第72話 エルフの里への逃避行
★★★★魔王領 リリスの塔★★★★
~マカーブル視点~
リャナンシーより依頼のあったバイコーン3匹は準備出来た。
ニュクスの幻影魔法で馬に模せば完成だ。
それを転送陣でリャナンシーの元へと送る。うむ、完璧だ!
これは魔王様に褒められる案件だ!
ん?ところでニュクスよ。お前は何故に人族に模してるのだ?
「そりゃあ、私もリャナンシーの所へと行くからよ?」
ちょっと待てーい!なぜ行く必要があるのだ!?
「途中でバイコーンに掛けた幻影魔法が溶けたらどうするのよ。」
嘘をつけ!お前の幻影魔法がそんな簡単に取れるわけないだろうがっ!
「それが解けちゃうのよ。自分に対してや仲間に対してなら
魔力の供給がずっと出来るので解けないけども。
もっと言えば、何らかの阻害魔法ではがれちゃったりしたら大変。
だからバイコーンの近くに居ないと、い・け・な・い・の。」
なーにが「い・け・な・い・の。」だよ!
単純に魔王様の近くに居たいだけだろうが!
「じゃあ、幻影魔法が解けて失敗したらあんたのせいにするからね?
マカーブルが適当なこと言って邪魔したって。それにこれは
リャナンシーからも依頼されてるのよ?」
おいおいおいおい、わかったよ。しかし、リャナンシーが応援依頼を
行うほど、アノ事案は相当なモノなのか?
「そりゃあそうよ、相手は神族よ?リャナンシーからの情報通信には
耳を疑ったわ。面倒くさいのが現れたわね。」
そうだな、面倒くさい連中だ。人族以上に排他的だ。
まさかと思うが、神族がこの魔王領に攻め込んでくる事が
あるのだろうか。
「その辺はクドラクとグルルが情報収集をしているわ。おっと、
リャナンシーの準備が整ったみたい。じゃあ行ってくるわ。」
抜かりなくこなせよ?しかし・・・。ニュクスよ。おまえのその人族の
幻影は、あれだな。なんか魔王様に似ていないか?
「わかる!?そう!イメージはね、魔王様の妹を想像して掛けたのよ!
髪の毛はショートカットよ?多分よ?魔王様はショートカット好きよ。」
何故解るのだ。魔王様はロングヘアじゃないか。
「女の勘よ。」
・・・あ、そうですか。
★★★★初期の村 薬屋の家近く★★★★
既に夕方近くになっている。
俺と薬屋、そして女将は長旅の準備を行う。
生き残っている者も準備を行うが、実際、荷物はない。
全てが焼けているからだ。なので、この家にあるモノを
荷馬車に詰め込む。大きなものは俺のストレージへと入れる。
初めて知った事なのだが、ストレージに入れる物は所有権のないモノ
だけだった。最初は入らなかったのであきらめていたが
薬屋の「村長にあげるよ、この薬の瓶」と言われたモノが入ったのだ。
なので薬屋に説明をし、一時預かる形で俺の所有物とした。
毛布や衣類などなど。調理道具などはそのまま荷馬車に積んだ。
「キョークさん、お待たせ。馬の準備が整いましたわ。
後、・・・あれです。わ、私の友達も来ちゃいました。
どどどどうしましょう!エルフの里まで同行するってききません。」
え!?ニュクス来ちゃったの?俺はバイコーン・・・、じゃなく馬の
近くに立っている・・・?女性にしては背が高い。というかかっこいい女性。
ショートカットがよく似合ってる。うわぁなんかバレーボールの選手が
スーツ着た感じだ。
「リャナン・・・リャナ?いいこと?私が居ないと幻影がはがれちゃうわよ?
それはキョークさ・・・んにとってまずいんじゃないの?」
明らかに中身、ニュクスはそう言うとこちらを見て挨拶をしてきた。
こ、これはご丁寧に。キョークです。今後ともよろしくお願いします。
「ほら!キョークさ・・・んもコンゴトモって言ったじゃない!
って事は一緒に行こうって事なのよ?所で私の名前は?」
・・・ニュクスさん。名前は自分で決めていいんじゃないかな?
「ここはキョークさんに決めてもらいたいですわ。だって私の正体、
知ってますよね?リャナンシーにつけたみたいに私にも名前を
下さらないかしら?」
なんか右腕を胸の辺りに持ってきて拝礼っていうの?ソレをしてきた。
じゃ、じゃあ、ニュクスだから・・・。ニュクさん・・・。言いにくい。
確か、ニュクスは夜の女神だったはずだ。・・・なんで魔族なのか知らんが。
夜・・・ナイト?イブニング?・・・イブさん。そう、イブさん!
「ありがたく頂戴いたします」
そう言うとニュクス・・・、いや、イブさんは片膝をつきまた拝礼した。
いやいや、そんなたいそうなことしないで!
多分俺がリャナさんをアノ魔族から助けたからだろうが・・・。
そんなこんなで俺達は村を後にする。
俺はニューロンに辺りに不審なモノが居ないか確認をさせる。
「ん?すでに始末しているぞ?3人ほどいたので。まぁ我が爪で
攻撃したので魔獣に襲われて死んだことになるだろうな、はっはっは。」
おい!始末って!ま、まぁ爪で切り裂かれたんなら・・・よくはないか。
よし、仕方ないのでとっとと出発するぞ!
バイコーン・・・いや、馬だ。これは馬だ。
馬と荷馬車を準備し、大きめの荷馬車はイブさんが。小さい方は
リャナさんが御者をする。
先頭は雪丸に斥候をさせながら。俺は荷馬車の横や後ろから
村人と一緒に歩く。殿はニューロンにお願いした。
村の住人18人と俺、リャナさん、そしてイブさん。
雪丸、ニューロンのエルフの里までの旅が始まる。
因みにニュクス・・、いやイブさんのレベルを聞いたら
191と言われた。ミツルと一緒かよ!ってか、リャナさんよりも高いな。
1だけど。どれくらい違うか聞いたら・・・。
「190を超えたらレベルなんて飾りですよ?それまでの修行が大事なんです。
あ、魔族はですよ?キョークさんのメインは確か、193でしたね。」
うんうん。ってか、やっぱり知っていたのか。俺のメインの事。
「もちろん知ってますよ?魔王様の寝室にいらっしゃいますし。
幾度かご尊顔を拝したこともありますよ!とっても美しいお方!
・・・あ。これ言っちゃだめだったっけ?」
そう言うと笑顔でリャナさんを見る。リャナさんは顔に右手を当てて
ため息を出している・・・。
ちょ!ちょっとまって!俺のメインがあるあの場所は魔王の寝室なの!?
ヒールスポットが魔王の寝室になってるの!?
「だだだ大丈夫ですよ!仲間のリリスがキチンとお世話をしていますし!
いつ目覚めてもいい様に食事とか?シャンプーとか?・・・あれ?
これも言っちゃいけなかったっけ。」
リャナさんは空を見ている・・・。
ってことは!俺の!俺のメインは!もしかして!
魔王の人形になってるんじゃないか!?部屋の飾りとして!
もしかしたら!あんなことやこんなこと!されてるんじゃないか!?
俺はメインが誰かのおもちゃにされてないかを聞いたら・・・。
「だだだだ大丈夫ですよ!だってほら、暁装備。アレのせいで
マカーブルくらいしか触れないですし。リリスなんて
触ったら腕が燃えて捥げたんですよ?この間もいきなり立って
そして倒れて大変だったんですから。・・・あれ?コレもダメ?」
リャナさんは・・・もう何も聞こえないふりをしていた。
そ、そうか。だよな。いくら魔王と言ってもよっぽどの
炎耐性が無い限り・・・。マカーブルは大丈夫なのかよ!
「この間、泣きながら熱い熱いって言いながら抱えてベッドに
寝かせましたわ。」
あれ?マカーブルってあなた達の敵じゃないの?と聞いたら。
「な、仲直りしたんです・・・。ええ、仲直り」
もうわけわからん。俺のメインの体は大丈夫なのか!
ってか、魔族って大丈夫なのか!?
なんかアホばっかりな気がしてきた・・・。しかし。
いいじゃないか。人族より・・・人間らしい。
ん?人間らしいってどういう事だろう。
いかん、また哲学的なことを考えてしまう。
今は俺のメインの体が、魔王のおもちゃにされてない事に
安堵をしている。
しかし、魔王の部屋の飾りかよ・・・俺のメインの体は。
これはもう少し詳しく聞く必要があるな、イブさん口軽そうだし。
そして俺達は村を出て3時間後、最初の夜営をする。
俺とリャナさんは全員分の米を炊き、肉を焼く。そして
酒もあったので皆に振舞った。
イブさんも興味を覚えたのだろう、食事の準備を手伝ってくれた。
あれやこれやリャナさんに聞きながら。
勿論、女将も準備をする。
焚火の近くで全員が寝る。満腹になったら一気に疲れが出たんだろう。
皆、いびきをかきながら熟睡してくれた。
初日の見張りはニューロンにお願いした。
寝る事も仕事だ。俺は聞きたい事がいっぱいあったが今はいい。
この旅が終わったらゆっくりと聞く事にしよう。