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後宮のインチキ占い師  作者: 寄付
恋を招く石
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恋を招く石 8



医務局の宦官たちは、怠惰を極めているにもかかわらず畑を放置することも出来なかった。

なぜなら、


「畑って、ここと違って外から見えてしまいますからね」

「それがどうした」

「隠すことも出来ないでしょう。他と違って」


一度叩かれればいくつもの埃が出る彼らだ。それが、畑の不管理という一見些細なことであっても、疎かにすることは許されなかった。

今回はその周到さに足を掬われたと言えるのだが。



「畑を管理する分の人件費をケチるからこういう面倒なことになるんですよ。どうせ、金ならいっぱい持ってんでしょ?」

「な、何だって!」


「まあ、落ち着きなさい」

焦りで立ち上がった宦官を、医務局長が宥める。


「こいつが外でどんなに言いふらしたとしても、証拠が無い」

「ええ」


「医療を請け負う医務局の、しかもあんな狭い畑に、手のひら大の石が落ちていたなんて。そんなこと誰も信じてもらえないでしょうね」

(まあ、女官達は信じるだろうけど…)


「ああ。石なんて、どこにも落ちているだろうからな」


「そういうことは、食堂の畑を見てから言ってください」

「何だと?」

つい口を滑らせた雪英シュウインに、医務局長の顔が曇る。


「それに、『休ませていた』はずの畑の土が、食堂の畑の比にもならないほど固くなってしまっていた、とか」


「……結局、君は何が言いたいんだね?」

「そんな怖い顔をしないでください。私は消されたくないので…」



「悔しいですが『泣き寝入り』ということです」



「はははは!」

途端、医務局長ら宦官たちの表情が明るくなり、勢いづく。

勝ちを確信した顔だった。


「そうだろう。泣き寝入りするしか君たちにはない」

「あの馬鹿な女官に格好つけたかったのか?残念だったな」

「まあ、ここに一人で来たことは褒めてやろう」

「でも勢いは最初だけだったな!」

下っ端の宦官らが口々に話す。


「静かにしろ」

医務局長が言った。


「お前、要求は?」

「『お前』だなんて…、」


「最初に言ったでしょう。私と彼女に今日の分のお土産が貰えれば良いんです。彼女が勝手に働いた分は諦めますから」


「本当か?」

「ええ。さっきその人も言ってましたが、私は彼女に格好つけたいだけなんですよ。お菓子でもなんでも良いんです」


「貰えないなら、もう帰りますよ?」

「…分かった。待っていろ」


そう言いながら、医務局長は部下に目くばせした。


(ま、まずい!!)


雪英は戸口に向かって走り出す。

今の目配せは、「閉じ込めておけ」の合図。

多勢に無勢。

曲がりなりにも男である宦官たちに囲まれて、勝てる訳がない。



「お、おい!!待て!!」



———————————————




雪英は戸口を出て、畑まで真っ直ぐに走る。

畑では、雲花ワンファと若い宦官が作業していた。


「二人とも、逃げろ!!」


「「え?」」




「お前!!その宦官を捕まえろ!!」



雪英の呼びかけに対し彼らは放心していたが、雪英の後ろから聞こえる怒号が二人を決心させた。


「ど、どこに?」

「っ、こっち」

二人に追いついた雪英が、二人を引っ張って走らせる。




後ろを見る暇もないままに、三人は走り続けた。

途中から追手の気配は感じなかったが、一刻も安全な場所に行かなければ危うかった。

医務局の奴らが、どこにネットワークを持っているか分からない。

雪英が唯一、信用できる場所。







息も絶え絶え、三人が辿り着いたのは紅梅宮だった。



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