第55話 PvP
ど、動揺してはいけない。
俺はゆっくりとユキさんのテーブルへ。
ユキさんは無言でおにぎりを食べている。・・・仮面を外さずに。
俺の前にもおにぎり定食が出される・・・。出すなよ!
俺は何故ここに居るのかを聞いたら、少しの無言の後に。
「ここの・・・おにぎりの事を・・・聞いた。
・・・ご飯が・・・食べたかった・・・の。」
な、なるほど。流石日本人。・・・いかん。会話が続かない。
ふと足元を見ると九尾の狐も食事をとっていた。
きゅ、きゅうちゃん、元気そうだね。と俺は会話を振ったが
「・・・うん」としか返ってこなかった。
「少し・・・ここに、滞在・・・しようかな。ご飯・・・
美味しい・・・し。」
そう言うと顔の前で手を合わせたユキさん。
滞在?ま、まじですか?・・・沈黙が流れる。
それはそうと、俺は意を決してユキさんに聞いた。国王や
一族を殺す必要はあったのか、と。すると
「私・・・じゃ・・ない。私が・・行った時・・・には既に・・
死んで・・・いた。首も・・・並べら・・れて。」
そこまで言うとユキさんのローブから妖精が飛び出してきた。
「あーもう!なんでユキは人と話す時は片言になるのかなぁ!
私と喋る時みたいに喋ればいいのに!代わりに私が言うわ!
ユキは殺してないわよ。濡れ衣よ!多分、皇国の指示よ!あの皇王は
うさんくさいもの!」
「サンちゃん・・・。別に・・・いい・・・の。」
「よくないわよ!利用されただけじゃないの!」
ふむ。どうやら俺達の考えとこの妖精の考えは一致している。
と、言うか。さんちゃん?
「あ、自己紹介まだだったわね、私、サンテミリオン。今後とも
ヨロシクね。あんた信用できそうだから出て来ちゃった」
あ、はい。よろしくお願いします。と俺は頭を下げた。
「ところであなたの連れている、食事に夢中のその妖精さんは?
結構いいドレス着けてるけど。なんか優秀そうね。」
あぁ、こいつはジヴァニア。サンテミリオンさん。外見で判断は
してはいけないよ?こいつバカだから。
でも仲良くしてください。これで妖精は4人なのですよ。
「へぇ、あの時にあった他にも、もう一人いるのね」
今は皇国に居ることを伝えるとサンテミリオンさんは、すぐに
他に移った方がいいと言った。まぁ実際、俺もそう思っている。
「そういえばさ、なんで魔族と一緒に居るの?まぁ別段、悪いと
いう事は無いんだけど・・・。私、わかっちゃうのよ。
そういうの。」
あ。一発でバレた。もしかして、コイツの能力は、『それ系』なのか?
所謂、鑑定の上位版。ミネルヴァの能力の上の奴だ。
「魔族を敵と思ってるのは人間だけよ、安心して?私は
どうでもいいし。ユキは知らないけど」
サンテミリオンはそう言うとユキに流し目を送る。
「私も・・・どうでも・・いい。私の・・方が、多分強・・・い。」
ユキさんのその一言を聞いてリャナさんの顔色が変わった。
やめて?ここで争うのはやめて?ほら見て?窓の外で長のユンカーが
涙目になってる・・・。
「じゃあ、少し手合わせをしたいんだけど?」
リャナさん・・・マジデやめて。俺は二人を戦わせたくないの!
俺の声を聞かずにリャナさんが立ち上がる。
あーもう!
止めてって言ったよね!
俺が少し興奮した感じで言うとリャナさんはハッとした顔をして座った。
しかし、そのやり取りを見てユキさんが
「確か、・・・名前・・・は・・キョーク。貴方と・・・戦う。
多分貴方・・・は強い。」
いえいえ、私は只のしがないサブですよ?強いわけないじゃないですか。
あは、あははは!と笑ったが・・・。
「レベル・・は低い・・けど・・・強い。PvPとかで・・侮れ・・ない人。」
「話は聞かせてもらったわ!やっちゃいな!キョーク!コテンパンに!」
おい。食い終わったからと言っていきなり首を突っ込むな!クソ妖精!
足元を見ると何故か雪丸が闘志満々だった!おい!
しかし、いい機会だ。ユキさんと手合わせできるし。こんな機会は
めったにない!やってやる!
少し、シュンとしているリャナさんの頭を撫でる。何故か撫でた俺。
どうせ瀕死になってもリャナさんが直してくれるだろう!
なんでこうなった!
俺達は茶華飯店の外に出る。
俺はユキさんに「有り有りの無し有り」でいいか聞いたら、
それでいいと言われた。・・・ユキさんが少し笑った気がした。
「抜刀!」
お互いが叫ぶ。開始準備の掛け声の様なモノだ。
そこから5秒後に始まるのが暗黙のルールだ。
絶対にしてはならない事、それはユキさんの剣を受ける事だ。
かわすすかない。ユキさんの草薙の剣は防御無視の特攻が付いている。
まぁそもそも、1激でも食らったら勝負ありだし・・・。
ユキさん自体も気になるが問題はサンテミリオンの加護だ。
あのドレスはジヴァニア以上の加護を持ってるはずだ。
ええい、もう。考えても仕方がない。突っ込む!
「・・・え?二刀・・・流?」
だろうね!ゲームではなかったスキルだ!驚いとけ、そのまま!
俺は突っ込みながら激怒からの怒涛を繰り出す!・・・が!
いとも簡単に剣で弾かれていく。手を止めたらいけない!俺は
再度、同じコンボを繰り出す。が、合間に違うモーションを入れる。
勿論、攻撃自体は同じなのだが。
あー。メインだったら引っかかってくれるかもしれないのに。
ちくしょう。実際、昔、引っかかってくれたし。
あ!やべえ、グーパンチが飛んでくるパターン。
俺は怒涛を取りやめ、左手の剣で拳をガードする。出来たぁ・・・。
上手く剣に当たってくれた!がしかし!俺の頭の上に草薙の剣。
あ、だーめだ。やられる・・・。思いっきり後ろに飛べええええ!
間に合ええええ!
剣が俺の額をかすめる。・・・出血。
二人の間に距離が出来たその時に。
「貴方・・・。誰?私・・・と戦ったこと・・ある?・・・。
ある・・はず。・・多分・・・。あの人。間合・・・いと打ち・・込みの
タイミング・・・と回避のやり方・・・が同じ。」
いやいや、私はしがない3回戦プレイヤーですよ。
いつもあなたに負けてますよ。覚えられているはずはないですよ?
「私に・・とっての・・鬼門。私・・のPvPで一番・・・の強い人」
多分別人です・・・。はい。喋ってる暇はない。俺は左手の天狗で
防御を張りながら突進する。勿論、防御はダミー。
青白い防御壁が目くらましになっててくれればいいと・・・。
俺は精密斬撃を当たらないまでも発動している。4連撃の2発、いや
1発でも入ってくれれば御の字だ。
がしかし!そりゃそうだ!ステータスが違いすぎる。俺の速さなんて
蚊トンボくらいだ・・・。
3発を全て剣で受け流される。
あーだめだ。ユキさんの攻撃がスローモーションに見える。これは
やられるパターンだ。多分繰り出されるのはスキル『七星剣』。
生きていてくれ!俺!暁装備なら耐えられたのに!くっそ!
くっそ!ダメもとでカウンターを当ててやる!どれかに当たれ!俺の剣!
俺の願いもむなしくどれにも当たらなかった・・・。
そして多分4発目の突きの時に俺の意識が飛んだ・・・。
★★★★魔王領 リリスの塔 魔王の寝室★★★★
ぶほ!手加減しろよ!くっそ。俺死んだんじゃねえか?
俺はベッドから起き上がる。ん?この部屋の雰囲気は・・・。
あらま!メインの体になっちゃってるじゃねえか。
記憶が飛んだ?まさか死んではいないよな。
あれ?確かこの前は床に転がって意識が戻ったはず。誰かが
俺をベッドに横たわらせたのか?まじか?暁装備だぞ?燃えちゃうぞ?
うーん。なんか悔しいな。確かに今までも勝てたことはないが、
それとはちょっと違う意味で悔しい。
今度は是非にメインの体でやり合いたいな・・・。
ふと机を見るとおいしそうな餃子があった。何故に餃子!
前回も食事が準備されていたが。
俺は餃子を一つつまみ食いをする。・・・した。
この味は・・・。リャナさんが作った餃子と同じ味だった。