第31話 皇国の化け物
俺は王都に向かう最中に女将から渡されたネックレスを見る。
「バーのネックレス」だ。
俺ならば絶対に依頼をこなしてくれると言い先に渡された。
俺はネックレスを握りしめる。
近衛兵長だけじゃねえ、国王もぶっ潰してやる。
道中に2日夜営をする。
「なんか今日のキョーク、怖い。笑わないし」
ジヴァニアがリホさんが作ったシチューを食べながら言ってきた。
ああ、そうだな。俺笑っていないや、今日。
リホさんも今日は笑っていない。ミネルヴァも心配している。
「私のせいだ、私が近衛兵を殺しちゃったから」
俺はそれは違うと言った。冷静に考えてどうみても向こうが悪い。
まぁ殺しちゃったのは過剰防衛かもしれないが。しかし、遅かれ早かれ
あのようになったのは間違いはないと俺は言う。
そして付け加えた。
「リホさんが殺らなければ絶対に俺が殺っていた」と。
王都についたのは朝方だった。ん?門番が居ない。ちょうどいいや。
街中に入ると人々があわただしい。ん?どうしたんだ?
人々が城の方向に小走りで向かっている。俺達も向かう事にした。
うーん。人多くて見えないな。何があるんだ?
俺達は半ば強引に前の方へ向かった。
ん?机?の上に何かが並んで居る。・・・!?
机の上にあったのは、あぁ、覚えている。センティア4世だ、その首。
女性の首もある。多分、王妃だろう。え!?子供の首も!?3つ!?
その横には俺を殴った近衛兵。その他にもあの部屋にいた者たち…の首。
・・・これは根絶やしだ。
俺はちょうど横にいた人にこの中に近衛兵長の首があるか聞いたら
無いとの答え。今、指名手配をされているようだ。ふむ。
近衛兵長が殺ったというよりも、ちょうど不在で
うまく逃げたって所なんじゃないのか?
あぁ、あいつだ。あの時、王の横にいた変な髭を生やした鎧を着た男。
そいつが居ない。そいつが近衛兵長か。
俺達はその場所を離れた。なんといっても指名手配中だ。どうみても
重要参考人だ、俺達は。人気の少ない場所に入る。
リャナさんはヤミガラスを呼び近衛兵長を探すように指示をした。
リホさんはプリティキャットを呼び出し、城の中を探索させる。
うーん。多分、近衛兵長は既に王都にはいないだろう。
これをやった奴は多分、王族を殺す事が目的ならば既に目的達成だろう。
ということは、近衛兵長は逃げ勝ちか・・・。まぁそうはさせない。
「いたわよ」
リャナさんのヤミガラスが見つけたらしい。仕事が速い。まだ30分ほどしか
たってないのに・・・。
するとプリティキャットが帰ってきた。
どうやら城の中は惨状だったらしい。辺り一面、血だらけだったそうだ。
そして死体だらけ。それも多分、この国の者たちだけ。
「単純にその日、城に居なかっただけじゃないかな、近衛兵長」
リホさんの考え通りだろう。相当の人数で襲撃したのか?
少し頭をよぎったことがある。「皇国の化け物」の存在。
王国の近衛兵が敵を一人も倒さないはずがない。攻め入った者たちが
相当の手練れだったのか・・・。
それとも。その「化け物」がひとりでやったのか?
俺達は近衛兵長を追う。この国に、国王にふくむ所はあるが今は
依頼優先だ。。。しかしこの後、この国はどうなるんだ?まぁいいか。
リャナさんに言われた方角へ俺達は向かう。この先は・・・森だ。
俺達がキャンプをした場所か?まぁ逃げ隠れするのはもってこいだ。
一時すると雪丸が喉を鳴らす。目の前に魔獣の群れが何かを
襲っている。人?防具を着ていない?商人っぽいな。
俺達はその商人らしきものを助けるために魔獣と戦闘となる。
魔獣を討伐し、商人が居た場所を見ると・・・居なかった。おいおい。
「向こうへ逃げて行ったわよ?多分、キャンプ地ね」
リホさんが指さす。一人は危険だろうに!俺達はその商人っぽい人を追う。
目の前が開けキャンプ地へと着く。先ほどの商人の馬がいる。
本人は小屋の中か?俺達は扉を開けると商人は震えて隅に座り込んでいた。
「もも、目的はなんだ!私は何もしていないぞ!私はただ王に言われた
ことを素直に実行していただけだ!私は悪くない!」
あぁ、こいつが近衛兵長だったのか。鎧を脱ぎ捨て逃げ出したのか。
俺は何があったかを聞いた。が、近衛兵長は錯乱しており、
旨く話がかみ合わない。
「確かに王の横にいた男よ?この髭面覚えているわ」
ふむ、リホさんの言う通り、見覚えがある。確定だ。
再度、何があったかを聞いた。めんどくさかったのでケリを入れようとしたら
先にリャナさんが入れた・・・。それでも怯えて話にならない。
もういいや。殺ろう。
色々聞いた所で結果は一緒だ。まぁ何があったか聞けないのは残念だけど。
俺は剣を取り出し構える。「自分のしたことを呪え。」
俺が剣を振り下ろそうとした時、小屋の扉が開いた。
「それは・・・私の獲物」
その声に振り向くと・・・。そこに立っていたのは。
あぁ、見覚えがある。忘れようとも忘れられない。
白い仮面をつけ、白のローブを纏っている。だからと言って魔法系ではない。
腰に下げている剣。もう鞘だけで解る。この世界最高峰の片手剣
「神器 草薙」
相手の防御力を完全無視できる剣。入手方法はPvPイベントの優勝。
一度手にしてしまえば連覇は確定されたものだ。
勿論、こいつは隕石が落ちるまで連覇している。
俺はそれに対抗するために『暁装備一式』を揃えたんだ。
俺のメインが装備している『暁』は防御力もさることながら
セット効果でHPが激増する。鎧に触れるだけで炎魔法『フレイム』が
発動する。炎系で上位クラスの魔法だ。
しかし・・・それでも負けたのだ。だから俺は『改』にした。
俺の改の数はコイツに負けた数だ・・・。
コイツの名前は『ユキ』レベルは・・・最後見た時は195だった。
俺のメインよりも高い。
全ての装備がレジェンダリー。それも入手困難。俺よりも・・・廃人仕様。
あぁ、明らかにコイツが『皇国の化け物』だ。
が、しかし。譲れない。こっちは女将の依頼なのだ。
リホは勿論の事リャナさんもすでに武器を構えている。
リホさんはわかるがリャナさんも緊張しているのが解る。そりゃそうだ。
「残念だが俺も依頼を受けている。俺の大切な人の依頼だ。
依頼人の旦那の仇だ。俺はコレに誓って俺が殺らなければならない。」
俺はそう言ってネックレスを顔の前に垂らす。そうする必要はなかったが
そうしてしまった。
ユキはゆっくりと、草薙の剣を抜いた。とてもゆっくり。
「クゥーン」と言う鳴き声がした。今、気が付いたがユキの足元には
九尾の狐が居た。あれ?あの時に助けた狐と一緒か?
その鳴き声にユキが反応する。・・・見つめ合っている。
「君たちが・・・私の眷属を助けてくれた?礼を・・・言う。
・・・ありがとう。君たちは・・・プレイヤー?」
俺は頷く。
「今回は・・・私が・・・引く。キューちゃん助けてくれて・・・
ありがとう」
え?キューちゃん?尻尾が9本だから?そういうと剣を鞘に納めた。
そして扉から出て行った。その背中には妖精が居た。
その妖精のドレスはジヴァニアと同じスノーホワイトだったが
金色の模様が入っている。ジヴァニアのドレスもレアだが、こいつは
さらにレアだ。直感で思った。
俺は聞きたいことがあった!ユキに!あわてて外に出たが既に居なかった。
・・・はええな。
俺は中に入ると。リホさんは勿論、なんとリャナさんも「ふう」という
声と共に、安堵の表情を浮かべていた。
「まってくれ!助けてくれ!金なら払う!金貨5枚!いや金貨10枚だ!」
近衛兵長、金じゃないんだよ。まずは「俺が悪かった」だろ?
俺は剣を・・・近衛兵長の胸元に突き刺した。そして抜く。
血が勢いよく噴き出す。抜くと同時に俺は、・・・首をはねた。
リャナさんは揚々として小屋の掃除をしている。
近衛兵長の血で汚れた壁や床を綺麗にしている。
俺とリホさんは外にある大きめの石に腰かけている。無言で。
「なんだろう。人を殺しても凄く冷静な私が居るの。私は
おかしくなっちゃったのかな。」
リホさんがポツリと言った。いや、俺もだ。躊躇なく殺してしまった。