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桃谷涼君は入学直後に少し噂になっていた。スポーツ推薦じゃないのに、バスケ部に入部早々レギュラーになったすごい一年生がいる、と私も聞いたことがある。
そんな桃谷君は調理科ではなく普通科の生徒で、愛佳ちゃんの幼なじみだ。直接会ったことはないけど、愛佳ちゃんがたまに話してくれる。
高身長でかっこいいけど、無愛想で口下手な彼は周りの人に怖がられているらしい。でも愛佳ちゃんの前では素直でよく笑う人なのだと。
趣味は筋トレで意外と甘いものが好き。
調理科じゃないから一般教科のパラメーターを上げるのが有効で、好感度は幼なじみ補正のおかげで上がりやすく……。
はい、桃谷君も攻略対象です。
環君に話を聞いて、その時は驚いた。
でも、冷静に考えてみると、別に大した問題ではない。本命以外の男の子の好感度が上がるのなんて珍しいことでもない(特に桃谷くんは何もしなくても勝手に上がってしまう)し、単純に愛佳ちゃんが二人とも好きで決めかねている段階なのかもしれない。
私は変わらずに見守ろう。
そんなことを考えながら、私は調理実習室にいた。
目の前の寸胴鍋の中では鶏ガラスープがぐつぐつと煮えている。額の汗を拭いつつ、私は小皿にとったスープを味見した。
うん、いい感じ。
季節はすっかり秋。もうすぐ文化祭がある。
調理科のクラスは言わずもがな食べ物の模擬店をするわけで、うちのクラスはラーメンの屋台を出すことになったのだった。
私は張り切っていた。ラブアラの学校行事の中で文化祭は唯一間宮優希が活躍できるイベントなのだ。