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後宮のインチキ占い師  作者: 寄付
柳雪英は占いで稼ぎたい
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柳雪英は占いで稼ぎたい



満月が嫋やかに見守る夜の後宮、今は使われていない小さな倉庫。

蝋燭一本の妖しい空間に、今夜もまた女官がひとり吸い込まれていった。


イー先生は、こちらで合っておりますか…?」倉庫の戸口に立ち、女官は恐る恐る尋ねる。

「ええ、合っておりますよ」易先生と呼ばれた人物はうすぎぬで顔を隠し、手の動きだけで女官を椅子へと案内した。

狭い倉庫内には布の掛かった机と椅子、そして蝋燭の光が不安定に揺らめくだけだ。

女官は警戒しながら奥へと進み、椅子に座る。


「初めて会った方に失礼ですが、先生のことは信用しても宜しいのでしょうか……」

「はは、多少は信用に足ると思われたから訪ねてきたのでは?」

「う、噂では聞いておりますが、それ以上のことは…」

「それほど急を要するご用事なのですね」

「……」

肯定を示す女官の沈黙を一笑して、先生は続ける。

「謝礼は後で貰うことにしています。今私が約束出来るのは、今から貴方が話すことを他者に言いふらさないことだけです」

「……分かりました」

「夜は短いですからね、貴方のように話が早いと助かります」


「それで、貴方のお悩みは?」

「私は、李妃付きの女官です。————」


(后妃付きとは、有名になったもんだな)

先生——柳雪英リュウシュウインは、今回の謝礼に期待した。




夜の後宮、今は使われていない小さな倉庫。

後宮内で密かに評判を呼ぶ、とある占い師がいた。



———————————————



柳雪英リュウシュウイン・16歳は、今から一年前ほど前に女官として後宮に召された。

彼女は大きな商家の出身で、双子の弟・雨辰ユーシンの隣で当主となるための英才教育を受けた結果、14歳になるまでにはその辺の官僚とは遜色ないほどの能力を身に付けていた。


彼女が若くして選秀女——女官選出のための試験を受けたのは、「一定年齢以下の子女は試験に合格しても、金を与えられ家に返されるらしい」という噂を鵜呑みにした、つまりは金を貰うためであった。

(簡単な読み書きの試験を受けただけで金が貰えるなんて、良い話だと思ったんだけどな…)

商家の娘らしく、雪英は金に目が無いのであった。


しかしタイミングが悪いことに、当時後宮内で流行した病による人員不足のおかげで、雪英は家に返されることなくそのまま後宮に入ることになった。

雪英は今、後宮内の出納を管理する部で働いている。計算も早い彼女にはぴったりの仕事であるが、収入には若干の不満があった。

繰り返すが、彼女は金の亡者である。


そんな彼女は、後宮に入ってしばらくしたのち、人気のない倉庫にてこっそりと占いビジネスを始めたのだった。最初は周りの女官たちの相談に乗り、その礼に菓子や朝食の小皿を貰う程度だったのだが、どうせなら看板を立ててやってみようと思い立ち、「イー先生」と名乗り始めて今に至る。

一年ほど経った現在では、后妃付きなどの高位の女官や高級宦官を除き、後宮に「易先生」の名を知らない者は居なかった。



ちなみに、彼女は同年代に比べて多くの知識を持っているが、占いについては全くの門外漢である。なんなら殆ど信じていない。

つまり雪英がやっているこれは、全くのインチキである。本質的には、占いではなく「相談」だ。


ありがたいことに、後宮には占いというものについてきちんと理解している人物はほとんど居ない。しかし、女性は本質的に「占い」という言葉のスピリチュアルな響きが大好きなのである。

これは古代から伝わる、格式高い書にもそう書いてある。

「占い」の場でこう話すだけで、信じてしまう人が大勢居るのである。残念ながら、後宮は雪英のようにちゃんとした教育を受けた者ばかりでは無いのだ。

雪英にも良心はあるので相談者の言い値で受けることにしているが、相談料として貰った地方の菓子を、別の地方出身者に売るなどして、偉い人に見つかればしっかり叱られる程度には利益を得ていた。それでも雪英にとっては小遣い程度なのだが。



雪英は休日の前の晩に、客を取る。

この日もまた、雪英は明日の三時のおやつ確保のために、神妙な顔をして相談者の話を聞くのであった。

雪英は甘味にも目が無い。




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