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天気がいいからと愛佳ちゃんに誘われ、私達は中庭でお弁当を食べていた。
ここのところ、ずっと雨だったから久しぶりの日差しが気持ちいい。
「優希ちゃん、これ食べてみて」
お弁当を食べ終えると愛佳ちゃんが小さな容器を差し出してきた。
私は素直に受け取り、蓋を開ける。
中には一口サイズに切られた美味しそうなチーズケーキがいくつか入っていた。
「さっきの実習で作ったんだ」
「もらっていいの?」
「もちろん。私は食べたから、優希ちゃんの感想が聞きたくて」
私たちは調理科なので、一般教科の他に調理関係の授業がある。週に一回の調理実習はクラス内の班ごとに別々の先生から教えて貰っていた。和食や中華、フランス料理など専門の先生がいて、ローテーションで交替する仕組みになっている。
愛佳ちゃんの班はデザートの実習だったらしい。
チーズケーキをひとつ口の中に入れると、優しい甘さがふんわりと広がった。
「うん、美味しい」
不安そうに私を見ていた愛佳ちゃんの顔がほころぶ。
「良かった、優希ちゃんにそう言って貰えると嬉しい」
愛佳ちゃんは実習以外でも、たまに「味見して欲しい」と私にお菓子を作って来てくれる。
理由は多分、私の家がケーキ屋さんだからだ。
私の家は愛佳ちゃんの通学路の途中にある。お客さんとして何度かケーキを買ってくれたこともあるようで、手伝いとして店にいる私の顔を覚えてくれていた。入学してすぐに愛佳ちゃんの方から声をかけてくれたのだ。
「あ!」
昼休みも残り10分というところで突然思い出す。
そういえば担任に呼び出されてたんだった。
急に大きな声を出した私に愛佳ちゃんが目を丸くしている。
「ごめん、職員室行ってくる。日直の日誌取りに行くの忘れてた」
「私も行こうか?」
「大丈夫、愛佳ちゃんはゆっくり戻ってきて!ケーキ全部食べれなくてごめんね」
少し残っているチーズケーキを愛佳ちゃんに返して、私は急いで校舎に戻った。
早歩きで二階の廊下を進んでいる途中、窓から中庭が見えた。愛佳ちゃんはまださっきの場所に座っている。
そして、私が座っていた場所には見覚えのある男の子が座っていた。