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後宮のインチキ占い師  作者: 寄付
恋を招く石
14/19

恋を招く石 6



「あれ、君は?」


医務局の裏に、洗い物をしている一人の若い宦官がいた。


「あ、あなたは…」

「声を抑えて」

雪英シュウインは口元で人差し指を立てる。


「君は?」

「僕は…、ええと、医務局の見習いです……」


「そう」

「…あなたは、今日畑仕事に来てくれた方ですよね?」

「うん」

「す、すみませんでした…」


その反応だけで、この宦官が受けてきた扱いが分かった。

そして、雪英は確信した。


「謝らないで」


「それから、畑に居る女官の元で待っていて」

「え?」

「君にも、幸運がやってくるから」


「いいね?」

訳も分からぬまま走り出した「見習い」の背中を見送って、雪英は再び歩き出した。



———————————————



扉の隙間から雪英が医務局を覗くと、想像通り。

宦官たちは仕事もせずに馬弔マーチャオをして遊んでいた。

雪英が扉を開けて入っていくと、皆驚いたようにこちらを向き、その中の一人が立ち上がる。


雨辰ユーシン君⁉︎ど、どうかしたのかね⁉︎」

「水を貰いに参りましたが、その前に話したいことがあります。良いですか?」

立ち上がったのは、先程会った宦官だった。卓に座ったままの宦官たちもろとも雪英が睨むと、皆黙って頷いた。


(……その程度の度胸で、)




「す、座りますか?」

水を汲みに行っていたさっきの宦官が雪英を促したが、彼女はそれを断った。


「話はひとつ」

「…何でしょうか?」


「今日の我々の働きと、そして雲花ワンファの昨日までの働きに、相応の報酬を頂きたい」


雪英は出来るだけ笑顔を心がけていたが、その目の奥は笑っていなかった。

一人の若い宦官が放つ威圧感に押された他の宦官たちに代わって、今まで黙っていた宦官が立ち上がった。



「初めまして、私は医務局長です」

「初めまして」


「雨辰君、でしたっけ…?」

「ええ」

「貴方は聞いていないでしょうが、今日は『お手伝い』として雲花さんから申し出がありました。畑を掘り返してしまったことへのお詫びだそうです。それに対して報酬を与えたら、彼女の気持ちを蔑ろにしてしまうでしょう」


医務局長と名乗る宦官は多少弁が立つようで、つらつらと詭弁を弄していく。その、大層人を馬鹿にしたような話し方に腹が立ったが、雪英は我慢した。


(どうしようもない…)


雪英は、今日雲花の手伝いに来て良かったと心底思った。


彼らは雲花を騙している。

可能性でしかなかったものが確信へと変わり、そして敵意へと変化していく。


容赦が無い時の雪英の恐ろしさを、宦官たちはまだ知らない。



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