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宇宙人の侵略で地元の景色が崩壊していく最中、思ったこと

作者: 山村平吉

地元の景色が崩壊していく。

円盤に撃ち落された防衛軍の戦闘機が次々と、山々に、河岸段丘に、突き刺さっていく。どす黒い煙が立ち込めていく。

そんな状況を目の当たりにしながら、何の感傷も湧いてこない自分は、つくづく、他人事に、物事に、興味もこだわりも思い入れも持てない人間なのだと思った。

側で甥っ子が、見たことのない光景にどうしていいかわからず、どう感情表現していいかもわからず、怯えるともぼんやりしているともとれないような表情で、震えていた。


盆休みで遊びに来ていた甥っ子が、窓からみえる夜空を指さして不安げな表情をしていた。

不思議な光を発している星が観える。周期やら何やらであんな風に見えているのだろう、なんてわかりもしない天文現象に勝手な理屈をつけて納得してしまっていた。

「キレイだね」

とりあえず、こう言っとけばいいかと、甥っ子と星を眺めた。


33歳、独身、実家暮らし、年収170万。

仕事を辞めようかと思っていた。理由は今の上司がキライだから。何度目の転職になるか。これといったスキルも積んでいない。スーパーの販売員、工場の作業員、病院の清掃員と、その都度、その場しのぎで職を転々としていた。

大学は出ているもの、教員にも公務員にもなりたくもなく、資格を取るでもなく、ただ奨学金という名の借金だけを背負って、社会人になってしまった。

極力、人と関わりたくなかった。

卒論のテーマは「神社の向きと周辺地形との関係について」。いわゆる神仏の鎮まる場所が本当に安全なのか、それを通して災害地形の理解へのインターフェースになるのではないか、なんてことを一時、本気で思っていたこともあった。

当時の教授からは、現在の神社の分布は江戸・明治の統廃合や、災害時の倒壊と再建などを経て、何度も移転してしまっているものが多く、古来からの立地地点を継承しているかどうかは定かではないので、あまり意味はない、と言われた。言われたところで、別テーマでの考証やら、フィールドワークやら、ディスカッションやらをする気もなかった。

対象地域は地元にした。南北を走る川を中心に、東西に河岸段丘の地形が展開し、点在する各神社は、概ね東西の景色を一望できる位置に立地し、本殿からの向きも、互いの方向を見合うかのようになっている。いわゆるランドマークとしての機能、時代によっては交易や軍事などの拠点としても機能していたのかもしれない。

神社を回って、地図に向きを記入して、各神社の祭神や歴史を羅列していくだけで、字数も埋まったので、そのままのテーマで提出した。

神社を回る中、ぼんやり景色を眺めてるだけで仕事にならないものかとも思ったが、そんなことが成立するわけがない。繊細に描写できるような文章力やら、撮影技術やら、絵画表現やらができるわけでもない。

仕方なく就職し、イヤになったらヤメ、実家に戻って、低収入で、その日をやり過ごすような生き方しかできなくなってしまっていた。


時間帯の不規則な仕事に就いていることが多かったため、妹夫婦の結婚や出産に関しても又聞き程度にしか知らなかった。大きくなっていた甥っ子と鉢合わせても、人見知りされてしまっていた。

実家の居間でテレビを観ていた甥っ子が、自動車のCMを観て、指をさして飛び跳ねているのを見かけて、押入れにしまってあったミニ四駆を見せてあげた。フォルムにじっと見入っていた。

スイッチを入れると、焦げ臭さが広がり、空回り気味にノロノロとしか走らなかった。当時の流行に乗ったつもりで買ってもらったものの、ろくな手入れもせず、放置してしまっていた。

それでも甥っ子は、一緒に走り出していた。


「この子に見つかってしまったね」

目線は星の方向のまま、甥っ子が、はっきりとした口調で喋りだした。

「明日には侵攻を始める予定なのだが、このことはどうか、防衛軍に通報しないでくれないか。そうしてくれれば、君や君の家族には危害が及ばないように配慮しよう」

「……よくわかんないんですけど、とりあえず、その子から離れてくれませんか?」

「急なことで失礼した。我々は、この星とは別の恒星系から来た者で、最小限の攻撃で降伏させ支配下に置き、それぞれの星の知的生命体たちとのネットワークを築いてきた。今回、この星を支配するにあたり、この地域への侵攻が決まった」

「……なぜ? っていうか、まず、その子から離れてくれませんか? 言ってること、理解できてます?」

「なぜかということについては、この土地が美しいから。先遣隊による調査で、この地の自然と文化の調和が、実に絶妙である、ということがわかってね。それゆえに、侵攻した際のセンセーショナルは絶大となるであろう、降伏勧告もよりスムーズに行えるであろう、ということから。この子については、心配はいらない。一時的にこの子の体を借りてはいるが、本人は眠りについている状態で、翌朝には元気に目覚めているよ」

朝、甥っ子が、空回り気味のミニ四駆と一緒に走り回っていた。

約束は守られたのだと、ほっとした。


目が開けにくくなり、息が苦しく感じられるようになってから、やっと今がヤバいことになっていることに気づいた。一般人の命など気に掛けるわけがない。

甥っ子の頭を守るように、胸に抱きかかえる。

「大丈夫」

とりあえず、こう言うしかない。何の根拠もない言葉を投げ掛けながら、せめてこの子だけは救われてほしい、なんて途方もない望みを、今更ながら思った。


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