第54話 ユキさん現る
「どうやらドワーフの里に一度入り、そこで少しの依頼を
行ったそうです。その依頼の最中にキラー・レッドコブラを
単独で討伐したそうです。本当に化け物ですよ。
敵意がこの国に向かわない事を祈るばかりです。」
キラー・レッドコブラ。依頼の中では最上級に位置する、所謂
Sランクの依頼だ。無論、イベントクラスだ。
レベルは確か130ほどの魔獣である。
まぁユキさんなら出来るだろう。俺もメインの時は単独討伐だったし。
ユキさんは3日ほど滞在し、いつの間にかいなくなったそうだ。
その後の足取りが吸血族の情報力をもってしても掴めないらしい。
うーん。もしかしたらどこかの洞窟に入っているのかもしれない。
ゲームの時でも洞窟の様なダンジョンに入ると検索は出来なかった仕様だ。
一時期、戦闘中のチャットが問題となってダンジョンに居ると
ログイン状態は出るがチャットやフレンド検索にかからないようになった。
ボルドーの家・・・というか屋敷に着く。
俺は開口一番青龍について尋ねる。
「青龍ですか?聞かないですね。お知りになりたいのであれば
数人を放って調査をしておきます。それと、今回の目的を
教えていただければ・・・。」
リャナさんが頷くので俺は長にお願いした。
そしてここに来た目的を話す。
「マジですか!?それだけの為に!?」
長は驚いたが、こっちは真剣である。
ニンニクと胡椒は必需品だ。
因みに移送手段はどうするのか聞かれたので俺は首を横に振る。
「なるほど。もしよければ我々がエルフの里にお持ちしましょうか。
鬼人族と犬人族経由でエルフの里まで持っていけば
その後が楽でしょう。」
長の提案が凄くうれしい。流石に皇国までは無理?と聞いたら
笑いながら無理と言われた。長距離すぎる事と人間側に問題があるらしい。
亜人の中でも吸血族が一番、忌み嫌われているとの事。
それは王国では?と聞くと首を横に振る。王国は吸血族を見ると
無視をするが皇国の、特に軍は威嚇に近い態度をとるらしい。
「まぁ我々は強いですからねぇ、はっはっは。王国はビビってましたが
皇国は敵意むき出しですよ」
ボルドーは笑いながら言う。俺はエルフの里までの移送をお願いした。
これでこの亜人の国内での移送問題は突然に解決してしまった。
俺はボルドーと賃金の話をするが・・、。
無償で行うと言って聞いてくれない。
それほどまでにリャナさんに恩とかあるのだろうか。
とりあえず俺達は賃金の話を止めて食事処へといく事にした。
途中、ボルドーとリャナさんがヒソヒソと話をしている。
長は時たま驚いたような顔をして俺をチラチラと見ている。
うーん。何の話をしているのだろうか。食い意地の張った人間とか
言われているのだろうか・・・。
食事処へ入り俺はステーキを食する。凄く上手い!
ニンニクも胡椒もいい具合に効いている。
ジヴァニアをふと見るとブドウっぽいのを食べている。
ん?という事はワインとかあるんじゃないか?と聞いたら
ボルドーはニヤニヤしながら俺に出した。
ナニコレ凄く美味い!多分、こっちに来てから一番うまい酒だ。
うーん、これもリホさんに言ったら欲しいと言うだろうなぁ。
「そう言えばこの頃、皇国の密偵が頻繁にこの国へ入り込んでいるのです。
何かを探しているようですが。やもすれば魔王領に入り込む勢いです。
まぁ流石に争いは起こらないと思いますが。」
うーん。何を探しているのだろうか。しかし今回、何気に皇国が
きな臭いという事を知ってしまった。特に軍部。
指示をしているのは皇王なのだろうか。とりあえず気を付けておこう。
「しかし、妖精と言うのは可愛らしいモノですな」
長よ、外見でだまされるなよ?ほらみろ、ジヴァニアが威張ってる。
「ところでキョーク様は今後、どのようなご予定で魔王領へと
お向かいになられるのでしょうか」
なんかすごく仰々しく、丁寧に言われているのだが。リャナさんて
相当、吸血族に敬われているのだろう。
俺は一旦、皇国へ戻り今回の食材をおろしてから、この国でレベルを上げ、
その後に一人仲間を加え魔王領へ入ると伝える。
勿論、俺は装備が心もとないのでどこかで力を付けてからとも伝える。
「十分にお強いと思うのですが・・・。」
自分でもステータス上では強いと思っているがやはり魔王領となると
魔獣が一段階強いので万全の準備はしたいと伝える。
ならばと、ここに少し滞在して依頼などをされたらと提案された。
ふむ。それでもいいかな。実際、亜人の国でレベル上げをするつもりだった。
ならば、ここをホームにして集中してあげることにするか。
その事を伝えると宿屋では金がかかるので一軒家を紹介された。
もし、ある程度の賃金をいただけるのであれば家政婦を付けると言われた。
願ったりだ。しかし、食材の移送には賃金はいらないと言うが
そう言う所では貰うものなんだな。
ボルドー曰く、移送と言う名目があるといろいろと便利らしい。
メリットは十分にあるそうだ。
そして食事を済ませて宿屋へと帰る。
俺はベッドに横たわりながら色々と考えた。
ユキさんは何故、ドワーフの里へと入ったのだろうか。
3日も滞在となると、なにか目的があったはずだ。何なんだろう。
それに今は何処にいるのだろうか。ドワーフの里周辺のダンジョンと
なるとフクロウの地下迷宮くらいだ。しかし、ユキさんのレベルで
あの迷宮に行く理由がない。単純に吸血族がユキさんをロストしたと
言う事か。フクロウの地下迷宮か・・・。今の俺にも行く理由がない。
それに青龍。何か情報が出てくればいいのだが。
そして朝、俺達はエルフの里への帰路へ着いた。
道中に考える。
いい感じでエルフの里から皇国へ商品の移送が出来ないものだろうか。
流石の吸血族も皇国へは嫌がっていたし。
初期の村までも遠すぎます・・・と笑いながら言われた。
以前行った事があるらしい。なるほど、ニンニクを渡したのは
ボルドーだったか。
「思い切って冒険者を雇ったらどうだ?皇国の冒険者なら
レベルも高いし。まぁ少し金はかかるが問題ないだろう?」
ダンが珍しく冒険者を押している。さては何かあると思ったら
知り合いが定期的な仕事を探して訪ねてきたそうだ。
女性だが結構腕が立つらしくレベルは48だそうだ。
エルフの里から皇国となるとそのレベルが後数人は欲しい。
話はそれでいいけどもう少し人数をと言ったらダンは「まかせろ」と
言いながら笑う。
ぶっちゃげ、彼女?と聞いたら・・・。赤くなりやがった。
いいじゃないか!
そうこうしながら2日で俺達はエルフの里へと入った。
ん?なにか様子が違う。
街がざわついているというか、ナニカ緊張しているというか。
長の所へと向かうと茶華飯店の前でうろうろとしていた。
そして俺達に気づく。
「ああ!いい所に!大変なことが起きておりまして」
何が起きている?人だかりが茶華飯店に多い。みなが中を見ている。
俺も中を覗き込むと、そこに見えたのは・・・。
白いローブを纏った者が座っていた。・・・もしかして。
俺は深呼吸をして中に入る。
あぁ、このローブは間違いない。俺はゆっくりと回り込むように
正面からそのものを見る。
白い仮面、やはりユキさんだった。
ユキさんのテーブルには『おにぎり定食』と『キノコと野菜の炒め物』があった。
ユキさんが俺に気づく。
そして一言俺に向かって言う。
「ここの・・・・料理。おいしい。・・・おにぎり・・おいしい。
・・・一緒に・・・食べよう?」
誘われた、俺。