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散華

〜仲村渠視点


 鈴代達が第2中隊の救援で出撃して行った。

 第1中隊のメンツだけじゃなくて、超強力助っ人の天使エンジェル中尉も一緒だ。

 きっと、いや絶対に無事に任務をやり遂げて意気揚々と帰ってくるだろう。


 そして残された者には、残された者の仕事が残っていた。


「さ〜て、んじゃ改めてまどかちゃんのカウンセリング始めましょうかね」


 久しぶりに輝甲兵を弄れるとあってシナモン姉さんは、張り切って丙型のコクピットに乗り込み、アンジェラシステムの入った端末を繋いだ。

 あたしは丙型の腹部ハッチに腰掛けて、その様子を見物する。


 すると一気に姉さんの端末のモニターに大量の会話ログが現れた。

 なんでも71(ナナヒト)やまどかとアンジェラは共に電気信号で会話できる為に、そのやり取りは通常会話の数十分の一の時間に短縮できるらしい。


 細かい会話は割愛するけど、大まかに言って喧嘩しているように見えた。

 喧嘩と言うと語弊があるけど、必死に宥めようとしているアンジェラをまどかが『アンタには関係無い、どうせ理解できない』と拒絶している様だった。

 しばらく押し問答が続いたけど、終いにはアンジェラも『もう知りません!』と匙を投げていた。


「うーん、71(ナナヒト)くんから『この2人は仲が良くない』って聞いてはいたけど予想以上だねえ。だから女同士って難しくてイヤなんだよねぇ…」


 姉さんがボヤく。女が幽炉の中身になる事はとてもレアだそうだ。

 男相手ならアンジェラみたいな可愛くて尽くすタイプはモテるだろうけど、女から見るとああいう男受けするタイプは総じて嫌われやすい。

 まぁ、まどかがアンジェラを嫌いな理由がそれかどうか分からないけどね、


「なぁ、姉さん。そしたら思いっきりイケメンの、男性タイプのアンジェラも作ってみたら良いんじゃないかな? それならまどかも心を開くかも知れないぞ?」


 あたしの提案に姉さんの眼鏡の奥がキラリと輝いた。

「なるほど! それは名案だね! 今晩あたり作ってみようかな、香奈ちゃん、どういうタイプが良いと思う?」


「えー…? あたしはねー、マッチョが良いなぁ。スポーツジムで作った見せる為の筋肉じゃなくて、格闘技で作り上げた戦う男の寸胴な筋肉が好きなんだよねぇ」


「おぉー、さすが香奈ちゃん、渋いところ突いてくるねー。じゃあ後で一緒に作ろうよ!」


「それは良いけどさっき本国コロニーから帰ってきたばかりなのに元気だねぇ…」


「ニャハハ、好きな事なら幾らでも頑張れちゃうのだぁ」

 無邪気に笑う姉さん。

「でもさぁ、もしまどかちゃんが別の幽炉の心が分かるのだとしたら、幽炉同士の心を繋ぐ一大ネットワークが出来るかも知れないよね」


 そうなれば良いなぁ、と本気で思う。


 今はまだ夢物語だ。でもいつかきっと、まどかが元気になって色々と出来る事と出来ない事が分かってくれば、人と幽炉の在り方も大きく変わって来るかも知れない。

 単なる戦いの道具じゃなくて、鈴代たちみたいなパートナー同士として付き合っていく時代になるかも知れない。


「そうなったら、凄い時代になるかもなぁ…」

 明るい未来に夢を馳せ、あたしも呟く。


「もしかしてまどかちゃんの力を使えば世界中の幽炉を目覚めさせる事が出来るかもね。想像するだけで胸が熱くなると思わない? 香奈ちゃん?」


「思うよ。メッチャ思う!」

 あたしが元気に発言した、その時だった。


「全員動くな! こちら保安部だ! 高橋逸美技術大尉は居るな?!」


 大きな声と同時に数人の武装した兵士が格納庫に入ってきた。高橋逸美技術大尉ってシナモン姉さんの事だよね?


 状況が理解できずにお互いを見つめるあたしと姉さん。

 姉さんは考え込むような顔をしながらも手だけは端末を操作して何やらやっている。


 姉さんが丙型のメンテをしているのは秘密でも何でもない。程無く保安部の皆さんが丙型の乗降タラップを駆け上がって来た。

 全員が銃を構えてあたしと姉さんに向けている。あたし達は両手を上げて無抵抗の意思を示す。


「高橋大尉、貴方には不正手段による機密情報入手、並びにそれらの情報を外部に漏洩したスパイ容疑により、縞原重工から告訴され、連合政府より逮捕状が出ています。そのまま両手を頭の後ろに付け、何も持たずにコクピット(そこ)から出て来るように」


 その言葉を受けて姉さんが『アチャー』という顔をする。え? 何か心当たりがあるのか? あたしらに黙ってスパイしてたの?!


 やっぱり縞原重工の人は信用出来ないの? あれ? でも縞原重工から告訴されているんだから、縞原から情報を盗んだの…?


 どういう事だ? あたしの出来の良くない頭がショートしかけていた。


 そのまま姉さんは保安部に逮捕され、丙型機内の姉さん愛用の端末も取り上げられた。

 あたしも重要参考人と言うことで拘束こそされなかった物の、連行され取り調べを受ける事になった。


 それから姉さんとの出会いから始まって、今まで交した会話の端々までを話すように言われた。

 極力正確に答えたつもりだが、人の記憶なんて結構曖昧だ。ましてやあたしの足りない頭じゃ尚更だ。


 30分程話をさせられて解放されたら、同じタイミングで隣の部屋から長谷川隊長が出てきた。隊長も私同様に取り調べを受けていたのだろう、かなりゲッソリしていた。

 鈴代が帰ってきたらやっぱり取り調べを受けるんだろうな……。

 お互い目を合わせて「ハハ…」と力なく笑った。


 この先当分の間、あたしたちには監視が付くそうだ。尤もこちらは姉さんから何か機密事項を教えてもらった覚えは無い。

 しかし、姉さんの研究はかなり特殊な物だったから、姉さんが何気なく漏らしていた言葉に何か重要なヤバイ機密が有ったのかも知れない。


 取り調べ官の話だと、姉さんは先程乗ってきたシャトルで本国へ送還され、本格的に取り調べを受けるらしい。


 姉さんとはもう会えないのかな…? だとしたら悲しいな……。


 …などと言う感傷に浸っている暇もなかった。



 突然大きな警報が鳴り、緊急放送が始まった。

「空襲警報、空襲警報、所属不明機が当基地に接近中。全輝甲兵操者は至急格納庫に集合、迎撃せよ! 繰り返す…」


 あたしと隊長は再び目を合わせ、今度は2人とも力強く頷いて格納庫に走った。


 第2中隊は哨戒中、第1中隊の動ける奴はほぼ全員第2中隊の救援に向かった。

 あたしと隊長を含めても第1中隊で動けるのは4機だ。


 と言う訳で、実質基地の防衛は公休中の第3中隊が中核になるのだが、休みですぐに動ける人間が少なかったのか、集まりが良くないらしい。

 それでも準備の出来た機体から順次空へと上がっていくのが基地棟の窓から見えた。


 その瞬間、大地震が来たかの様に基地全体が揺れた。そして間を置かずに爆発音が立て続けに10回近く轟いた。基地が爆撃を受けているようだ。


 基地のレーダーに捉えられて警報が鳴ってからの時間が短すぎる。余程用心深く低空を侵入してきたのか、或いは超スピードで突っ込んできたかのどちらかだろう。


 前者ならまだ可愛いけど、後者なら心当たりは1つしかない。それは今一番来て欲しくない相手だから……。


 取り調べ室のある基地棟から格納庫に行くまでに、ほんの20メートル程だが屋外に出る廊下がある。


 その道を通り掛かった時に、あたしと隊長はハッキリと見た。

 赤い光に包まれて、両手に『く』の字に曲がった大きな剣を持ち、頭からビームを発して基地を焼いている『輝甲兵』を……。


 そしてその速さと動きの特徴から、アイツが『鎌付き』だと言う事も直感的に分かった。


 あたし達の敵は本当に輝甲兵だったんだ……。


 24(フタヨン)式とも30(サンマル)式とも違う、零式の様なヒーロー然としたデザインでもない。

 強いて言うなら24(フタヨン)式をよりマッシブにして、肩幅と腕の長さを5割増しにした様な、見た事もない異形の機体、それでもあのキラキラ輝く外装は、紛れも無く輝甲兵その物だった。


 信じていなかった訳じゃない。全ての状況証拠は間違い無く《《それ》》を指し示していたのだから。

 でも心のどこかで信じたくなかった、人間同士がまだ戦争していたなんて思いたくなかった気持ちはあったんだ。


 でも現実は残酷だね。

 初めてこの目で『虫』を見た感想がそれだったよ。


 周りの基地職員達もパニックを起こす者、呆然と立ち尽くす者、様々だ。


「相手は『鎌付き』だ。お前は上空に退避していろ。そろそろ零式や鈴代が帰ってくるはずだ」


 長谷川隊長の指示が、いや命令が飛ぶ。

 一瞬逡巡したあたしは直ぐに隊長に向き直り頷いた。


 あたし達は自分の機体に急ぐ、丙型の管制能力を使えば寡兵でも強敵相手に戦える。味方を無駄に死なせるわけにはいかない。


 でも今回はそれはNGだ。

 確実に勝てない相手と戦う時、丙型は『生き残る』事が至上命題になる。

 味方を見捨ててでも、己だけを生かす。それが丙型乗りの宿業だ。


 長谷川隊長以下2名が発進、第3中隊と共に『鎌付き』と相対する。


 あたしもおっとり刀で丙型に乗り込み接続する。


「まどか、聞こえるかい? ゴメン、また敵が来ちゃったんだ。あたしらは上に逃げるからね」


「…あの、スミマセン。まどかさんは今、目と耳を塞いで外部情報を遮断しようとしています。もう既にここで撃墜された輝甲兵の『痛み』を感じているみたいです…」


「ん? お前アンジェラか? 何でここにいるんだ? 姉さんの端末は保安部に持って行かれた筈じゃ…」


「それがですね、身の危険を感じたシナモン博士が、先程私を丸ごと丙型の中に移したんですよ。以前まどかさんの覚醒実験の時に、丙型の中に私の外郭だけのコピーを作っておいたのですが、偶々《たまたま》それが功を奏して、今回私の避難所になった、と言う訳です」


「…よく分かんないけど、今お前が居てくれるのは心強いよ。まどかの様子を見てやっててくれ」


「了解です!」


 そうして丙型あたしは『鎌付き』の隙を見て上空に飛び込んだ。


 とりあえず上空1万メートルまで上昇する。相変わらずまどかは喋らない。この距離がまどかにとっての安全圏なのかどうかすら分からないのは、かなり不安だ。

 そしてこうしている間にも第3中隊の面々は『鎌付き』に文字通り刈られていっている。


「アンジェラ、まどかの様子はどうだ?」


「…相変わらずですねぇ。無言のままずっと耳を押さえてうずくってます。見てて痛々しいですね…」


 10キロ離れてもまどかは苦しんでいるのか? もっと離れた方が良いのかな…?


「時にアンジェラ、シナモン姉さんがスパイ容疑で逮捕されたんだけど、何をやらかしたのかお前知ってるか?」


「詳しくは私も何も… ただ可能性としては、真柄まがらさんを通して幽炉ドナーの情報を集めていたので、それじゃないかな? としか…」


 真柄さんって誰だ? と聞こうとした所で零式や鈴代達が帰還したのが確認出来た。

 アンジェラに話を聞くのは後でもいいか。

 鈴代や零式と合流した方が安全と考えたあたしは、丙型を下降させる。


 下方では零式と『鎌付き』、2機の特機が決闘していた。やはり機械の目を通してみると、先程のゴツい輝甲兵は虫に見えていた。


 慎重にタイミングを見定め、鈴代に通信を送る。


「鈴代! 戻ってきたのか」


「香奈さん! 無事で良かった。一体何があったんですか…?」


 鈴代のホッとした気持ちが伝わってくる。心配して貰えてたんだな。


「隊長に上空に退避するように言われてたんだよ。姉さんがヤバい事になって、間を置かずに襲撃があったから、あたしも状況は掴めてないんだ。あたしも丙型も無事だけど、まどかがグッタリしててね…」


 そう、またまどかを戦場の真ん中に連れてきてしまった。

 今現在、『鎌付き』の相手は零式がしてくれているから、他の機体が痛い思いをする事は無いと踏んでの下降だったが、この判断は正しかったのだろうか…?


 打っては離れ、をしながら遠くまで飛んで行った特機の2機がこちらに戻って来た。


 そして『鎌付き』が丙型あたしを見つけた。零式を無視してこちらに切り込んできた。


 馬鹿じゃないのアイツ? 零式に背を向けてまであたしに粘着する理由があるのかな?


 2本の鎌が振り下ろされる。ヤツは幽炉開放してるけど、今のあたしには『線』が見えた。

 ギリギリだったけど躱せた。これ以上まどかに負担をかけさせる訳にはいかない、幽炉開放は絶対に出来ない。


「…浮気してんじゃねーよ、ゴラァ!」


 天使エンジェルの声だ。オープン回線で聞こえてきた。そりゃあ面白くないよね、分かるよ。

 でもあたしは『鎌付き』と戦う気は毛頭ないからね、この厄介な『虫』はお返しするよ。


 また零式と『鎌付き』は打ち合いながら遠くへ飛んでいく。鈴代があたしを守る為に盾になってくれていた。


 しかし、特機2機の戦いは凄まじい。あたしだけで無く他の、渡辺さんや武藤さんといった面々も入り込む隙を見つけられないでいる。


「ありゃあ手が出せないね…」


 あたしの言葉が聞こえたのか、『鎌付き』は零式を弾き飛ばし、再びあたし目掛けて突進してきた。


 ガシンっ!!


 鈴代があたしを庇う様に『鎌付き』の突進を受け止め、『鎌付き』の腹に短機関銃(サブマシンガン)をしこたま撃ち込んだ。


 ヒュー! カッコイイね、惚れちゃうね。鈴代にだったら抱かれても良いよ!


 まぁそれで鈴代達は吹き飛ばされた訳だけど、全然カッコ悪くなんか無かったよ。


 鈴代の作った隙に渡辺さんと武藤さんが追い込みをかける。そして突撃してきた零式の鉈が『鎌付き』の腹に食い込んだ。


 位置的に操者はそのまま串刺しになったかも知れない。もしそうならあたし達の勝ちだ。

 操者が人間だろうが何だろうが、基地の仲間をたくさん殺したのは許せないからね。


 だが大きくよろめいた物の『鎌付き』は落ちなかった。そのまま体を痙攣させ、溜めた力を一気に吐き出す様に

「ガァァァァァァァッ!!!」

 と大きく叫んだのだ。


 声が機体を震わせる。純粋に音波なのか別の何かなのかは分からない。

 ただの音波攻撃で輝甲兵が落ちるような事は無い。


 しかし、今あたしは輝甲兵を動かせないでいた。

 接続している感覚は確かに残っている。

 でも幽炉の出力が限りなくゼロになっている。これではいつ墜落しても不思議では無い。


 現に3071(サンマルナナヒト)や長谷川隊長の3008(サンマルマルハチ)、そして零式や他の多くの輝甲兵は地上に落下していた。

 空に浮かんでいるのはあたしの丙型と他5機、そして動きを止めた『鎌付き』だけだった。


 そしておもむろにまどかが叫びだした。


《いやぁっ! 嫌っ! もう嫌ぁっ!!》


「まどか?! どうした? 何があった?」

 まどかのまさかの反応にあたしも戸惑う。


「仲村渠少尉、アンジェラです。今あの『鎌付き』から途轍もない悪意の放出がありまして、まどかさんはその直撃を受け、心神喪失状態にあります。危険です、至急降下して対処するべきかと…」


「そんなこと言っても丙型が動かないんだよ! おいまどか! 聞こえるか? 落ち着け、あたしが付いてるから! 必ずお前を助けてやるから!」


 まどかの返事は嗚咽の声だけだった。まどかの声を表現するかの様に丙型が苦しむ動作をする。


 今丙型を動かしているのはあたしじゃなくてまどかだ。


 そりゃあ輝甲兵を動かすのは71(ナナヒト)が出来るんだから、まどかに出来ても不思議はない。


 いつかはまどかにも輝甲兵の操作をさせてやろうと思ってたけど、まさかこんな形で実現するとはね……。


《もぉ止めて… もぉ許して… なんであーしばっかり痛い思いするのぉ…?》


「分かった、まどか。一旦遠くに避難しよう。少し落ち着けば具合も良くなるし、もうお前は退役させて縞原からお前の世界に帰してもらおう。絶対に約束する。だから丙型の主導権をあたしに返してくれ」


「まどかさん、とにかく一度落ち着いて下さい。深呼吸して…」


 あたしとアンジェラ、2人がかりで説得するが、まどかには聞こえている様子がない。悲しい泣き声だけが機内に木霊する。


《もぉヤダ… みんな、みんな『壊れ』ちゃえばいい! 『死ん』じゃえばいいんだ!!   ……みんなもそう思うよね…!》


「…何を言ってるんだ、まどか? それに『みんな』って…?」


「悪意に飲まれたら駄目ですまどかさん! それは『やっちゃいけない事』です!」


 アンジェラは何かを感づいた様だが、あたしにはさっぱり状況が飲み込めない。まどかが何かをしようとしているのか…?


《あーしは腕を切られたり首を蹴られたりした… みんなも撃たれたり切られたりしたよね…?》


 まどかを説得するべく声を上げようとしたあたしに罪悪感の棘が刺さる。出かかっていたあたしの声が止まった。


 やっぱりあの件、ずっと怒ってたんだね? いくら謝っても許してもらえないのは分かってるけど、やはりもう一度しっかりと謝罪したい。

 その為にもまどかには落ち着いて貰わないと……。


《じゃあ、『せーの』で行くよぉ。『せーの!!』


「ダメですっ! まどかさんやめてぇっ!!」


 まどかとアンジェラ、その重なる声と同時に輝甲兵の腹部乗降ハッチが勝手に開き、体を腰で固定しているフックが外され、体が輝甲兵から離れる。



 そしてあたしは空に投げ出された……。



 周りの何人かもあたしと同様に輝甲兵から『捨てられた』ように見える。


 今は高度500メートルくらいかな? あぁ、これもうあたし死亡確定だよね……。

 痛いのはイヤだなぁ。そんでもってグチャグチャになるのもイヤだなぁ……。


 それ以前に死にたくないなぁ……。


 …でもまどかは悪くないからね? 全部あたしがまどかに強要したせい。


 あの娘はただの高校生だった。戦いなんて望んでなかった。

 嫌がってたあの娘を無理矢理戦場に引っ張り出したのはあたしだ。

 あたしは『まどかを守ってみせる』とか大口叩いて、結局あの娘を苦しめていただけだった。


 これはあたしに与えられた罰だ。

 その罰は潔く素直に受け入れるよ。


 でもね、この香奈さんはただじゃ死なないよ。

 今からあたしに許された数秒間で、この香奈さんの最後の『生き様』を運命の神様とやらに見せつけてやるんだ。


 回転し、捻りを加える。それを繰り返す。あたしのやりたかった空中ダンスチームの振り付けだ。

 いつでもチーム結成出来るように、もうすでに振り付けを考えていたんだよ。


 3071(サンマルナナヒト)が見えた。あいつら地面に落ちたと思ったけど、あたしを助けようとしてるのかな? 高速化して一直線にこちらに向かってくる。


 無理だよ。

 間に合わないよ。

 遠すぎるよ。

 …でもありがとう。その気持ちは凄く嬉しいよ。


 ごめんな、鈴代、ダンスチーム出来なくなっちゃったよ。

 ごめんな、71(ナナヒト)、鈴代のフォローしてやってくれな。


 3071(サンマルナナヒト)が手を伸ばす。だけどその手とあたしの距離は余りにも離れ過ぎていた。


 ありがとうな鈴代、ありがとうな71(ナナヒト)


「バイバイ…」


 あたしは笑顔で手を振った……。

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