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後宮のインチキ占い師  作者: 寄付
恋を招く石
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恋を招く石 3



後宮で噂の占い師・イー先生は、机に立てた蝋燭の炎に手をかざし、意味ありげに十指を動かす。

暗い倉庫内、唯一の光源が手の影に遮られ、指の間から漏れた光は頼りなく揺れていた。彼が顔に被っているうすぎぬの上で、光と影が神妙に推移する。

今夜の相談者・雲花ワンファは、彼の指の動きから目が離せなかった。



真っ暗な倉庫の中で、易先生——雪英シュウインは考えていた。紗の奥で目を瞑り、炎の上で指を無造作に動かす。

指を動かすのは、彼女の癖だった。


目的は、雲花が損をしないこと

「占い師」が、雲花に出せる答えは何か

真実が欲しいのではない

真実以外にも、答えは沢山用意できる


そうして、雪英は更なる暗闇へと身を委ねた。




暗闇の中で何を考えていたか。

それは、半分しかない『蝶の石』である。


雲花が持っている石は片羽の形をしている。

最初にこの石を見た時、雪英は実家の店でカップル向けに販売している装飾品を思い出していた。ある意匠を半分に割って、二人で片方ずつ持つというやつだ。

『蝶の石』というものは「もう片方を見つけた相手との間に恋が芽生える」系の流言かと思ったのだが、それはない。

それでは雲花がもう片方も探していることへの説明がつかないからだ。「もう片方を見つけた相手と——」云々の噂は流れていないのだろう。

……………

…………



「もう片方の羽」は、本当にあるのだろうか。


あったとしたら?

噂になっている石は、本当にこの石だろうか。そして、「もう片方を見つけた相手と——」という面白い噂が流れていないのはどうしてだろうか。

噂は、面白ければ面白いほど広がりやすい。


なかったとしたら?

雲花が見つけたこの石は、決してよく見る形の石ではない。彼女が「蝶の片羽」だと確信したのも仕方ないだろう。


(………)


雲花が見つけたこの石は、『蝶の石』ではないのかもしれない。


すると、よく似た石がこのタイミングで見つかったのは偶然だろうか。

偶然ではないのなら、そこには意図があるはずだ。あった方が困るからそちらを考えるべき、とも言える。


雪英は、ここまで来ておいて「それは『蝶の石』ではありませんね」というつまらない占いをしたくはなかった。



———————————————



何らかの意図にとって、「片方の羽」は何をもたらすか。


あの形の石が落ちていたら……

当然もう片方の羽を想像し、探そうとするだろう。中央から割れたような跡があったら尚更。

半分しかないのでは、「恋を招く」効果も発揮されないだろう。


何らかの意図


誘導

計略


誰かがあの石を拾うのを待っていたのだろうか。

「もう片方を見つけた相手と——」という噂が流れていない以上、その目的は出会いではなく、単純な愉快犯でもないだろう。また権力や金目当てとも思いにくい。

恋、享楽、権力、金でも無ければ、この後宮に残るのは……。


(…労働か)



仕事も商売と同じ。損得の交渉で出来ている。

…………

…………………



——「あの畑で、その時何も育てられてなかったのも運命だったんですよ!」



雲花の発言が脳内で再度繰り返された時、雪英の中で一つの答えが作り上げられた。

彼女はゆっくりと目を開く。


机に一本立てた蝋燭が、少しだけ小さくなっていた。




「分かりました」


「本当ですか⁉︎」

雪英が告げると、雲花の顔が輝く。


「ですがその前に質問をひとつ」

「はい」


「東門の畑は、今は何かを育てているのですか?」

「いいえ。ですが、明日のお昼に茼蒿トウコウの種を播きます。なので今日相談に来れてラッキーでした」

「蒔くって、雲花さんが?」

「いえ、私はお手伝いするだけです。畑を掘り返してしまったお詫びに」

「そうでしたか」


「秋の始まりですね…」



雪英の期待していた通りの答えだった。

ここからどうやって「解決」に持っていこうか。雪英の商売魂が燃えていた。




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