第74話 イブさんとの雑談①
今頃、王都では調印式が行われている頃か・・・。
正直な話、国のトップなんて誰でもいいと思っている。
しかし、その誰でもは『どんな奴ら』ってことではない。
普通でいいのだ。普通に住民の事を考え、普通に実行してくれる。
と、俺は思う。その普通は一部の人だけに『普通』であってはダメだ。
俺は向うの世界では『普通』から弾かれた存在だった。
いや、違う。自分から出て行ったんだ。・・・普通から。
あー!もう!なんか変な事ばっかり考えている!
よし!飯にしよう!
多分、それこそ普通に食事が出来るのはこれが最後だ。
・・・米が切れた。そして肉も切れた。
雪丸はうまく伝えることが出来ただろうか。なんだかんだで
アイツは頭がいい狼だ。へたすりゃ、俺よりも頭がいい・・・。
俺は女将を呼んで、多分これが普通に食べられる最後の食事と伝えた。
女将は少し驚いたが、すぐに明るい顔で
「私の子供の頃なんて2~3日水だけで生活した時もあるのよ!
大したことじゃないわ!逆に今まで食わせてもらってありがたいよ!」
女将がそう言うと、他の皆も頷きながら「そうだそうだ」と言ってくれた。
まだ、ましなのは、この辺りにはフランゴが多いって事だ。
しかし、18人・・・いや俺たちを含め21人となると
結構な数を狩らないといけない。
あー、なんか思い出した。こっちに来てパンを求めて
洞窟に入った時を・・・。
そして水袋をゲットしたんだ・・・。今も役立っている。
これがなければ全員が水不足に陥っていた。
そして次の日
俺達は保存食でしのいだが・・・その保存食も切れてしまった。
勿論、道中にフランゴを狩ってはいるが、数が足らない。
食欲がないと言って遠慮する人たちが多い。
・・・そんなわけはない。みんな自分は我慢して他の人に
与えてるのだ。俺がもっとましな村長だったら・・・。
「俺は村長が皇国になるのを反対した事が嬉しいよ。だってさ、
自分の考えにそぐわないモノが居たらあんな事しちゃう奴らだ。
仲間じゃなくてよかったよ!」
誰かがそう言った。そしてみんなも「そうだそうだ」と言う。
本当にこの18人はいい奴らだ!絶対に守ってやる。
・・・どんなことをしてでもだ!
この日の夜、俺が見張りの役をしているとイブさんが
俺の元にやってくる。
「私、夜には強いの。替わりましょうか?ゆっくり寝てくだされば。」
そう言ってくれたが俺は首を横に振る。
イブさんは少し笑いながら焚火に小枝を入れている。
「キョークさんは人族なんですの?それに妖精を連れている。
妖精は人族にはつかないモノなんですよ?って、ご存知でした?」
え?まじ?ってか、リホさんやミツル、そしてユキさんも妖精が
付いているんだけど?俺達、人族じゃないの?・・・か?
「姿かたちはどうみても人族なんですけどね。しかし明らかに
人族よりも強すぎます。それに体を2体持っている。もしかしたら
他の方もそうなのでは?」
その問いに俺は・・・無言の返事をした。
サブキャラが居るのはミツルとユキさん。リホさんは居ない。
・・・ん?イブさんは何が言いたいのだ?
俺達は人族ではなく、他の『種族』って事を言いたいのか?
「リャナンシーに色々と聞いています。人族でありながら、
人族とは違う考えを持ってらっしゃると。特に、異種族共存を
考えている。これは明らかに人族の考えではないのです。
どちらかと言うと、魔族寄りの考え。でも、魔族でもない。
その辺りにすごく興味があるんです。」
そう言いながら、小枝を焚火にくべる。
「私は魔族。でも、そう言った事にすごく興味があるんです。
種族とは何か。・・・とか。この世界には多くの種族が居ますが
大きく分類すると二つに分かれます。共存を目指すか、それとも。」
イブさんは何が言いたいのだ?凄く含んだ言い方をしている。
「神族が発現した事は、既に魔族は情報として知っております。
文献でしか知りえなかった神族。いわゆる、私達と考えを共有しない
モノ達。いままで、神族が居なく私達、魔族が居たという事は
何かしらの事、例えば争い。もしかしたら魔族が争いに勝って
神族を淘汰したのかもしれません。もしかしたら神族は、別の世界へ
転移したのかもしれません。」
何故か興味をそそる話になってきた。
「転移を考えるのは、争いによって相手を完全に殲滅するのは
不可能だからです。長い時間を掛けてゆっくりと丁寧に、もれなく
殺す必要があるからです。しかし、文献ではある時を境に
きれいさっぱり神族が居なくなったと書かれています。
・・・何故なんでしょうね。。」
凄く遠回しな言い方だ。イブさんは多分、自分で何かを調べて
結論を導き出している。そんな感じで話している・・・。
「キョークさんは異世界人ですよね?そして、ゲームと言うワードを
よくお使いになっているとリャナンシーに聞いています。
キョークさん達がこの世界に来たと同時に神族もまた、この世界に
現れた。いや、神族に限ってはこの世界に『帰ってきた』というのが
正しいかもしれません。」
おいおいおいおい。この世界はゲームの世界のはずだ。
隕石が落ちる事によって多くの魂が消滅する。それを黄龍が
魂の逃げ場所としてこの世界を選んだ・・・。
いや?待って。思い出した・・・。
俺はゲームをしながら『違和感』を感じたことがある。
街並みは懇切丁寧に作り込まれている。そして、魔獣だ。
名前はとにかく適当なんだが凄くリアルなのだ。
それなのにシナリオが・・・へっぽこなのだ。凄くアンバランス。
正義とか悪とかの概念がないのだ。
通常のMMORPGは道が決まっており、勇者となって悪を倒すか、
凄く自由度が高く。なにをしてもいいみたいな。
しかし、その自由度にも正義と悪が存在する。
あのゲームはそんな倫理はない。
というよりも人の所業を悪ととらえている節があった。
「神族と同時に魔王様の誕生です。」
そうだ、魔王について聞きたい。初めて王都に行った時に
住民たちすらその噂で持ちきりだった。しかし、それ以来、魔王について
何も情報はなかった。
「魔王様誕生も神族と同時だと思われます。」
俺は魔王についてイブさん居聞く。
今、魔王はどうしているのか・・・。と。
するとイブさんは笑いながら。
「今はまだ、本来の御姿になっておりません。しかし、
遅かれ早かれ本来の御姿になるかと」
そう言いながら微笑みを俺に向ける。
本来の姿?まさか、幼児とかなのか?
「キョークさん、いや、キョーク様?既に魔王とはどういった
存在なのかご存じなのでは?」
・・・まったくわからん!何を言いたいのだ!
俺はメインの体がおもちゃとかフィギュア状態なのではと
心配していると言うのに!
「ここで何を話しているの?変なことをキョークさんに
言っちゃだめよ?ニュク・・・、イブはそうでなくても
色々と問題多いし。」
リャナさんがやってくると同時にそう言うって事は
魔族の中でもニュクさは相当に頭脳明晰なのだろう。というか
書物読みすぎでイッチャッテル系なのかもしれん。
「現状として、完全にこの大陸は2分されるわ。
神族と人族。そして魔族と亜人。そして、こちらに魔王様が
いる様に、あちらにも・・・。居るでしょうね。」
ん?魔王と対をなす存在?・・・それって。
神?そもそも神ってなんだ?・・・呼び名なんてどうでもいいか。
結局は『争い』になるって事なのかもしれない。
俺達、いや村人たちは人族だ。それなのに人族から追われている。
俺のせいだ。俺は亜人に助けを求めている。
・・いいのだろうか。
「親王。それが魔王と対をなす言葉として文献になります。
キョークさんが一刻も早くメインの体に転移する事を願いますわ。
私が夜の見張りをしますのでどうぞ寝てくださいまし。」
そう言いながらイブさんは俺に『スリープ』の魔法を掛けやがった!
ちくしょう!眠たくなった!ってか・・・。
おやすみなさい。