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状況が変わりはじめたのは夏休みが明けてすぐのことだった。
すっかり習慣化した愛佳ちゃんとの勉強会のあとに、今日は少し寄り道をした。
月に一度だけ美味しいと評判の移動式メロンパン屋さんが駅前に来る日だったのだ。無事に入手し、近くの公園で焼きたてメロンパンにありついた私たちが満足して帰路につくと、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
店の入口から中を覗く。いつもは裏口から入るけど、誰もいないことを確認したのでそのまま入る。
「ただいまー」
カウンターの奥から「おかえりなさい」と声がする。両親の声ではない。
「今日は遅かったね」
ひょっこり顔を出した金髪の男の子。帰るところだったのかすでに学校の制服に着替えていた。
去年からうちでバイトをしている桐ヶ谷環君。
同じ高校で、環君も調理科の生徒だ。
「愛佳ちゃんとメロンパン食べてきたの」
「いいなー!俺の分は?」
「ないよ」
環君が「ずるい」と口をとがらせた。
環君はフレンドリーで明るく、社交的な性格をしている。学年は一つ上だけど、そう感じさせないくらい話しやすい。
「愛佳ちゃんってあの子だよね、ピンクのカーディガン着てる髪の毛がふわふわの……」
私は頷いた。
愛佳ちゃんは夏でも薄手のカーディガンを羽織っている。ピンクのカーディガンを着ている人はなかなかいないから遠くにいてもすぐに見つけられる。
ふわふわの髪の毛は天然パーマらしい。愛佳ちゃんの柔らかい雰囲気によく合っていると思うけど、愛佳ちゃんは私の直毛が羨ましいと言っていた。
「この間見かけたんだよね。男の子と二人で帰ってるとこ」
高遠君のことだろうか。好感度が上がれば、一緒に下校しようと誘われる確率が上がる。
しかし、私の予想は外れていた。
「背の高い奴で、どっかで見た事あると思ったらバスケ部にすげえやつが入ったって噂になってた……名前なんだっけ」
「もしかして、桃谷君?」
環君が「あー!そうそう」と言った瞬間、私の頭の中ではいろいろな情報が錯綜した。
それ以降の環君の言葉はあまり覚えていない。