近い。」
すこし間を置きイブさんは再度話す。
「基本的に神族は同族至上主義です。それには人族が含まれます。
イレギュラーなのか知りませんが、アマテ・・・ステラは種族関係なく
平和でありたいと思っている節があります。
これは多分、神族の中では異質かと思われます。」
「もしも、神族の中で争いが起きて、どちらかに加担をするならば
間違いなくステラでしょう。それに、ステラには皇国の化け物、
ユキが居ります。敵にしたくないですね。」
そしてため息を一つ付き・・・。
「私達が調査をしてわかった事の中に、リスボアの妃。
彼女こそ『親王』かと思われます。今はまだ魂と肉体が離れておりますが
もしも、それが復活となると、どういった事が起きるかわかりません。
なにせ、どれほどの強さなのかさえ分かりませんし。
ただ、魔王様と対をなすのであれば、相当かと。」
なるほど。では逆に魔王とはどれほどの強さなのだろう。
イメージとしては世界を滅ぼす。みたいな感じだが、それをイブさんに
聞いてみると。
「魔王様とは希望なのです。考えてみてください。どんな種族であろうと
虐げられず、認め合う。それはキョークさんが一番、ご存じなのでは?」
イブさんはそう言うと微笑む。
確かにそう言われれば俺は向うの世界で色々とみてきた。
いや、知ってきた。争う、所謂、戦争。それは利権も勿論あるが
民族として起こりえる争い。日本だってそうだ。
戦国時代とか、そりゃあもう殺し合いだ。あれ?それって同族でも
殺し合うのが人族って事か。
「それがまさにリスボアとステラなんでしょうね。」
確かに。ん?待って?魔族にとって黄龍とはどういった存在なのだろう。
この世界に多くの魂を転写した存在。
「実は文献には黄龍という名前は出てきておりません。
しかし、昨日も話したように、神族が突然消えて、そして今。
神族が現れたことに関連づけると黄龍とは『この世界の持ち主』
となるのでしょうか。とても嫌な事です。」
ん?嫌な事?なんで?
「だってそうではないですか。私達の存在は『彼』の思うままなのですよ?
私達の存在意義は『彼』の思うがままって事になるのでは?」
確かにそうだ。しかし黄龍は果たして只の自己満足、気分1つで
色々と行う奴だろうか。黄龍は向うの世界の魂の多くをこの世界に
移した。それは魂の救済だ。それはどちらかと言うと魔族の考えに近い。
どういった魂であろうと救う。まぁ間違ったのか?神族の魂も
こっちに移しちゃったのだが。あれ?待って?
そもそも、向こうの世界って人族しかいないんじゃないの?
神族を『間違って』?勿論、向こうの世界には人族しかいない。
ならば、黄龍は人族の『神』って事になるのでは?
ならば魔族と敵対する存在なのか?
大昔にこの世界の神族が消えた理由。魔族と争い、滅亡の危機だったとする。
そこに黄龍が救済のた為に神族を転移させたと考えられるのでは?
「そうですね。黄龍は現状、敵と思われます。現状ですよ?
実際、どういった存在なのかわかりませんし。平等かもしれません。」
うーん。雪丸の体をうにゃうにゃとしていた存在。
一緒に行動を共にしていて亜人を嫌う事もなかった。
逆にエルフのマキナを『いい子だ』と褒めたこともある。
これは俺にしか話していない事だが。
うーん。謎が多すぎる。というか、凄くグローバルに考えすぎている俺。
今はそんな考えはよそう。兎に角村人を安全な所へ連れていく事だけを
考えよう・・・。
取ってきたフランゴとイノシシを女将と解体屋に渡す。
俺はシチューにしてくれと頼み、リホさんから貰ったシチューの素も
渡した。携帯用として凄く便利だ。・・・どうやって作ったのだろうか。謎。
・・・ミツルは旨くリホさんと合流できただろうか。
と言うかアイツ、惚れてると言ってたな。
・・・糞が。フラれればいいのに・・・・。リア充撲滅。
ミツルもだが、ユキさんは今頃どこで何をしているのだろうか。
「主よ。取り込み中悪いが、こちらに4~50人ほどの武装した
集団がきているぞ。皇国の者達ではないのか?
遣るのか逃げるかの判断を頼む」
突然に青龍が言ってくる。まじか!
リスボアめ・・・。ここまでするか!?相手のレベル帯によるが
少しキツイかもしれないな・・・。
俺は皆に荷馬車の所で固まっているように告げる。
★★★★皇国 リスボアの部屋★★★★
「そこまで執拗に追い込むとわ。彼はそれほどまでに
危険な存在なのですか?」
従者は少し笑いながらリスボアへ問いかける。
「あぁ、危険分子だ。そもそも妖精使いだぞ?それに
あいつらはレベルが異常に高い。我々と同じくらいに。
見逃す方が頭おかしいって言われるぞ?」
リスボアは笑いながら従者へ答える。
「危険分子と言うよりも石ころだ。何気なくつまずいてしまう。
・・・あってはならない事だ。まぁ彼はレベルが低いが何とも
得体のしれぬ力を感じてしまう。」
「それはユキよりもですか?」
「そうだな、ユキよりもだ。ユキは単純に強いだけだ。
しかし彼は違う。力で言うと相当にユキに劣る、が。
不気味なんだよ。」
「それは正体が不気味と言う意味でよろしいのですか?」
「そうだ、正体が不気味だ。彼には嫌な予感しかしない。
本当に友達になりたいくらい不気味だ。」
そういうとリスボアは笑う。
「そう言えばリホは見つかったのか?」
リスボアは真面目な顔に戻り従者へと聞く。
「残念ながら、あのミツルと言う妖精使いのせいで全く
解りません。ただ、もし逃げるのであれば亜人の国かと」
「だよなぁ・・・。亜人の国へ逃げていたら面倒だよなぁ。
戦争になっちゃう。」
「そりゃあダメですね」
「うん、ダメだねぇ。亜人の国ならまだしもステラと合流された日には
とんでもなく、もっとダメだね」
「・・・とんでもなくダメですね。まぁでもそれはないでしょう。」
「なんでそう言い切れるの?」
「そりゃあ、ステラ様がどこにいるかわからないからですよ。
我々もわからないし。」
「彼女は多分、あの山に向かっているよ。もしかしたら
スサノオと出会っちゃうかもよ?」
「出会っちゃったらどうなるんでしょうね」
「ステラには悪いが・・・。スサノオには言ってある。
・・・排除してよいと。」
「実の娘を・・・。怖い怖い」
「笑いながら言わないでくれるか?こう見えても苦渋の
判断なんだ。」
「とりあえずキョークには50人の精鋭部隊を向かわせています。
頑張って欲しいモノです」
「そうだな。奇跡が起きてキョークを始末してくれると
助かるんだけどね。そう願うよ。あいつは居ない方がいい。
今は只の石ころだが・・・。」