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後宮のインチキ占い師  作者: 寄付
恋を招く石
10/19

恋を招く石 2



今夜、後宮のインチキ占い師・イー先生を訪ねてきた雲花ワンファという女官は、非常に行動的な人物だった。


恋を招くという『蝶の石』が噂になり始めたのは今月の頭。

彼女は噂を聞きつけてから毎日のように後宮内を探し回り、とうとう東門の畑で蝶の片羽を見つけることとなった。

『蝶の石』を見つけたのは医務局と食堂の畑が接するあたり。何も植えられていない畑の上に『蝶の石』は落ちていた。

見つけた『蝶の石』は片羽の形。


「もう片方は、周りには落ちてなかったんですね?」

「はい!私、念入りに探しましたから」


しかし、もう片方の羽もここにあるに違いない。

そう思った雲花は、畑を管理する医務局と食堂のそれぞれに土の中を捜索する許可を貰いに行った。

突撃した彼女に対し、医務局の宦官は「その畑は夏の間、休ませていたものだ」と言って捜索を許可したが、一方で食堂の女官は彼女に許可を与えなかった。


(そりゃそうだ……)


意味も分からない石のために、普段土を触ってもない者に畑を荒らされたらたまったもんじゃない。医務局の人間が寛容すぎるだけだ。

………

寛容というより、怠惰というべきか。

女官の間でも、医務局の宦官たちは悪い意味で有名だった。処罰されていないのが不思議だとまで言われている。


しかし雲花にとっては幸いなことに、東門近くの畑はその面積のほとんどが医務局のものだ。彼女は食堂側は諦め、医務局の畑を片っ端からひっくり返していった。


「でも、医務局の畑の中には見つからなかった」

「はい」

沈んだ声で雲花が答える。

勝手な都合で畑をひっくり返しておいて、目的の石が見つからなかったのでは罪悪感も募るだろう。



「ここまで来たら何としても見つけたいとこだが、食堂からは許可が貰えなかった上、医務局の方も完全に探したとは言い切れない、と言ったところでしょうか」

「そ、そうです!」


どうして分かるんですか⁉︎、とまで言ってしまいそうなほど目を見開き、雲花が言う。雪英シュウイン扮する易先生は、彼女の騙されやすさが再度心配になった。



「土の中を探すのは難しいですからね…」

「そうなんですよ!」


「でも、私本当に隅々まで掘って探したんです!それも結構深いところまで」

「そのようですね」

「先生!分かりますか⁉︎」

「…ええ」


「一生懸命に石を探している貴方の姿が見えます。雲花さん、よく頑張りましたね」

「先生〜!!」


当然、雪英は彼女の姿が見えたわけではない。

「土中を探す」話題になってからの雲花は、水を得た魚のように目を輝かせた。それほど一生懸命に探したのだろう。

彼女は、その行動力の高さが、変わりやすい表情にも表れている。


(本当に心配だ…)



———————————————



「それで、医務局側を探し直すか、食堂に再び許可を貰いに行くか迷った結果、私のところに相談に来たのですね」

「はい!」


——「先生には、『蝶の石』がどちらの畑にあるのか当ててほしいんです!」

雲花が易先生に最初に尋ねたことは、こういうことだったのだ。



「ちなみに、どうしてもう片方もその畑にあると思ったんですか?」

「ここを見てください、先生」


雲花はそう言って、もう片方の羽と繋がるはずの真っ直ぐな一辺を指さす。

「ここだけ、割れてしまったように見えませんか?」

「確かに、そう見えます」


「割れてしまった石が、離れた場所に落ちてるのは変じゃないですか」

「ええ」

「なので、この石を拾って『蝶の石』の半分だって分かった時に『この下を掘るべきだ』って思いました」


「あの畑で、その時何も育てられてなかったのも運命だったんですよ!」

「…そうでしたか」




(ん?)


「そういえば、食堂の畑の方にも何も植えられていなかったんですか?」


「はい。理由は教えて貰えませんでしたが…」

「ということは、東門の畑全体が使われていないんですね。それは少し妙だな…」

「ですよね!」


「やっぱり、『運命』の力なのでしょうか?」


雪英は雲花の発言をスルーした。



———————————————



(どうしようか…)


雪英は悩んでいた。



この相談に対する答えはもう決まっている。


——「『蝶の石』は畑には無いのでしょうか…?」


そう雲花が言っていたように、「この畑には無い」と答えるつもりだった。彼女はその答えでもきっと納得するし、そう答えれば別の場所を探しに行くだろう。

もし『蝶の石』が本当に埋まっていたとしても、彼女はこれ以上東門の畑を探さない。

結果として、この占いが外れることはない。




(……はぁ)


しかし、「占い」に訪れる客たちの中でもとりわけ純粋な雲花を前にして、雪英は心が揺れていた。つまりは、もう少し「本格的に」占いをするかどうかで迷っていたのである。

彼女は金の亡者ではあるが、大金が絡む場面以外では流されやすい節があった。


——「あの畑で、その時何も育てられてなかったのも運命だったんですよ!」


運命という言葉を雪英は信じていない。


運命というものを真っ直ぐに信じている雲花と目が合った。


(……)



「…先に謝礼の方を見せてもらっても良いですか?」

どんなに流されやすくとも、現金な性格は変わることがない。雪英は謝礼で自らを鼓舞することにした。


「こちらです」

「これは……!茘枝ライチですか」

「そうです。私の出身地では夏の終わりまで採れるんですよ。これも家から届いたばかりの茘枝です」

小さな竹のカゴの中にはゴツゴツした実がいくつも入っている。それを見た雪英は、被ったうすぎぬの下で口元を綻ばせた。


「こちらのいちではもう見ないかなと思って持ってきましたが…どうでしょうか?」

「……最高です」

「え?」


「承りました。貴方のために、頑張って占いましょう」

「ありがとうございます!」


どんなに流されやすくとも、現金な性格は変わることがない。

雪英の目は今、カゴの中の実に釘付けになっていた。



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