第42話 リャナンシー
その紐の様なモノ。
今度は俺の体を這っている。まぁ這うと言うより、俺の体よりは
浮いているのだが。うーむ。・・・お?俺の顔の前に来た。
俺達は見つめ合った。そして俺は胴体の所を握って捕まえた。
こ、これは!・・・こいつは!
『黄龍』じゃねえか!小っちゃいけども!まぁ生まれたてだから
こんなもんだろう。最初見た時は空飛ぶミミズかと思った自分を恥じた。
いかん、俺の手の中でじたばたしだしたので俺は放してやった。
するとやっぱり俺の体を這いだした。
ゲームで、ゲームが終わる時に予告の有った眷属『黄龍』。
未実装で隕石が落ちたからなぁ。まさかこんな形で会えるとわ。
俺はステータス画面を開き眷属の欄を見た。
龍 レベル1 SP100
能力
戦闘スキル 雷
ふむ。スキルの雷はわかる。今度のヴァージョンアップで
実装される予定だった攻撃魔法だ。
能力はその時はシークレットだった。だからと言って能力なしは
ないだろう!ま、まぁ今後に期待だ。発現するだろう・・・いや、してくれ。
あれ?名前が『黄龍』じゃない・・・。黄龍は激レアで俺が引いたのは
ノーマル、そう、普通のやつだったのか・・・。黄色いけども。
うーむ、よくわからんな。まぁでも俺の眷属に間違いはない。
気が付くと雪丸の体をグルグルと這っている。雪丸は嫌がることなく
子供を遊ばせているように落ち着いている。うん、仲良くやれそうだ。
俺は名前を付ける。『ロン』と。
まぁあれだ、リホさんがライオンにレオと名前を付けたのと同じだな。
ジヴァニアからはセンス無いと言われたがロンは気にいってくれたはずだ。
名前を呼ぶと「キュウ、キュキュッキュ」と鳴き声を出して俺の所に来る。
俺は顎の下あたりを指でくすぐってやると更に喜んでくれているようだ。
俺達は街に繰り出す。というか、剛腕商会へと行く。
長に肉が欲しいと伝える。それも定期的にだ。
俺はバッファロンとイノシシの様なモノが居ると聞いたので
見せて欲しいと伝えたら。
「バッファロンではないですよ、ここではワギューと言う名前、そして
クロブーと言う名前で飼育しています」
そう言うと見てみますか?と言われたので俺達は長について飼育場へ行く。
おおおお!マジで牛だ!そしてまさに黒豚!
俺は継続的な購入を再度申し入れた。購入は問題ないと言われたが
問題があると。運搬の問題。あー。確かに。この亜人の国の中での移送でも
大変なのに皇国までとなると。・・・と言われた。
それに基本的に人間には卸していないそうだ。まぁそうだろうな。
俺達だから卸すと念を押された。とてもありがたい。
うーん。俺は問題ないのだが。ポーチもあるし。
リホさんも問題ないが店が忙しいから運搬までは手が回らないだろう。
ミツル・・・はポーチは持っていないがストレージはある・・・か。
しかし、運搬と言う仕事はお願いしづらい。
運搬に関しては今後の課題として取りあえず牛の肉を50キロ、
黒豚の肉を50キロ仕入れた。代金は金貨3枚を払った。
長は凄く驚いていた。「こんなに!」と。
うーん。キロ当たり2000円は高かっただろうか・・・・。
長は貰いすぎなのでフランゴの卵を付けると言ってきた。
ありがたい!
俺達は買い付けを終わり食事をする事にした。長がお勧めの店に行く。
うぉおお。ステーキ。分厚い。しかし!やわらかい!
脂もくどくない。これは上等な肉だ!向こうの世界でも食った事のない程の
いいものだ!黒豚のステーキも出されたので食う!うめええええ!
しかし、味付けは塩だ。逆にそれが旨かった!
俺達は宿屋に帰る。食事の余韻を感じながらお茶を飲む。
ん?このお茶は?ふと見るとリャナさんがほほ笑んでいる。仙山で採った
植物の葉っぱを使ったヤツだった。・・・なんかウーロン茶っぽかった。
俺は切り出すことを決めた。
「リャナさん、話があるんだ。違っていたらすまないが、当たっていると思う。
リャナさんは魔族だよね?」
俺のその言葉にリャナさんはハッとした表情の後、目を伏せた。
ジヴァニアも真面目な顔で座っている。・・・ロンに。
沈黙の後にリャナさんは頷いた。そして口を開こうとした時、俺は
リャナさんお顔の前に手を出す。みなまで言わんでいい!と!
俺はリャナさんが言う前に言う。
リャナさんは魔族に追われているんだろ?と!
どういった理由なのかはわからない。そしてわけあって人の姿で
逃げている時にバルバトスに見つかって戦闘となった。そして俺達と
出会った。と!
リャナさんはお口を大きく開けて驚いている!そりゃそうだ!
俺の推理は完璧だしな!そりゃあ驚くだろうな!再度言う!完ぺきな推理だし!
俺はリャナさんに感謝している。種族は違うがこうやって一緒に居て
凄く楽しいし、頼もしい。
俺は出来れば今後も一緒に居て欲しいとも言った。
無論、リホもミツルも知らないだろう。しかし、アイツらなら必ず
リャナさんが魔族であっても今までと変わらずにいてくれるとも言った。
俺のレベルは今はまだ72だ。しかし、順調に上がっている。
それにジヴァニアの効果でレベル150ほどの力量だ。
リャナさんの足手まといにはギリギリならないだろう。そう、何かあっても。
今はまだ、なぜ魔族から逃げているのか言わなくてもいい。
でも、時期が来たら理由を話してほしい。力になりたい。
因みにリャナさんの本当の姿を、もし差し支えなかったら見せて欲しい。
俺は魔族の能力やスキルなどをほぼ全て知っている。
もし俺が知っている魔族ならば、今よりも連携など動きやすくなると。
リャナさんは立ち上がり少し後ろに下がり、ローブの裾を摘まんで
貴族の礼儀のように首を垂れる。そして紫色の光と共に現れる本当の姿。
リャナンシーだったのか!
ならば納得だ。敵だった時、一番メンドクサイ敵だった。
全ての系統の魔法を使える。高威力の魔法は使えないが、補助、回復、
そして攻撃と卒なくこなしてくる。単体では問題ないが仲間の魔族がいると
とんでもなく面倒な敵だ。
「これが私の本当の姿。私の判断でお見せしました。レベルは190です。
因みにマカーブル、バルバトスもレベル190です。」
そういうと元の人間の姿に戻した。
リャナさんはうつむいている。もしかしたらこのまま明日の朝には
いなくなってるかもしれない。ならば!
俺はステータスを開き、そして。リャナさんをパーティに誘った。
リャナさんは躊躇したが・・・。了承した。
ジヴァニアも聞いてほしい。勿論リャナさんも。
俺はそう言うと俺の考えと言うか想いというか・・・何だろうか。
そんな事を話した。
俺は人間だとか、亜人だとか、魔族だとかそんなモノは気にしない。
気にする事は「いいこと」なのか「わるいこと」なのかだけだ。
俺はこっちに来て人間の、人族の「いいこと」「わるいこと」を見た。
俺と姿かたちが違うから、それだけで排他的に俺は成らない。
だから俺は人族なのに人族を殺した。
エルフ族とも仲良くした。鬼人族が魔獣に襲われたので俺は助けた。
だからリャナさんが魔族だからと言って嫌いにはならない。
逆にすげえとも思った。
俺はメインの体を手にする為に魔王領のリリスの塔に行く。
その為にはリャナさんの力は絶対に必要だ。途中、リャナさんを狙う
魔族が居るかもしれない。その時には一緒に俺は戦う。
だからこれからも一緒に居てくれないか。
ジヴァニアも仕方ないなと言う感じでキョークが言うならばと納得した。
リャナさんは涙を流して、とても涙を流して聞いていた。
そして
「この身はすでにキョーク様の、キョーク様と共にあります。
今後ともリャナの名前でお傍で、力を振う事をお約束いたします」
大げさだな!リャナさんは!
俺は王国に追われている、リャナさんは魔族に追われている。
追われている者同士これからも仲よくしよう!
と言ったら、何故か苦笑いをした・・・リャナさんだった。